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ウェスト

「さて、到着です」


 俺達は、最西端の街「ウェスト」へ着いた。今まで訪れた街と比べて、ここはとても小さな街だ。この広さなら、伝説級の能力者探しもそれほど苦戦することは無さそうだ。


「今度も女だといいんだけどな」


 男の信用の得方とかさっぱり分からない。それに、そもそも男は好きではない。できることなら関わる事さえしたくない。


「あ、あそこ見てください!」


 カリバが指さした先には、周りの家と比べるとそこそこ大きな建物があった。建物の前には、「ウェスト役所」と書かれた看板がある。


「あそこでとりあえず伝説級の能力者について聞いてみようってことか」


「そうです。もし有名な人物だったら、役所の職員が知っているはずですし」


 良い案だ。闇雲に聞き込みをしてもいずれ能力者の情報を得られるかもしれないが、いくら小さな街だとはいえそれなりに時間がかかる可能性が高い。だが役所なら、ある程度知名度がある人なら一発だ。たった一度の聞き込みだけで目的の人物の所まで行ける。


 早速俺達は役所に入った。中に入ってすぐのところに受付があり、そこには受付嬢が待機していた。まあ普通に彼女に聞けばいいだろう。


「あの、ちょっといいですか?」


「はい、ご用件はなんですか?」


 カリバが話しかけると、営業スマイルを見せながら、受付嬢は返事をした。


「この街で、何か凄い能力を持った人って知っていますか? 正に伝説級! って感じの」


「伝説級、ですか? 伝説級かどうかは分かりませんが、この街の最も高年齢者のドウインさんは、凄い能力を持っていますよ」


「その凄い能力というのは?」


「私も一度拝見させていただいたことはあるのですが、どんなに重いものでも、風に乗せて運んでしまうのです」


「風に乗せて運ぶ、ですか。なるほど」


 その話だけでは伝説級ってほどなのかどうかは判断が難しいが、会ってみて損は無いと思う。


「宜しければ、どこにいるか教えていただけないでしょうか?」


 カリバも会う価値有りと判断したようで、居場所を尋ねた。


「いいですけど、多分会えないと思いますよ」


「会えない? 今はこの街にいないとかそういうことなのでしょうか?」


「いえ、そうではなくて、ここ最近ずっと寝たきりでして。家族の方が必死で看病しているのですが」


「そういうことでしたら尚更私が行くべきですね」


 自信に満ち溢れた声で、カリバは言った。確かにそれはカリバが行くべき事案だ。回復のスペシャリストであるカリバが行けば、そのドウインとやらもたちどころに元気になるだろう。


「えーと、よく分かりませんが、居場所を教えればいいのですよね? えーと、ドウインさんの家にはここからですと――」


 受付嬢の話を、カリバがメモを取っていく。なんか今回の街での伝説級の能力者探しは、本当にすぐに終わりそうね。まあ、アイファみたいに街を離れられない理由とかあったら別だけれども。あ、というかまだドウインが伝説級の能力者だとは限らないんだったか。



ドウインの家は、すぐ近くにあった。大きすぎず小さすぎない、ごくごく普通の家だ。ドアを二度ノックし、返事を待つ。


「はい」


 家の中から、若い女性が出てきた。女性のお腹は大きく膨らんでいる。妊婦さんか。


「あの、ドウインさんという人に会いに来たのですけど」


「お婆さまにですか? すみません、お婆さまは今、とても人に出会える状態では……」


「知っていますよ。だからこそ会わせて欲しいのです」


「えーと……」


 妊婦さんはカリバの言葉に戸惑った。その反応も当然だわな。出会える状態じゃないからこそ出会いたいとか、普通は意味が分からない。


「妊婦さん、体は辛くありませんか?」


 なるほど。辛いところを聞いて魔法で回復する作戦か。確かにそれならカリバの力を見せることができて、家にも入れてもらえるだろう。


「いえ、別に……」


「え? 辛くないんですか?」


「はい」


「そうですか……」


 予想外の返事だったようで、カリバは困ってしまった。しゃあない、ここは俺が一肌脱ぐか。


 俺は腰の剣を抜き、自らの腕に勢いよく斬りついた。

 まるで噴水のように、一気に血が噴き出す。


「え……何を?」


 突然の俺の行動に、妊婦さんはひどく驚いた。いってぇ、超いてぇ。だけど、こんなところでグズグズしていられないからな。痛いのなんて気にしていられない。俺達はここで立ち止まるわけにはいかないんだ。


「カリバ、頼む」


「え、あ、はい!」


 俺の行動の意図に気付いたカリバは、慌てて俺の腕に魔法をかけた。

 すぐに痛みが引いていく。さっきまで切れていたとはとても信じられない。


「ま、こういうわけだ。会いに来た理由分かってくれたか?」


「まさか、お婆さまを!」


「元気にしてやろうってわけだ。この女の子がな」


「というわけで、会わせてくださいますね?」


「はい! どうぞこちらへ」


 妊婦さんは今のでお婆さんが治る希望が見えたらしく、目を輝かせた。

 そんな妊婦さんの後ろを、俺達はついていく。


「あの、カプチーノ様」


 俺にしか聞こえないような声で、カリバがひそひそと話しかけてきた。


「なんだ?」


 こちらもひそひそ声で返す。


「もうあんな無茶、しないでくださいね」


「……善処するよ」


 さっきはよく考えずに、あれが一番の方法だと思ってすぐに行動してしまった。だがカリバがそう言うのなら、次からは同じような機会があったらもっと安全な方法を考えることにしよう。まあ、思いつかなきゃ結局また同じように自分を犠牲にするんだろうけど。


「ここです」


 狭い一室に、俺達は案内された。


「お婆さま、お医者様を連れてきたよ」


「あらまあ、わざわざこんな老いぼれのためにお医者様なんて呼ぶ必要ないのに」


 布団の中で、元気無さそうにお婆さんは言った。この人が、伝説級の能力者の可能性がある人物……。一応どんな年齢の相手にでも俺のウインクは通用するので、落とすことに関しては問題は無い。


「じゃあ、お婆さまをお願いします」


「はい、分かりました」


 カリバの周りを、綺麗な光が包む。その光はやがてカリバを離れ、お婆さんの体に降り注いだ。


「これでおそらく、元気になるでしょう」


 カリバがそう告げると、妊婦さんは誰が見ても分かるくらい喜んだ。


 が、いつまで経ってもお婆さんの容態が変わらない。


 どうなっているんだ? カリバの魔法で治らないものは無いのに。


「すみません。どうやら私の魔法は効かないみたいです」


「どうしてですか!」


 カリバの報告に、期待を裏切られてしまった妊婦さんは叫ぶ。


「私には、絶対に治せないものが一つだけあります。それは、死」


「死?」


 不吉な言葉に、妊婦さんは不安そうにカリバを見た。


「お婆さんは、もうじき寿命なんですよ。いくら私でも、寿命を変えることなんて出来ません」

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