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バトン

 ドウインの寿命がもうすぐだと分かり、街の人達でドウインのお別れ式をすることになった。

 とても慕われていた人なのだろう。たくさんの人が、ドウインのために集まっている。


 一人ずつ、一人ずつ、お婆さんと一分程度の談笑を交わす。皆、少し涙ぐみながらも、最後にはお礼を言っていた。


「俺が死ぬ時は、多分こんなに色々な人に感謝してもらうことはないだろうな」


 色々な女を落としては来たが、結局それだけだ。俺は落とすだけ落としておいて、何もしてあげていない。


「何言ってるんですか。死ぬ時のことなんて考えないで下さいよ」


「わりぃわりぃ。なんか、こういうの見てるとさ。つい考えちまってよ」


 ドウインは、幸せそうな顔をして話している。死ぬのが近いと分かってるのに、どうしてなんだろう。俺にもいつか分かる日が来るのだろうか。


「どうやら、全員との話が終わったみたいですね」


「いや、まだだ。あの妊婦さんが残っている」


 お腹の赤ちゃんが重いのか、一番最後にゆっくりとした足取りで、妊婦さんはドウインの元に来た。


「お婆さま」


「トウコ、こんな会まで開いてくれてありがとうね。おばあちゃんは、今幸せな気持ちでいっぱいだよ」


 にっこりと、優しい笑顔を妊婦さんに向けた。


「お婆さま、なんだか幸せそう。死ぬのが怖くないの?」


「ええ、ちっとも。おばあちゃんね、いっぱいいっぱい楽しいことがあったんだ。だからもう十分、人生を満喫したよ」


「お婆さま……」


「ただまあ、一つだけ。心残りがあるかな」


「心残り?」


「孫の子供、この目で見るまでは生きようかと思ってたんだけどねえ。あとちょっとってところだったのに」


「見せるよ! お婆さまに子供見せる!」


「わたしゃあもう長くない。人ってのは、どうやら死ぬ時が分かる生き物だったらしい。ぼんやりと、爺さんがわたしを呼んでいる声が聞こえるんだ」


「そんな……。私、お婆さまに死んで欲しくないよ!!」


 目に涙を溜めながら、妊婦さんは言う。


「我儘言うでない。人ってのは、いずれ死ぬ生き物なんだよ」


「でも、早すぎるよ!」


「早くなんかない。この街じゃあ、一番の長生きじゃないか」


「でも! でも!」


「赤ちゃん、一生懸命育てるんだよ」


 そう一言優しく言うと、ドウインは目を閉じた。


「お婆さま? お婆さま!!」


 妊婦さんがドウインの体を揺らす。だが、ドウインはもう何も反応はしない。


「どうやら、逝ってしまわれたみたいですね」


「ああ」


 ドウインは、亡くなった。街の人達は辛いのを堪えて、笑ってドウインの死を受け入れた。


 結局、ドウインが伝説級の能力者だったかどうか分からなかったな。もし伝説級の能力者だったとしたら、死んだらどうなるんだっけ? 確か、他の人が能力を引き継ぐんだったか?


「うっ……うぐぅ……」


 妊婦さんは、苦しそうに泣いていた。


「よっぽど別れが辛かったんだろうな」


 この人にとって、ドウインはとても大きな存在だったに違いない。


「いや、そうじゃありません。あの泣き方は……」


 カリバが何かを察したらしく、妊婦さんの方へと近づいていく。


「あの、もしかして、陣痛ですか?」


「うっ……はい。と、突然、我慢できないほどの痛みが……」


「誰かお湯の準備をお願いします! なるべくたくさんです! それと、綺麗なタオルを持ってきてください!」


 カリバが街の皆に向けて叫んだ。

 まさか、今から出産するってのか?


 なんということだ。ドウインが死んだ直後に、新たな命が生まれる。

 それはまるで、命のバトンのような。これは、偶然なのか?


「急いでください!」


 俺も何か、少しでも出来ることがあるならやらないと!




 ☆


「オギャー! オギャー!」


 産声が街に響き渡った。


「ふぅ……」


 無事出産が終わり、カリバが安堵の溜め息を漏らす。


 出産って、こんなにも忙しいものだったのか。

 何時間もの間、カリバにはまったく休む暇が無かった。生まれてくる新しい命の為に、カリバは必死だった。


「お疲れ様です」


 ずっと痛みで唸り続けていた元妊婦さんに、カリバは優しく言った。


「私は少し休んできます。後のことは任せていいですか?」


 隣にいた女の人にカリバはそう告げると、役所の方へと歩いて行った。カリバのやつ、ふらふらじゃないか。

 俺も慌ててカリバについていく。カリバには、言わなくちゃならないことがあるからな。


「はふぅ……」


 役所に入るや否や、椅子に座ってカリバは体を休ませた。


「カリバ!」


 疲れ切っているカリバに、俺は駆け寄る。そして。


「おつかれさま」


 カリバが元妊婦さんにかけていた言葉を、俺はカリバに言った。

 元妊婦さんももちろん頑張っていたけれど、カリバだってすごく頑張っていた。カリバにだって、この言葉は伝えていいはずだ。


「ありがとうございます。私、初めてだったんですよね、出産に対面したの」


「そうなのか!? とてもそうは見えなかったが」


 先程までのカリバは、まるでお医者さんのようだった。


「ふふ。いつ出産する時が来てもいいように、しっかり勉強してあったんですよ」


 カリバはそう言って、俺の顔をじっと見つめる。


「そ、そうか」


 出産か。結婚したんだし、当然そりゃいつかはカリバも子供を産むことになるんだよな。


「キャー―――!」


「なんだ!?」


 突然、外から女性の悲鳴が聞こえた。


「カリバはここで休んでろ。ちょっと言ってくる」


 急いで役所を出て、悲鳴があった方へと向かう。


「こ、これって――」


 あり得ないことが起きていた。

 さっき生まれたあの赤ん坊が、なんとふわふわと宙に浮いていたのだ。

 一体、何が起こっているんだ!?

次話でこの街の話はおしまいです。

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