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無感情に打ち勝つ切り札

「っしゃ行くぞ!!」


 一週間も無駄な日を過ごしてしまった。もうこれ以上じっとしているわけにはいかない。

 あの無感情の最後の伝説級の能力者は、今日中にこの俺が落とす!


「カリバ! ミステ!」


 萌衣の部屋から出て、また寝室でダラダラとしていた二人に叫ぶ。


「どうしたんですか? まるで感情があるみたいに」


 無感情のまま、カリバが訊ねた。


「まるでじゃなくて本当にあるんだよ! てめえらも目を覚ませ!」


「目を覚ませと言われましても……。暑苦しいですよ、カプチーノ様」


 無感情のまま、カリバは興味無さそうにそう返した。


「チッ。口で言っても分からねーか。お前らの感情を戻すトリガーはなんだ!」


 俺にとっての萌衣の匂いみたいなもんが、こいつらにだってあるはずだ。


「トリガー? 知りませんよそんなもの。それより、ご飯にしませんか?」


「飯なんか食ってる場合じゃないんだよ! 急いであの無感情男ぶん殴りに行かねーと」


「えー、食事の方が大事じゃないですかー? それに、シスタさんはもう諦めたんじゃ」


「諦めるわけないだろうが!」


 くそ! こいつらの感情を戻す方法が分からない。いつまでもこんな会話を続けている場合ではないのに!


「え? 諦めてなかったんですか? そうですか、では頑張ってください」


 全く心のこもっていないエール。こんな言葉かけられても、ちっとも嬉しくない。


「あーもう分かったよ。お前らは今回はお留守番だ。俺一人で片付けてくる」


 今の俺には、二人の感情を取り戻す方法は分からない。そして、これからすぐに分かるとも思えない。だからといって、こんなやる気の無い二人をそのまま連れて行ったところで、足手まといになるだけだ。


「そうですか、いってらっしゃいませ」


 そう一言言うと、カリバとミステは食堂の方へと向かってしまった。


「こんなやる気のないお前ら、見たくなかったよ。っと、感傷に浸ってる場合じゃない。シュカを探さないと」


 あいつがいなければ俺はあの街へ行くことが出来ない。

 どこだ? あいつはカリバとミステと違って昨日一緒のベッドで寝ていなかったから、どこにいるのかが分からない。


 どっかの街に瞬間移動して行ってるとかはマジで勘弁だぞ。


「おーいシュカ! いるなら返事してくれ!!」


 広い城の中で、俺の声が響き渡る。だが、シュカの返事は聞こえない。

 あいつ、どこ行ったんだ。

 城の中を、シュカを見つけるために走り回る。


「おっ! やっと見つけた」

 

 走る俺の背後から、シュカの声がした。


「お前どこ行ってたんだよ! っと、今はそんなことをごちゃごちゃ言ってる暇は無い。なあ、ちょっとお願いがあるんだがいいか?」


「いいよ!」


「そうか、それは良かった。って、ん?」


 強烈な違和感。昨日までのシュカと、明らかに何かが違う。


「その焦りっぷり、どうやらカプチーノも感情が戻ったみたいだね」


「カプチーノも、だと?」


 ということは……。改めて、シュカの顔をじっと見てみる。シュカは俺に見つめられると、少し照れたように頬を朱に染め顔を逸らした。


「お前、感情戻ってたのか!!」


「まあね」


「一体どうやって?」


「あの草原に行ってきたの。あの、皆で修行した草原に」


「あそこに行ったら、感情が戻ったのか?」


「うん。無感情のまま、ただなんとなくあそこに行ってみたら、今までの思い出がいっぱい蘇ってきて、そしたら、こんなところでボーっとしてる場合じゃないってなった」


「ふむ。俺と似ているな」

 

 俺もシュカも、思い出による感情の回復だ。


「えーと、カプチーノはどうやって記憶が戻ったの?」


「俺は萌衣の部屋に行って、萌衣の匂いを嗅いだらだ」


「な、なんかキモいんだけど……」


「キモいって言ったって、実際にそうなんだからしょうがないだろ」


 俺だって好きで萌衣の匂いで感情が蘇ったわけでは無い。偶然だ。


「いや、そうなんだけどさ……。っていうか、なんでシスタなのさ! 私のことだって好きなんだよね?」


 シュカは、可愛らしく頬を膨らませて怒りを表現した。無感情の時には絶対にできなかった表情だ。


「好きに決まってんだろ。ただ、俺にとって萌衣は、ただ好きなだけでなくて、なんかこう……言葉には上手く出来ないけど、積み重ねってもんがあるんだよ」


「ふ~~ん」


 シュカは、更に頬をぷっくりと膨らませた。


「そう怒るなって。お前とだって、これからどんどん色々なことを積み重ねていきたいって思ってるんだぞ?」


「い、色々なことって……」


 俺とは全然違うことを考えているようで、シュカの顔はピンク色に染まっていく。


「馬鹿かお前は。にしてもあれだな、やっぱお前、感情ある方が可愛いよな」


 無感情だった時のシュカが嫌いだったというわけではないが、シュカはやっぱ、今みたいに色々な表情を見せてくれる方がずっと可愛い。


「それは、褒めてるってことでいいの?」


「ああ、超褒めてる。今のお前、最高に可愛い」


「そ、そっか。あ、ありがと」


 顔を茹ダコのように真っ赤にして、俺から顔を逸らす。こういう仕草が堪らない。


「さて、こんなところで呑気に喋ってる場合じゃない。シュカ、頼みがあるんだが」


「分かってる。あいつの所に行くんでしょ?」


「ああ。あの無感情野郎をぶん殴って、俺の嫁さん達の感情を戻してもらわないとな」


「カリバとミステ、まだ戻ってないの?」


「残念ながら、まだ無表情のまんまだ。だからこそ、俺はいかなければならない。それに、萌衣のためにも」


「そっか、戻ってないんだ……。じゃあ、その分私達が頑張らないとだね! でもカプチーノ、大丈夫なの? また掃除機に感情奪われたら、もう一回シスタの部屋に行って感情を取り戻さないとでしょ? 掃除機がずっとあいつの手にある以上、あいつには近づけないじゃん」


「それについては心配するな。俺には、"無感情に打ち勝つ切り札"があるんだ」


「どういうこと? だって、感情を奪われない方法とかは分からないよね?」


「ああ、分からないさ。だが、そんなのは分からなくたっていい。要は、俺が感情を失う度にあいつの元を離れて萌衣の部屋に行かなくちゃいけないっていうのが駄目なんだろ? だったら、萌衣の部屋に行かずにその場で感情を戻せばいいんだ。その場で戻せるんなら、いくら掃除機を使われたところで問題ない」


「そんな方法、あるの?」


「そもそも俺は別に、萌衣の部屋そのもので感情を復活させたんじゃない。萌衣の部屋の"匂い"で復活させたんだ。俺が言いたいこと、分かるか?」


「うーん、あんまり分かんない」


 シュカは小首を傾げて、頭に疑問符を浮かべた。


「ま、すぐに分かるさ。とにかく、心配はゼロだ。俺はもう絶対に引き返したりするようなことにはならない。だから、行くぞ!」


「分かった、カプチーノを信じるよ。じゃあ、行くよ!!」


 シュカの手を、ギュッと強く握る。そして一瞬で、俺達は感情を消された建物に再び戻ってきた。

次話『無感情な男の感情』

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