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失恋

「その方法とは?」


「まあ見てろって。アイファ、ちょっといいか?」


「……何?」


 相変わらず、アイファは頭が痛いようで頭を押さえて蹲っている。


「あのさ、お前はさっき、俺のことが好きって言ったよな?」


「うん……言った」


「それなんだけどよ。悪い、俺もう彼女いるんだよ。だから、お前の気持ちは嬉しいが、答えることは出来ない」


 俺への恋心を無くす方法、それは、俺がアイファを振ることだ。どんなに好きでも、相手に振られてしまえば恋愛ってのは諦めるしかない。世の中には好きで好きでたまらないのに、振られて諦めた人がたくさんいる。そいつらは失恋をバネに、新たな恋に向かうのだ。


「え? そんな……でもわたし、彼女がいたって!」


「駄目だ。俺は今の彼女以外とは付き合う気は無いんだ」


 本当は四人も婚約者がいるのに、俺は堂々と嘘をついた。


「そうなんだ……。よっぽどその人が好きなんだね……」


「ああ、好きだ」


 婚約者四人全員、俺は大好きだ。彼女達の為なら、なんだって出来る。


「あのさ、その好きな人って、どんな人なのか教えてもらってもいいかな?」


「いいぞ。俺の好きな人ってのはな。俺の、妹だよ」


 一人とだけ付き合っているということにしているので、俺は萌衣のことを彼女ということにした。


「妹って、まさか、血の繋がっている?」


「そうだ。血の繋がった実の妹だよ」


「そっか。なんかわたし達、似た者同士だよね。わたしは血の繋がったパパのことを好きになって、カプチーノは、血の繋がった妹のことが好きだなんて」


「そうだな。似てるな」


 四人の中から萌衣を選んだのは、血の繋がった相手との恋愛は何もおかしなことではないとアイファに伝えるためだ。そうすることで、アイファの父親への想いは間違っていなかったと思わせていく。


「似てるからこそ、わたしはカプチーノに惹かれたのかもしれないな……」


 本当は俺の能力で無理矢理作られた嘘の恋心なんだが、そんなことは言えない。


「その妹っていうのはさ、今日カプチーノと一緒にいる三人の女の子の中にいるの?」


「いいや。そもそも、今はそいつには会えないんだ」


「会えない?」


「ああ。それで俺はその妹と会うために、お前の力を借りたい。お前の力を使えば、俺はまた妹に会うことが出来るんだ。俺は、なんとしてでももう一度妹に会いたい。だから頼む!」


 頭を下げて、俺はお願いした。アイファの力を借りなければ、俺は萌衣と絶対に会うことは出来ない。なんとしてでも、俺は萌衣に力を貸してもらわなければならない。


「あのさぁ。カプチーノを好きな女の子に、他に好きな人がいるからその人と会うために協力してくれ。なんて言うなんて、おかしいと思わない?」


 確かに言われてみればそうだ。しまった、今のは言うべきじゃなかったか。


「でも、分かった。いいよ」


「え?」


「カプチーノと話しててさ、その妹ちゃんのことが好きなこと、すっごく伝わってきた。あー、わたしには勝てないなって思った。だからさ、せめて、わたしが好きな人に、幸せになってもらうために頑張ろうかなって」


「アイファ!」


 なんていい子なんだ。自分の気持ちより、自分の好きな相手の別方向に向いている気持ちを優先するなんて。

 こんないい子に一瞬でも好きでいてもらえて、俺は幸せ者だな。


「でも、そのカプチーノが好きな子に会うための協力ってのは、わたしが一時的にこの街を出なくちゃいけないんだよね? 出会ってすぐの時に言っていた頼みって、妹ちゃんに会うためのことなんでしょ?」


「ああ、そうだ」


「となると、協力したいんだけど、出来ないんだよねぇ」


「いや、大丈夫だ。お前がこの街を離れないのは、この街がいつもモンスターに襲われているからだろ? そのモンスターが襲ってきた理由、俺達はもう分かっているんだ。そして、それを止める方法も」


「ほんとう!?」


「ああ。驚かないでよく聞けよ。あのモンスターは――お前の父親が召喚している」


「パパが!?」


 驚かないでと言ったものの、アイファはかなり驚いた。そりゃ当然か。好きな相手が悪者だったなんて、驚かないわけない。


「ああ。お前の父親と話していたのは、そのことを確認するためだったんだ」


「そんな……。パパはそんなことをする人じゃないよ!!」


「そうかもしれないけどさ。事実、やっていたことなんだよ」


「なんで……。パパはそんなことを……」


「お前と離れたくなかったからだと」


「え?」


「お前がこの街に残る理由が欲しかったんだよ。お前のことが好きだったから」


 好きな人が遠くに行って欲しくないってのは当たり前の感情だ。ま、アイファの父親はちょっとやりすぎだけどな。


「そっか、そうだったんだね。パパ、そんなにわたしのことを好きでいてくれたんだね……」


 アイファは、嬉しいような辛いような微妙な表情で、そう呟いた。


「そういうわけだ。じゃ、伝えることは伝えたから、俺はちょっと行くわ」


 去って行く俺に、アイファは何も言わなかった。ただ黙って、俺の背中をじっと見つめていた。


 アイファと別れてから、俺はカリバ達と共に建物の陰に隠れた。ふぅ……。やり終えると、疲れが一気にきた。


「流石ですカプチーノ様」


「なんか、やろうと思っていたことをやったのに、あんまいい気持ちじゃないな……」


 人を振ると、こんな気持ちになるのか。俺は今まで数々の女を落としてきたが、振ったことは一度も無かった。

 もう、誰かを振りたくないな。こんな、自分も相手も辛くなる行為、もうしたくない。


「カプチーノ様、アイファさん、カプチーノ様がいなくなってから、ずっと泣いています」


「え?」


 アイファにばれないように、建物の陰からそっとアイファの姿を見てみる。本当だ。カリバの言うとおり、アイファは蹲ったまま泣いていた。


「俺の前では、振られても泣かなかったのにな……」


「女の子って、そういうものですよ」


「そういうもんかね……」


 涙が枯れるんじゃないかと思えるくらい、アイファはたくさん泣いている。

 ごめんな、俺のせいで。


「カプチーノ様」


「なんだ?」


「シスタさん、絶対復活させましょうね」


「ああ、そうだな」

次話でこの街の話はおしまいです。

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