表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/203

ずっと一緒

 果たして、ミステの過去は一体どのようなものだったのだろう。

 初めて出会った時、ミステの周りには誰もいなかった。なぜ、誰もいなかったのだろう。

 ミステはまだ幼い。はっきりとした年齢は分からないが、少なくとも見た目はまだ小学生くらいだ。普通そんな女の子を一人にさせるか? ミステの親は一体何を考えているのやら。


 俺が、守ってやらねーとな。過去がどうだったかはまだ知らないが、今は俺がいる。ミステが何かに立ち向かうなら、俺も立ち向かう。ミステが俺達との共生を望む限り、ミステは一人じゃない。


「ミステ、いいんだな?」


 客間へと近づき、ミステに最後の確認をした。あの女が何者であろうとも、今日この時はミステにとって何かをもたらすに違いない。

 こくり。とミステは決意に満ちた目で頷いた。どうやら覚悟はできてるみたいだな。じゃあ、行くか。


「待たせたな」


 扉を開け、待っていた客人に声をかけた。


「あ!」


 ミステを見た瞬間、客人は大きく目を見張った。


「本当に、ここにいたんですね!!」


「ミステ、この人を知っているか?」


 もしかしたらこの女を見て何かを思い出すかもしれない。そう思ったのだが、俺の質問にミステは首を振った。


「知らなくても無理ありません。何せ私は、何十といるメイドの内の一人にすぎないのですから。彼女にとって私は、ただのモブキャラです」


「そうなのか? じゃあなんのためにミステの元に来たんだ?」


 ミステとそれほど親しい関係でもないのに、どうして。


「遂にあるものが完成いたしましたので。それが完成するまでは、私はここに来れなかったのです」


「そのあるものって?」


「話を終えたらすぐにお見せしますよ」


 別に隠すようなものでもないってわけか。


「じゃあひとまずそれは置いておこう。で、早速聞きたいんだが、ミステは一体何者なんだ?」


 単刀直入に俺は切り出した。


「彼女は、ある人物に会うために私達の住む場所から出て行ったのです。彼女自身の意志で」


 ミステ自身の意志で、出て行った? しかも、誰かに会うために?


「そのミステが会おうとしてる人物ってのは、俺のことじゃないのか?」


 初めて出会った時から、ミステは既に俺のことを知っていた。それは、俺のことを探していたからだとすれば合点がいく。


「いいえ、少なくともいまここにいるあなたではありません」


「そうか……」


 じゃあなぜミステは俺のことを知っていたんだ? 俺とミステの間に何かしら関係があることは確実だと思うんだが。まあ、今は考えても分からないか。


『ある人物って 誰?』


「忘れたのですか!? それにその文字は一体……」


この女、魔法文字のことを何も知らないのか? 魔法文字といえば、ミステを代表する魔法なのに。


『記憶 無い』


「記憶が無い!? そんな……。ということは、あれは失敗だったのですか!?」


「あれ? なんのことだ?」


「いえ、なんでもありません。にしても、記憶が無いとは……。ということは、もちろんあの方とは会えていないのですね……」


 あの方ってのは、ミステが会おうとしていた人物のことだよな。一体誰なんだ。どうもまだ、それは俺なのではないかという疑りが消えない。


「はぁ、これは困りました。あの方以外に、世界を救う人など」


「せ、世界を救う?」


 なんか唐突に話が大きくなったんだが。


「いえ、あなた様はお気になさらず」


「お気になさらずって、さっきから隠しごと多すぎじゃないか? 少しは何か教えてくれたっていいだろ。俺、一応この世界じゃ頂点やってるんだぞ」


「頂点? というと、この世界で一番偉いのは」


「俺だよ。そんなことは一般常識のはずなんだがな」


「本当ですか!? なるほど、その可能性も考えてはいましたが、本当にそうだとは。貴方が一番偉い……」


 まじまじと、客人は俺の顔を見つめた。


「あの、一つお聞きしたいのですが、戦闘の方は」


「やれるよ。世界で一番とは言わないが、そこそこ強い」


「では、あなたは悪者ですか?」


「はぁ? 悪者?」


「その反応からして悪者では無さそうですね。ならまあ、一応連れて行ってみますか。あまり期待はいたしませんが」


「連れてく? どこへ?」


「私達の住む世界へ、です」


「私達の住む世界? って、まさか――」


 こいつ、俺と同じ異世界転移者なのか? もしそうならば、当然ミステも異世界転移者だってことになる。

 あり得なくはない話だ。ミステの能力がチートじみていることも、それならば納得できるし。


「あなたが何を思っているのかは知りませんが、おそらく違うと思いますよ。私が今からあなたを連れていくのは、こことは同じでこことは違う世界『平行世界』です」


「平行世界?」


 そんなもん存在するのか? 


「はい。そういうわけですので行きましょう。ミステさんも当然ご一緒に」


「なんだ? 今すぐ行くってのか? ちょっと待ってくれよ、考える時間をくれ」


「別に来なくてもいいですよ。あなたは別に絶対に来て欲しいわけではありませんし。ただ、ミステさんは連れて行かせていただきます」


「なに!?」


 ミステに選択権は無いってのか? そんなの、俺は許さないぞ。ミステが行きたくないといったら、俺は行かせない。


「ミステ、どうする?」


『行く』


 即答、か。悩む素振りすら見せなかった。

 なら、俺も行くしかないわな。なんたって俺は、ミステを守るって決めてるのだから。


「なあ、その平行世界ってのは、他にも誰か連れて行ってはいけないのか?」


「いえ、別に構いませんけど。役に立つ人材であれば」


「よし、じゃあ後三人追加でよろしく」


「さ、三人もですか?」


「ああ。俺はな、愛した女ともう絶対に離れないって、そう決めたんだ」


「!?」


 俺の言葉を聞いて、客人は目を見開いた。


「なんだ? どうかしたのか?」


「いえ、なんでもありません。ただ、あなたはやはりカプチーノなんだなってそう思っただけです。後三人というのは多いような気がしますが、いいでしょう。連れて行きましょう」


「さんきゅ。さて、じゃああいつらにも今決まったことを話しに行ってくるわ」


 あいつらが断るなんてことは、まずないだろう。何せ、俺があいつらとずっと一緒にいたいと思っているのと同時に、あいつらもまた、俺とずっと一緒にいたいと思ってくれているはずだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ