ずっと一緒
果たして、ミステの過去は一体どのようなものだったのだろう。
初めて出会った時、ミステの周りには誰もいなかった。なぜ、誰もいなかったのだろう。
ミステはまだ幼い。はっきりとした年齢は分からないが、少なくとも見た目はまだ小学生くらいだ。普通そんな女の子を一人にさせるか? ミステの親は一体何を考えているのやら。
俺が、守ってやらねーとな。過去がどうだったかはまだ知らないが、今は俺がいる。ミステが何かに立ち向かうなら、俺も立ち向かう。ミステが俺達との共生を望む限り、ミステは一人じゃない。
「ミステ、いいんだな?」
客間へと近づき、ミステに最後の確認をした。あの女が何者であろうとも、今日この時はミステにとって何かをもたらすに違いない。
こくり。とミステは決意に満ちた目で頷いた。どうやら覚悟はできてるみたいだな。じゃあ、行くか。
「待たせたな」
扉を開け、待っていた客人に声をかけた。
「あ!」
ミステを見た瞬間、客人は大きく目を見張った。
「本当に、ここにいたんですね!!」
「ミステ、この人を知っているか?」
もしかしたらこの女を見て何かを思い出すかもしれない。そう思ったのだが、俺の質問にミステは首を振った。
「知らなくても無理ありません。何せ私は、何十といるメイドの内の一人にすぎないのですから。彼女にとって私は、ただのモブキャラです」
「そうなのか? じゃあなんのためにミステの元に来たんだ?」
ミステとそれほど親しい関係でもないのに、どうして。
「遂にあるものが完成いたしましたので。それが完成するまでは、私はここに来れなかったのです」
「そのあるものって?」
「話を終えたらすぐにお見せしますよ」
別に隠すようなものでもないってわけか。
「じゃあひとまずそれは置いておこう。で、早速聞きたいんだが、ミステは一体何者なんだ?」
単刀直入に俺は切り出した。
「彼女は、ある人物に会うために私達の住む場所から出て行ったのです。彼女自身の意志で」
ミステ自身の意志で、出て行った? しかも、誰かに会うために?
「そのミステが会おうとしてる人物ってのは、俺のことじゃないのか?」
初めて出会った時から、ミステは既に俺のことを知っていた。それは、俺のことを探していたからだとすれば合点がいく。
「いいえ、少なくともいまここにいるあなたではありません」
「そうか……」
じゃあなぜミステは俺のことを知っていたんだ? 俺とミステの間に何かしら関係があることは確実だと思うんだが。まあ、今は考えても分からないか。
『ある人物って 誰?』
「忘れたのですか!? それにその文字は一体……」
この女、魔法文字のことを何も知らないのか? 魔法文字といえば、ミステを代表する魔法なのに。
『記憶 無い』
「記憶が無い!? そんな……。ということは、あれは失敗だったのですか!?」
「あれ? なんのことだ?」
「いえ、なんでもありません。にしても、記憶が無いとは……。ということは、もちろんあの方とは会えていないのですね……」
あの方ってのは、ミステが会おうとしていた人物のことだよな。一体誰なんだ。どうもまだ、それは俺なのではないかという疑りが消えない。
「はぁ、これは困りました。あの方以外に、世界を救う人など」
「せ、世界を救う?」
なんか唐突に話が大きくなったんだが。
「いえ、あなた様はお気になさらず」
「お気になさらずって、さっきから隠しごと多すぎじゃないか? 少しは何か教えてくれたっていいだろ。俺、一応この世界じゃ頂点やってるんだぞ」
「頂点? というと、この世界で一番偉いのは」
「俺だよ。そんなことは一般常識のはずなんだがな」
「本当ですか!? なるほど、その可能性も考えてはいましたが、本当にそうだとは。貴方が一番偉い……」
まじまじと、客人は俺の顔を見つめた。
「あの、一つお聞きしたいのですが、戦闘の方は」
「やれるよ。世界で一番とは言わないが、そこそこ強い」
「では、あなたは悪者ですか?」
「はぁ? 悪者?」
「その反応からして悪者では無さそうですね。ならまあ、一応連れて行ってみますか。あまり期待はいたしませんが」
「連れてく? どこへ?」
「私達の住む世界へ、です」
「私達の住む世界? って、まさか――」
こいつ、俺と同じ異世界転移者なのか? もしそうならば、当然ミステも異世界転移者だってことになる。
あり得なくはない話だ。ミステの能力がチートじみていることも、それならば納得できるし。
「あなたが何を思っているのかは知りませんが、おそらく違うと思いますよ。私が今からあなたを連れていくのは、こことは同じでこことは違う世界『平行世界』です」
「平行世界?」
そんなもん存在するのか?
「はい。そういうわけですので行きましょう。ミステさんも当然ご一緒に」
「なんだ? 今すぐ行くってのか? ちょっと待ってくれよ、考える時間をくれ」
「別に来なくてもいいですよ。あなたは別に絶対に来て欲しいわけではありませんし。ただ、ミステさんは連れて行かせていただきます」
「なに!?」
ミステに選択権は無いってのか? そんなの、俺は許さないぞ。ミステが行きたくないといったら、俺は行かせない。
「ミステ、どうする?」
『行く』
即答、か。悩む素振りすら見せなかった。
なら、俺も行くしかないわな。なんたって俺は、ミステを守るって決めてるのだから。
「なあ、その平行世界ってのは、他にも誰か連れて行ってはいけないのか?」
「いえ、別に構いませんけど。役に立つ人材であれば」
「よし、じゃあ後三人追加でよろしく」
「さ、三人もですか?」
「ああ。俺はな、愛した女ともう絶対に離れないって、そう決めたんだ」
「!?」
俺の言葉を聞いて、客人は目を見開いた。
「なんだ? どうかしたのか?」
「いえ、なんでもありません。ただ、あなたはやはりカプチーノなんだなってそう思っただけです。後三人というのは多いような気がしますが、いいでしょう。連れて行きましょう」
「さんきゅ。さて、じゃああいつらにも今決まったことを話しに行ってくるわ」
あいつらが断るなんてことは、まずないだろう。何せ、俺があいつらとずっと一緒にいたいと思っているのと同時に、あいつらもまた、俺とずっと一緒にいたいと思ってくれているはずだから。




