風林火山
伝説級の能力者四人の体が、それぞれ台座の色と同じ色で光りだした。
赤ちゃんが青く、ウトが緑に、アイファが赤く、マヤが黄色に光り輝いている。
【ここに、新たな力が生まれる】
「新たな、力……」
それは、萌衣を生き返らせる奇跡の力。
って、ん?
ルドーワの声が聞こえたと思ったら、いつの間にか俺は知らない場所にいた。
「ど、どこだここは!?」
周りは暗闇。それ以外は何もない。
「カリバ! ミステ! シュカ!」
俺の叫びに、誰も答えることは無い。くそっ。どうなっちまったんだ!?
闇雲に、地も空も無い暗闇を泳ぐ。誰か、誰かいてくれ!
【青は風】
「あうあう!!」
「お、お前は!」
ルドーワの声と共に、赤ちゃんが姿を現した。暗闇にも関わらず、何故か赤ちゃんと俺の体のみははっきりと見える。
「なあ赤ちゃん、ここがどこだか分かるか?」
「あう?」
「そうか。そりゃそうだよな」
首を捻った赤ちゃんを見て、赤ちゃんもここがどこだか知らないのだと分かった。
「ぐっ!?」
急に、風が吹き始めた。壁も足場も無いこの場所では止まることもできず、俺はただ風の吹くままに流される。
どれくらい流されただろうか。止まること無い風の中、俺は虚空を見つめる。ああ、ここはどこまでも、何も無いんだな。
不思議なことに、どれだけ流されようとも赤ちゃんまでの距離は変わらない。俺と赤ちゃんは、近づきすぎることも遠くなりすぎることもなく、一定の距離を保っている。
【緑は林】
再び声が聞こえた。今度はなんだ?
「いてっ!」
風に流されていると、何かにぶつかった。
暗闇なので、それが何なのかはよく見えない。だが、この匂いは――
「木か?」
確認をするべく鼻を近づけると、草木の匂いが鼻腔をくすぐった。手触りも、普段木に触れた時と同じようにざらざらとしているし、これは木で間違いないと思う。
なぜ木がここにあるんだ? さっきまではこんなもの無かったはずだ。何も分からないまま、依然として風はやまず、触れている木と共に流されていく。
「カプチーノ」
「ウト!」
俺と赤ちゃんしかいなかった世界に、ウトがいた。暗闇の中にも関わらず、ウトの姿は赤ちゃんと同じようにはっきりと見える。一体いつからいたのだろう。もしかしたら、見えていなかっただけで最初からいたのか? その答えは分からないけれども、出会えたことに喜びを感じた。
「ウト、ここがどこだか」
「ワカリマセン。イツノマニカココニイマシタ」
「俺と同じか」
一体ここはどこなのだろう。俺は、どうやってワードルからこの場所へと来たのだろうか。
【赤は火】
またルドーワの声が聞こえた。そして突然、暗かった世界に明かりがついた。
「おぉ!」
辺り一面が木や花だらけだ。地面も無いのに、それらは宙に根を張っている。当然その根は根の体を成しておらず、風に流されている。
流れている木や花の一部は、真っ赤に燃えていた。これが明るくなった原因か。火は次々と、風によって燃え広がっていく。
なんか、暑いな……。さっきまでは暑くも寒くも無かったのだが、今はもう暑くて仕方がない。
「赤ちゃん、ウト、大丈夫か?」
これほど暑いと、二人が心配だ。
「ウン。ダイジョウブ。トッテモアツイケド、ナゼダカゼンゼンヘイキ」
「あうあう!」
それなら良かった。確かに俺も、かなり暑いはずなのに全然平気だ。
「あ、カプチーノ!」
「やっぱり来たか」
次にアイファが現れることは、今までの流れからしてなんとなく分かっていた。
「もちろん、お前もここがどこかは知らないよな?」
「もちろんっていうのが引っかかるけど、うん、わたしもここがどこだかは分からない」
「ほんと、どこなんだよここ」
暑いし風吹くしで、あまり長くいたい場所では無い。
【そして黄は山】
頭の中にルドーワの声が響く。
ま、次はマヤが来るんだろうな。ここまで来れば誰でもわかる。
「おっ」
何も無かった場所に地面が出来た。今まで風の吹くままに流されていたのと変わって、とりあえずは足場を手に入れた。
俺達と同じように流れていた木や花は、地面に根をはっていく。地面があるだけで、世界は全く違ってくる。
「さて、そろそろ来るはずだが」
「あ! 皆集まってる!!」
やっぱり来た。俺達がいたのを見つけ、マヤは大きく手を振った。
「ねえねえ、ここどこ? マヤ達なんでこんなところにいるん?」
「分からん。俺達も全員気が付いたらここにいたんだ」
「マジ!? えー、帰れないとかマジあり得ないんティー!! まあでも、君と一緒ならそれはそれでいいかも、なんて!」
「どのみち帰れなきゃいずれ餓死しちゃうっての」
うーん。四人が全員集まったのはいいが、ここからどうすればいいんだ?
「な、なに!?」
「ナンダカカラダガヒカリハジメマシタ!」
伝説級の能力者四人が、全員それぞれ別の色で光り始めた。ここに来る前に見た光と同じ色だ。
だがあの時よりも、今の光の方がずっと眩しい。思わず目を閉じてしまいそうなくらい光輝いている。
【それらを受け入れ、新たなる力を】
「なんだ!?」
四人が放つ輝きが、俺に向けて一直線に伸びてきた。
なんだろう。凄く心地いい。
ぽかぽかとした暖かさが、全身を包み込む。ずっと身を委ねていたい。
やがて俺の体は、様々な色を放ち光り出した。伝説級の四人の誰よりも強く、俺から発する光がこの場全体を包み込む。
【今、新たな力が誕生した。さあ目を覚ませ、お主の手には、希望の光が満ちている】
世界がぼやけていく。見えていたものが、見えなくなっていく。そして――
「カプチーノ様!」
カリバの声がした。
「あれ? ここは――」
「ワードルですよ! カプチーノ様と伝説級の能力者さん達は、さっきまで皆眠ってしまっていたのです」
「そうか」
だったら、さっきまで見ていたのは夢、なのか? 夢にしては木にぶつかった時に痛みはあったし、暑いという感覚もあったんだが。
【カプチーノ、お主、何か変わったことは無いか?】
「変わった事? あ!」
胸の奥に、何か力強いものが溜まっている感覚がある。
【お主は既に魔法を手に入れておる。後は、発動するだけだ】
「発動、するだけ……」
【そうだ。生き返らせたい人物を、心を込めて叫べ。さすれば、お主は】
「復活させることが……できる!」




