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知っているけれど知らない女

「お、お兄ちゃん! カリバちゃんが二人いるよ!」


「あ、ああ」


 俺が愛した女だ。見間違うはずがない。俺のすぐ後ろにいるのも本物のカリバだし、今出会ったのも間違いなく本物のカリバだ。


「ふふ、忘れたのですか? ここは平行世界なのですよ」


 俺達の驚いた様子を見て、ここまで案内した女が微笑んだ。


「そ、そうか! 平行世界ってことは、あっちの世界にいる人がこっちにもいても何もおかしくはないのか! でもな……」


 ここにカリバが二人いる理由は分かっても、やっぱり納得できない。同じ人物が二人いる。そんなことを簡単に受け入れられるほど俺の脳は凄くない。


「お疲れ様でした。あなたはもう休んでいいですよ」


 俺の知っているカリバと同じ声で、目の前のカリバは女に告げた。


「はい、ありがとうございます。では、私はこれで。それであの、少し伝えておきたいことが」


 もう一人のカリバに、女は俺達に聞こえないようにひそひそと結構長い時間何かを伝えた。


「そ、そんなことが! なるほど、分かりました。一応今言ったことは全て書き記して私の部屋においておいてください」


 あっちのカリバがそう言って頷いたのを確認してから、女は一度俺達に軽くお辞儀をすると、どこかに行ってしまった。これであの女の役割は終わりってわけか。


「さて、まずはおかえりなさい」


 ミステの顔を見て、あっちのカリバはにっこりと微笑んだ。

 ミステはその微笑みを、ただぽかんと見つめ返した。


「その反応、どうやら記憶が無いというのは本当のことのようですね」


 少ししょんぼりと落ち込んだ様子でそう呟く。


「さて、分かっているとは思いますが、一応自己紹介しておきましょう。私の名前はカリバです」


「あ、ああ」


 分かっていたとはいえ、名乗られるとなんだか不思議な感じだ。


「あなた方も、よろしければ自己紹介の方を」


「そ、そうだな。えーと、俺の名前はカプチーノだ。よろしく」


「そちらの私は可哀想ですね」


 俺の名前を聞くなり、あっちのカリバはそう一言言い放った。


「え?」


「だってそうでしょう? なんですかこの男は。見た目もちっともかっこよくない。なんでそっちの私がこんな男に惚れているのか理解が出来ませんよ。かっこいいのは名前だけじゃないですか。私があなたの立場だったら、絶対にこんな男のことなんてどうとも思ってなかったと思います」


 カリバの口からカリバが絶対に言わなそうな言葉を浴びて、なんだか新鮮だ。にしても、ウインクのかかっていない女から見ると、俺の容姿はかっこよくないのか。異世界転移前は当たり前のように分かっていたそのことを、俺のことを好きな女に囲まれ続けていたせいですっかり忘れていた。


「な、何を言うのかと思えば! カプチーノ様を馬鹿にしているのですか!」


「馬鹿にしているのではなく、憐れんでいるのですよ。あなたをね」


「こ、この女、許せません!」


「ちょ、ちょっと落ち着けよカリバ」

 

 今にも飛びかかろうとしていたカリバを、慌てて抑えた。何お前らは自分同士で喧嘩しようとしているんだ。


「か、カプチーノ様はなんとも思わないんですか! 馬鹿にされているんですよ!」


「いやなんか、普通の人に言われたらくそムカつくんだろうが、カリバが言ってるのだと思うと全然嫌じゃない」


 カリバにならどんな暴言を吐かれても、俺は少しも傷つかない。


「そ、そんなこと言われたら照れてしまいます」


顔を朱くして、カリバはもじもじとした。こういう仕草が、また俺を惹きつける。


「うわぁ。自分と同じ顔の女が全く興味の無いキモい男にデレデレしているのを見ると鳥肌が……」


 俺のウインクを受けていないだけあって、言葉に全く容赦がない。というか、ウインクする前からカリバはここまで人を小馬鹿にするようなやつじゃなかったような。


「そこのアホは放っておいて、さっさと次の方の自己紹介をしてくれませんか?」


 よくもまあ自分と同じ存在に向かってアホとか言えるなこいつは。


「じゃあわたし! わたしはシスタ! お兄ちゃんの彼女であり妹!」


「あなたがシスタさんですか。なるほど」


 萌衣をじっくりと見て、何やら考え込む。なんだ? 萌衣に何か思うところでもあったのか? あ、そうか。さっきの萌衣の自己紹介が当たり前のように妹なのに彼女とか言っていたから理解が追い付いていないのか。


「で、私がシュカ」


「シュカ? はて、あなたは誰ですか?」


「誰って、シュカって言ってるじゃん!」


「シュカさん? ま、どうでもいいですかね」


「なんか私の扱い雑!」


 あっちのカリバは、全くシュカに興味を示さなかった。シュカだってとても魅力的な女の子なのに、シュカだけそんな扱いをされると俺も少しムッとしてしまうのだが、まあカリバのように小馬鹿にされるよりはマシか。


「で、最後にあなた。なんか聞いた話だと、ミステと名乗っているそうですけど」


『そう 私はミステ』


「本当に魔法文字で話すのですね。それにしてもミステ、ですか。なんでそんな名を名乗っているのでしょうか。記憶喪失だというのは分かりましたが、その名前だけはどうも引っかかります」


 そういや俺達をここに連れてきていた女も言っていたが、ミステってのは本名じゃないんだよな。


「そういえば、わたしが子供の頃好きだった絵本の主人公の名前がミステだったような」


「それは全然関係ないだろ……。ま、何かしら理由があることには違いないが」


 いつか記憶を取り戻した時、きっとその理由を教えてくれるはずだ。その時までは、誰もその名の由来を知ることはできない。


「で、あんたのことはなんて呼べばいいの? 2人ともカリバだと呼びにくいんだけど」


 素っ気なく扱われたのが気に食わなかったらしく、ちょっとツンツンとした口調でシュカは問うた。


「私のことをカリバと呼んで、そっちのカリバは「リ」を抜いて並び替えて呼べば済む話でしょう?」


「リを抜いて並び替える? えーと、「カリバ」から「リ」を抜くと「カバ」だから、並び替えると――バカ! 今度からはカリバちゃんのことをバカって呼べばいいんだね!」


「何を真に受けているんだ馬鹿妹。まああれだ。とりあえずエクスとでも呼べばいいんじゃないか? ほら、二人合わせてエクスカリバ―ってな」


「……」


 静寂が場を支配した。誰一人俺の後に言葉を発さない。


「って、なんで何も反応してくれないの? そんなに悪い?」


「そもそも、エクスカリバ―ってなんですか?」


「何ってそりゃ」


 あ、そうか。そもそもアーサー王伝説なんてもんは俺達の住む世界にしか存在していないのか。だから誰も反応してくれなかったのね。


「ま、とにかくお前はエクスだエクス!」


「嫌です」


「なんで!」


「あなたに名前を勝手に決められるのは不愉快だからです。とりあえずカリバ2とかでいいですよ」


「ほ、ほんとにそれでいいのか?」


 人の名前に番号を付けるとか、俺はあまり好きじゃないんだが。


「はい。変に新しい名前をつけられたところで、その名で呼ばれた時に私だと気付かない場合も考えられますので」


「確かにそれもそうか。じゃあ、これからはカリバ2って呼ぶからな。あと、二人の見分けがいつでもつくようになんか髪型とか変えといてくれ」


「一々注文が多いですね。まあいいですよ。もしそっちの私に間違えられてべとべとされたら最悪ですし」


 カリバ2は一々トゲを入れなきゃ話せないの? まあ別にいいんだけどさ。


「では、いつまでもグダグダ話していても仕方が無いので本題に入りましょう。今のこの世界の現状をお話します」

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