イースト
「ここが最東端の街、イーストみたいですね」
シュカが昔この近くの街に来た事があったらしく、ウェストを出てからさほどかからずに来ることが出来た。
「ここは農業や酪農、漁業が盛んみたいです」
「へぇー」
となると、飯は他の街と比べてかなり美味いんじゃないか? いや、食事にも興味が出るが、一度来ればこの街にはもうシュカの瞬間移動でいつでも来れる。美味しいご飯を食べるのは、全て終わってからでいい。
「早速伝説級の能力者さんを探すか。どうする? また役所に行くか?」
「そうですね。それがいいと思います。まずは役所の場所を探しましょう」
「役所って、大抵街の真ん中にあるよね?」
「いや、そうでも無いと思うぞ。実際トタースなんかは街の端っこにあるしな」
ちなみにトタースの役所はとても小さく、俺も一度しか言った事が無い。役所になんて行かなくても、街のことならカリバに聞けば全部分かるし。
「そうですね。なので、聞き込みで役所の場所を聞いて回るのがいいと思います」
「そっかぁ。そうだ! いつもカリバが聞き込みしてるし、たまには私とミステで聞き込みしよっか?」
『え?』
「いいじゃん。たまには」
『拒否する』
「なんでさ! ね、いいでしょカリバ!」
「まあ、別に構いませんけど」
「だってさ! 行こうミステ!」
拒否するという魔法文字を連続で出したままのミステの首根っこを無理やり掴み、シュカは近くにいたお婆さんの方へと向かった。
大丈夫かな……。萌衣ほどじゃないとはいえ、シュカもなかなかのおバカさんな気がする。
「あのー、すみません」
俺と違って、シュカは敬語でお婆さんに話しかけた。これで敬語が使えないのは俺だけということになる。なんか悔しい。
「▲●××◆■」
「え? なんて?」
「▲●××◆■」
「いや、わけわからないんですけど……。ミステ、分かる?」
『分からないことが分かる』
「要するに分からないってことね。回りくどい言い方しないでよもう」
「●●▼▲××●?」
「えーと……」
シュカとミステは沈黙してしまった。
お婆さんは二人がそれ以上話しかけてこないと判断すると、歩いて行ってしまった。
今の聞き込み失敗はシュカもミステもしょうがないと思う。俺にだって何を言っているのか全然分からなかったし。
「よし! 挫けず次行こう! ミステ!」
シュカは落ち込むことなく、次へと向かう。ちなみにミステは超嫌そうな顔でいやいやしていた。可哀想。なんでシュカは一人でやらないのさ。
「あのー、すみません」
一度目と同じ話しかけ方で、今度は若い男性に話しかけた。
「●●▼▼◆××」
「うそ、また……?」
シュカとミステが驚愕に目を見開いた。俺もびっくりだ。二人続けて意味分からない言葉話すなんて普通ある?
「もしかすると、この街は独自の言葉が使われているのかもしれませんね……」
シュカの聞き込みを見ていたカリバが、ぽつりと言った。
「独自の言葉って、この世界は言語統一されてるんじゃなかったのか?」
国がそう決めたとか聞いたような。ちなみにその統一されている言語ってのは、俺には日本語に聞こえているけれど実際には日本語では無い。文字だってどう見ても日本語じゃないし。俺が日本語に聞こえていて、この世界の文字が読めるのは、おそらく俺を異世界転移した男に秘密が隠されているんだが、まあ今はそれはどうでもいいか。
「確かに統一はされているのですけれど、国だって一々全ての街の言語を調査しに行ったりはしていませんので、国の目に触れられずに独自の文化が発達している街というのは存在していてもおかしくありません。私もこうして実際に見るのは初めてですが」
「そうなんか。でもこの街、農業とか盛んなんだろ? 輸出とかしてるなら、同じ言葉話せなくちゃおかしくないか?」
言葉を交わさなければ貿易なんて出来るはずがない。
「街の中に、私達と同じ言語を使える人が何人かいるのでしょう。外交や貿易はそういう人が代わりに行っているのでは?」
「なるほどな。ということは、俺達はそういう人を探せばいいってわけだ」
「そうですね」
「と言ってもなあ。決して狭い街では無いし、言語が通じる人を探すってのもなかなか時間がかかりそうだな。って、ん?」
歩きながらカリバと話していると、何やら不思議な行動をしている人を見つけた。
「カリバ、あれ」
「あれとは?」
「ほら、あの畑の人」
「あれは!!」
俺達の視線の先には、畑に種を蒔いて、一度触れただけで一瞬で成長させている少女がいた。何も無かったところに、どんどん農作物ができていく。
「なあカリバ、あんなことができる人って普通にいるか?」
「いえ、あり得ません。あのようなことをできる人がいるなんて、今でも信じられないくらいです」
「と、言うことは」
「伝説級の能力者、で間違いないかと」
まさかこんな簡単に見つけてしまうとは。
早速女の子に近付く。
「なあ、ちょっといいか?」
「◆■! ●★★?」
やっぱり言語はこのわけわからないやつか。
ただまあ――恋愛に言語なんて関係ない。
俺は女の子に、やり慣れたウインクをした。
「▼▼×××。●●●!!」
何を言っているかは分からない。が、女の子は頬を朱く染めている。言葉は通じなくても、想いは俺に伝わる。
「さてカリバ、行くぞ」
「はい、行きましょう。次の街に」
相手が女でさえあれば、俺のウインクは――無敵だ。
次話から伝説級の能力者探し最後の街です。




