7-1.人型メカ――日本人のロマン
メカと言ったら何を置いても人型にこだわる日本人。そこに溢れるロマンは日本人の感性を惹きつけてやみません。
では、最強の人型メカは果たして何なのか!? 日本人が抱くロマンの明日はどっちだ!?
人型メカは日本人のロマンと言っても過言ではないでしょう。ロボット作らせたら何をおいても二足歩行に飛びつくわ、ヒーロー・メカといえばサンダーバードでもなければX-ウィングでもなくまずマジンガーZだわで、もう何なのってくらい日本人は人型にこだわります。
“最もナチュラルな感覚で操れるのは、自分に一番近い形”という理屈をつけることもできるでしょう。 ヒトこそ進化の最先端――そういう欲目もあるのかも知れません。でも不安定じゃね? とか可動部分地味に多すぎて制御に困らね? とかの突っ込みどころを風と流してQRIOとかASIMOとか作っちゃうのが日本人です。(※1、※2)
表題作『テーマ1.完全義体とパワード・スーツ、どっちが強い? ~電脳化と拡張現実の可能性~』でも触れた話ですが、「勝敗の基準そこ!?」と面食らわれた方も多いと思います。「もっとロマンに溢れた話しようよ!?」とかいう欲求が私の中にないわけでもありません。
では、その日本人的ロマンを【SFエッセイ】的に突き詰めるとどうなるのか――最強の人型メカは、では何なのか? ――今回はその思考実験。よろしくお付き合いのほどを。
まず、一口に“人型メカ”と言っても、日本人が創造するものは大から小まで多種多様。
小は“世界最小の量産人型ロボット”こと“i-SOBOT”(タカラトミー製、身長16.5cm)。(※3)
大は……もうどこまでもアリって話があるようで。とりあえず実感が湧く範囲で言うなら、『超時空要塞マクロス』における“マクロスSDF-1強攻型”(全高1200m)ってところでしょうか。(※4)
……と、何をもって“最強”と呼ぶのか、こうなるとはなはだ心許ありません。
ですので、まずルールを決めましょう。
・人型であること(二足歩行し、かつ二本の腕を持つこと):もう大前提ですね。これは譲れません。
・あくまでヒトが操縦すること:人工知能の補佐はまだしもアリとして、判断・操縦するのはあくまでヒトという条件です。この辺はロマンですね。ゆえに譲ることはできません。
・既存の作品に囚われないこと:ここにこだわっちゃうと、作品ごとに“世界最強!”が溢れ返っちゃうことになりますので。
・作動原理が【SFエッセイ】的に説明できるものであること:さすがに宇宙創生までやってのける“イデ”の力とかを持ち出されちゃうと勝負になりません(笑)。ここは現実的なアイディアで勝負としましょう。
・科学技術水準は同等であること:前項とかぶりますが、要するに人型メカを構成する素材や駆動方法、動力源には、お互い対等な科学技術水準で最良のものを起用するものとします。科学技術水準のギャップによる有利不利はこれを認めません。
・相手に勝てる理由が論理的に検証できるものであること:勝てる理由が“神の力!”とかになると、泥沼の宗教戦争が勃発しかねませんので。
・飛び道具禁止:大艦巨砲主義で勝負するなら、人型にこだわる理由はこれっぽっちもなくなります。ひたすら巨大で精密なレーザ砲でも無重力空間に浮かべれば済む話。日本はチャンバラ万歳のお国柄でもありますし、ここは“手の届く範囲で勝負する”、という方式を取りましょう。剣のように長さが有限の得物はアリと考えます。ただし、剣は剣でも“イデオン・ソード”とかは無限に伸びちゃうので反則扱い。せいぜい身長と同等程度に留めましょう。何よりライト・セイバーをはじめとする光線剣は動作原理が曖昧なので反則扱いです。実体のある武器がせいぜいですね。
・装甲は破片よけ程度であること:飛び道具を禁止したのと同じ理由で、装甲にも制限を課します。ひたすら防御力を追求するなら、ここにも人型にこだわる理由はありません。“デス・スター”でも浮かべておけばいいのです。これではロマンがありません――日本人的に。ただし、拳や足、それに剣といった“目標にぶつける部位”には充分な強度を持たせてあるものと仮定します。
・戦場は1Gの重力下、1気圧の大気中であること:舞台が宇宙なら、何も人型である理由はありません。踏ん張りどころがないからです。よって地上、あるいはそれを模した空間での勝負を想定します。
・一対一の勝負であること:実はどんなに強くとも、雑魚に囲まれてフルボッコでは勝てる理由がありません。ランチェスターの法則によれば、多対一の戦いで一の方が勝ち残るには、敵の頭数の2乗に比例した単体戦力が必要になってきます。なら同じコストで勝負する条件であれば、頭数を揃えられる方が有利――という話に傾きます。(※5)
ところが悔しいことに、【SFエッセイ】としてはコストを弾き出すことができません、高度なテクノロジィの産物であっても、量産効果でコストは劇的に下がるからです。
ただし大から小まで同じ強度の材料で揃えることは可能です。科学技術としてはいずれも同等の水準にあるものとして扱うこと、これはすでにルールとして挙げました。
これを前提に、潔く一対一で勝負を決することとしましょう。
・操縦者の能力は全く同等であること:ここで差が出ては、【SFエッセイ】的にはもちろん勝負になりません。ここは、“操縦者は、その身体的・精神的能力を極限まで鍛え上げている”ものとして扱いましょう。同等にヘタレ素人を採用してしまっては、人型メカの潜在能力を存分に振るえないことにもなることですし。
さて、ルールが決まったところで勝負(考察)に入りましょう。
【脚注】
※1 https://ja.wikipedia.org/wiki/QRIO
※2 https://ja.wikipedia.org/wiki/ASIMO
※3 http://kaigainohannoublog.blog55.fc2.com/blog-entry-1143.html
※4 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3_(%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%B9%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA)
※5 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%81%E3%82%A7%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87
著者:中村尚裕
掲載サイト『小説家になろう』:http://ncode.syosetu.com/n0971dm/
無断転載は固く禁じます。
No reproduction or republication without written permission.