始まりの夢
――その日、夢を見た。
見渡すかぎりの草原。幼い兄妹が二人、仲睦まじく遊んでいる。
まだ小さな妹が、笑顔で兄に語りかける。
『お兄ちゃん! アタシ、大きくなったらお兄ちゃんと結婚する!』
ご都合主義な夢だった。
現実の俺の妹は――決して兄妹仲が険悪なわけではないが、逆にここまで睦まじくも、ましてやこんな風にまっすぐ好意をぶつけてこない。そもそも、兄である俺のことを好いてはいないだろう。だって俺は妹に、女の子に、何をしてやったら良いか、分からない。
ああ、夢の世界が現実だったら良いのに。
現し世は夢、夜の夢こそまこと――とは、上手く言ったものだと思う。
例えば、もしもの話、仮に。俺が、ある日突然、夢から覚めた現実ではない、どこか別の世界に転移したとして。少なくとも、転移した、と思えるような状況に直面したとして。本当は最初から異世界での生活が真実で、今までの現実世界の生活は夢だった、と言うことは考えられないだろうか。そうではないと、誰が証明出来るだろうか。
真相は、神のみぞ知る。
……いや。
もしかしたら神様だって、何も知らないのかもしれない。