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新たなる世界

「分かりました行きましょう」


「返答はや!」


 説明を終えてすぐに、カリバは行くことを決めた。分かっていたこととはいえ、この即答っぷりには驚かざるを得ない。


「お兄ちゃん! わたしも大好きなお兄ちゃんとはもう絶対に離れないって決めてるから、当然行くよ!」


 そう言って萌衣は、グッと親指を立ててウインクした。ああ、言動といい仕草といい可愛いなあもう。結婚したい。あ、もうしてるんだった。


「私だって行くよ。ミステは大切な友達だもん! ミステのために頑張れるのなら、私はなんだってするよ!」


 カリバと萌衣だけにいい恰好はさせるまいと、シュカは身を乗り出してそう宣言した。ほんと、いいやつだよお前たちは。


「と、いうわけだミステ。ここにいる全員、お前の記憶を取り戻すために協力しようって決めた」


『あ』


「あ?」


「あり……がと」


「おう!」


 頭に手を乗せ、髪ごとくしゃくしゃと撫でてやった。するとミステは気持ちよさそうに目を細めた。


「それにしても、平行世界、ですか。創作物などではよく見ますが、実際に行くとなるとなんだか不思議な感じですね」


「私、異世界とか平行世界とか、そういうものは無いと思ってた」


「異世界はさすがに無いんじゃないですか?」


「そうかなぁ。平行世界があるならあると思うけど」


  シュカのやつ、中々鋭いな。

 俺はまだ、こいつらに異世界から来たことを伝えていない。いつか、伝えにゃならんよな。夫婦間で隠し事なんてよろしくない。


「そ、そんなことより早く行こうよ! 待ってるんでしょ?」


 異世界の話を、萌衣が慌てて逸らした。


「そうだな。皆、忘れ物は無いか? もしかしたら、平行世界とやらではシュカの瞬間移動が使えずここに簡単に可能性がある。世界そのものが違うからな」


「大丈夫! 何も持っていくものなんてないから!」


 それはそれで大丈夫だといえるのだろうか。まあ、俺も人のことを言えないんだけど。





「ここにいる全員が行くのですか?」


「ああ、そうだ」


「って、そこにいるのは!」


 カリバの姿を見て、客人は大きく驚いた。


「なんだ? カリバのことを知っているのか? というかそもそも、客人を出迎えたのはカリバなんじゃないのか? そんな今更驚かなくとも」


「いえ、私は出迎えておりません。メイドの一人が出迎えて、その後客人が来たことを私に報告したので、それを私がカプチーノ様に伝えたのです」


「そうだったのか。にしても、俺は知らないのにカリバのことは知っているのか?」


 カリバの知名度もそこそこあるが、だからって俺ほどではない。


「私にも色々あるのです、気にしないでください。にしても、私を含めて全部で六人ですか……」


 気にしないでって言われても普通気になるだろ。けどどうせ、いくら追及したところで絶対に教える気は無いんだろうな。

 はぁ……。ま、今は気になることがあったとしてもある程度は我慢するしかないか。


「で、なんだ? その言い方だと六人じゃ無理なのか? お前三人追加でいいって言ったろ?」


「言いましたが、正直分かりません。無理な可能性もあると考えておいてください」


「んなこと言われてもなあ。この中の誰か一人でも欠けちまったら、俺達は俺達じゃなくなっちまう」


 誰一人として置いていくなんてことはできない。必ず全員連れていく。


「それは分かっています。誰も置いていくつもりはありません。ただ、あれに六人乗せるのは初めてですので、失敗も十分にあり得るのです。でもまあ、多分大丈夫でしょう。ではついてきてください。私が使った乗り物に案内します」


「その乗り物ってのはどこにあるんだ? 遠いのか?」


「すぐ近くに持ってきていますので心配はいりません」


「ならよかった」


 女の言う通り、その乗り物とやらはトタースのすぐ近くにあった。丸い球体のそれは、とても世界を移動するような凄い代物には見えない。


「思ったよりも小さいね」


「だな。俺たち全員一緒に行くってのは、収容人数的な意味でもきついかもしれない」


 多分、本当にギリギリだ。中身がどうなっているかは知らないが、もし複雑な機械で中身を埋め尽くされているのだとしたら、もう入れないのは確定だ。


「収容人数なら心配いりませんよ」


 そう一言言うと、女は何やらリモコンのようなものを取り出し、球体に向けた。

 すると――ゆっくりと球体の一部分が消えていき、人が入れるくらいの穴が出来た。


 そうっと中を覗いてみると、そこには驚きの光景が広がっていた。


「な、なんにもないよお兄ちゃん!」


 球体の中身は、萌衣の言う通りすっからかんだった。機械どころか、椅子すら用意されていない。


「こ、これで移動できるのか?」


「はい」


「だ、だって。ボタンも何も無いじゃないか。そもそも乗り物ってのはもっと複雑な……」


「操作は全てこのリモコンにより行います」


 しれっと当たり前のように女は告げた。


「リモコンだけ!? 平行世界の技術力ってのはどうなってやがるんだ……」


「技術力はこっちとそう変わりませんよ。この機械は特別です。ささ、全員乗ってください。すぐに出発いたしますので」


「あ、ああ」


 言われた通りに球体の中へと入った。一面本当に何にもない。


「さて、全員乗り終わりましたね。それでは出発です」


「この人数で大丈夫そうか?」


「いえ、まだ分かりません」


「そうか……」


 頼むから失敗しないでくれよ。平行世界への移動の失敗とか、何が起こるか分かったもんじゃない。


「ん!?」


 女が何かリモコンで操作したところが見えたかと思ったら、突如身体が重くなった。この球体の中には俺達以外何もないはずなのだが、まるで背中に力士でもおぶっているかのように重い。正直かなり苦しい……。押しつぶされそうだ。


「や、やっぱり、これだけの人数を乗せると転移圧も物凄いことになってますね……!」


「転移圧? なんなんだそれは」


 口を動かすものきつい中、なんとか言葉を絞り出して尋ねた。


「平行世界へ移動するときに発生する力です。同時に移動する人間が多ければ多いほど強いです」


「お、お前が危惧してたのはこの転移圧ってやつだったのか!」


「はい。人数が多いと、転移圧で死んでしまう可能性もあり得るのです」


「な、なんだよそれ! 俺達死んじゃうのか!?」


「これくらいならおそらく心配はいりません。それに、もう着きますよ」


「ほ、ほんとか?」


 これ以上この状態が続くと耐えられそうにない。

 後ろからは、カリバと萌衣とシュカの呻き声が聞こえた。くっ、あいつらが辛いことが何よりも辛い。


「ほら、もう着きましたよ」


 急に、体が自由になった。まるで空を飛んでいるかのように体が軽く感じる。


「今外を出れば、そこはもうあなた達が先程いた世界とは違います」


 遂に平行世界ってもんに到着したんだな。さっきの転移圧は辛かったが、あれを乗り越えた今はちょっとワクワクしている。一体どんな世界が広がっているんだ?


「では、開けますよ」


 壁の一部に穴が開き、ゆっくりと人が通れるくらいの大きさまで広がっていく。


「――こ、これが、平行世界!?」


 穴の外に見えた光景は、とても人が住めるような場所では無かった。この光景は知っている。俺がかつて救った街、リエカと同じだ。


「な、なあ。なんでよりにもよってこんな荒れている街に来たんだ? せっかくの新しい世界への第一歩なんだぞ、もっと美しい街に到着してくれればよかったのに」


「何を言っているんですか? 私達の住む世界は、どこの街もここと変わりません。ここだけが荒れているのではなく、世界そのものが荒れているのですよ」


 さも当然のように、女は顔色一つ変えず淡々とそう述べた。

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