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新たな旅の始まりを告げる1枚の写真

 もしもあの時こうだったら。もしもあの時こうしていたら。

 二択を迫られる場面、別の可能性があり得た場面で、もし違う方の選択肢を進んでいたら。

 ほんの小さな違いでも、世界は大きく変わるかもしれない。

 そんな、別の可能性で進んでいる世界を平行世界という。平行世界には、また別の自分がいて、同じ人間なのに別の生き方を歩む。

 どちらの人生が正しいとか、そういうことはない。ここにいる自分も、平行世界にいる自分も、それぞれが正しく、等しく本当の世界なのだ。

 


「あー」


 遂にやってしまった。


 今俺の隣には、萌衣が寝ている。ただ一緒のベッドで寝たというだけでは無く、つまり、察する通りの行動を行った。

 はっきりと一線を越えたら、それはもうシスコンでは無い。もし俺がどこにでもいるただの妹大好きなシスコンお兄ちゃんなら、普通の人は俺を見たところで笑って済ませるかもしれないが、ここまできてしまえば、普通の人は間違いなく軽蔑するだろう。

 まだ、実は血が繋がってなかったとかそういう事実があったりしたら話は別だ。だが、俺と萌衣は完全に血が繋がっている。だって、萌衣が生まれた日に俺病院いたし。

 それに、こっちの世界では兄妹での恋愛も全然オッケーかというと、全然そんなことはない。悲しいことに、妹との恋愛はこっちの世界でも異端だ。

 俺からしたら、俺がした行動はちっともキモくないし、むしろ達成感とか誇らしささえあるのだが、そんなことは俺にしか分からない。本当はそれがおかしなことなんだってのは当事者の俺が一番よく分かっている。

 だけど、まあ別にそれでもいい。そもそもこの世界で一番偉いのは俺なんだし、俺の権力で皆の認識を変えてしまってもいい。この世界では、妹と恋愛しようが問題ありません! って。

 ま、そんなこと出来るわけないんだけどな。人の倫理とかそういうものは、誰が何を言ったって変わることは無い。

 日本でだって、実は近親相姦は犯罪でも何でもない。お互い同意の上ならば、合法的に繋がることができる。それなのに、当たり前のように近親相姦はよくないものと世間からは認識されていてる。世の中ってのはそういうもんだ。


「あ、お兄ちゃん起きてたんだ。おはよー」


 寝ぼけ眼を擦りながら、我が愛しの妹が目を覚ました。


「あー、なんかまだちょっと痛いかも」


 萌衣は世間から見た俺達の関係についてどう思っているのだろうか。こいつはまだ子供だし、案外そういうのは全然気にしていないのかもしれない。


「空、綺麗だな」


 雲一つなく、どこまでも澄みわたっている空を、ぼんやりと眺める。なんだか空を見ていると、色々な悩みが馬鹿らしくなってくる。


「ねえお兄ちゃん。わたし、お兄ちゃんの赤ちゃん産むのかな?」


「馬鹿言え。お前まだ生理来てないだろ」


「今はそうだけど、いずれだよ! というか、なんでわたしまだ生理来てないんだろ。異世界転移前が12歳になったばかりの頃で、お兄ちゃんと再会したのが一年とちょっとだから13歳になったばかりの頃で、そして今は14歳! 14歳って普通もう生理来てるはずじゃん!」


「いや、お前見た目まだまだ子供だし、普通の子よりはちょっと遅くてもおかしくないだろ。それに14歳って言ったってお前死んでた期間もあるし、まだ14歳には一カ月くらいあるんじゃないか? でもそっか。いずれか。そりゃまあ、いずれはそうなるのかなあ……」


 妹との子供、か。普通に子供を作るのとはわけが違う。


「楽しみだね!」


「お前は呑気でいいなあ」


 将来のことはまだあまり考えたくない。未来より今を、俺は楽しみたい。


「さて、ちゃっちゃと服着て飯だ飯!」


「はーい」


 今日もまた、妹のいる一日が始まる。


 萌衣が生き返ってから、何日かが経った。あれから俺達は、何をするでもなくのんびりと毎日を送っている。


「このままずっとここでのんびりと暮らせたら、それが一番だ」


 世界の法や秩序はいつでも自由に変えることができるけれど、今は特に何もするつもりもない。今はただ、萌衣と一緒にいるだけで十分だ。


「カプチーノ様、客人が来たのですが」


 皆の集まる食堂に行こうとすると、カリバに足を止められた。


「客人、それは今じゃなきゃダメなんか?」


「はい。どうやら急ぎの用で」


「分かったよ、すぐ行く」


 面倒だなあと思いながら、足を進める。さっさと終えて飯を食べよう。

 客間に着くと、若い女の人がいた。というかこの人、トタースのメイドじゃね? 俺見覚えあるぞ。でもカリバは客人って言ってたし、ただのそっくりさんなのか?


「あ、あの!」


 俺を見るなり、客人の女性は声をかけた。


「えーと、要件はなんだ?」


「この人、この人がこの街にいると知ってきたんですけど」


 そう言って女が見せたのは一枚の写真だった。


「これは――」


 そこに映っていたのは、俺の嫁であり俺の大切な女性である、ミステの姿だった。

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