召喚士
「早速だがえーと、アイファだっけか? お前に頼みがあるんだが」
「頼み? 君の言うことならなんでも聞いちゃうよ!!」
よし、完全に落ちてるな。これならもう簡単に頼みを引き受けてくれるだろう。
アイファの発言が意外だったようで、アイファの父親は驚いて目を見張った。
「そいつは助かる。ま、頼みって言っても大したことじゃないさ。後で、俺が呼んだ時に俺が指定した場所に来て欲しいんだ」
四人の伝説級の能力者を全て見つけた後、アイファにはワードルに集まってもらう。
「それって、この街を出るってこと?」
「まあ、一時的にはそうなるかな」
「じゃあ無理かも」
「え!?」
「たとえ一瞬でも、この街を出ることは私には出来ないよ」
「俺の頼みでもか?」
「うん」
落としたにも関わらず俺の言うことを聞いてくれないなんて、こんなこと初めてだ。それに、俺が頼んだことは落ちていない相手ですら引き受けてくれそうな内容なのに。
「理由を聞かせてもらっていいか?」
「いいよ。実はさ、ついさっきも出てきたけど、この街はしょっちゅうモンスターに襲われてるの。でも、この街で戦えるのはわたしだけ。だから、この街を離れるわけにはいかないの。もしわたしが離れたら、この街は滅んでしまうかもしれないから」
「なるほどね。そのしょっちゅうってのは、どれくらいのペースなんだ?」
「うーん。少なくとも一日一回は必ずかな。時間は決まってないから、いつも気が抜けなくて大変なんだよ」
「一日一回!?」
確かにそれは離れるわけにはいかないな。アイファは、好きな人より、街をとったってわけだ。
にしても一日一回とは……。どうりで街の人達も全くビビッていなかったわけだ。もう皆、街がモンスターに襲われるのに慣れてしまっているんだ。モンスターが襲いに来るのが、当たり前になってしまっているんだ。
「だから無理なの。ごめんね」
さて、どうしたものか。俺はなんとしてでもアイファに協力して貰わなければならないんだが。
「モンスターが毎日襲いに来るってことは、何か理由があるってことだよな」
モンスターだって、意味も無く毎日殺されに来ているわけではないだろう。
「理由なんてないと思いますが」
俺とアイファの会話に、アイファの父親が口を挿んできた。
「そうか? 理由が無いわけないと思うけどな」
どう考えても理由あるでしょ。同じ街を毎日襲うなんて絶対おかしいぞ?
「っていうか、立ち話もなんだし、一旦家に来ない? 美味しいご飯も出すよ」
☆
「美味かった。ごちそうさん」
食事はアイファの手作りだった。父親が言うには、朝昼晩いつもアイファが作っているらしい。アイファと父親と色々話して分かったのだが、アイファの母親はもう他界している。だからその分、家事はアイファが一生懸命頑張っているそうだ。父親は、アイファのことをそれはもう自慢げに嬉しそうに話していた。アイファは父親に褒められる度にはにかんでいた。母親はいなくても、この家族は楽しくやれているみたいだ。
「なんか、召喚士系の本が多いですね」
壁中にびっしりとある本棚を見て、カリバはぽつりとつぶやいた。
「わたしのパパは、ちょっと名の知れた有名な召喚士だったんだよ!」
召喚士ねぇ。あんまり詳しくないけど、モンスターを召喚して戦う人だっけか。ん?
「なあ、この街では戦える人はお前しかいないんじゃなかったのか?」
召喚士なら戦えるじゃないか。
「パパはもう召喚士は引退したの。今は普通にお店で働いてるんだ」
「お店って、どんな?」
「お魚売ってるんだよ!」
ふーん。お魚ねぇ。
「その魚売ってるお店に、アイファは行ったことあるのか?」
「無いけど、なんで?」
「いや、なんでも。じゃ、俺ちょっと帰るわ。世話になったな」
「えっ、もっとゆっくりしていっていいのに……」
☆
「カリバ、召喚士について詳しく聞かせてくれ」
アイファと別れて早々、俺はカリバに言った。アイファの家を訪れ、一つ気になったことがある。
「召喚士、ですか? そんなことよりモンスターが出現する理由を探した方がいいのでは? モンスターが来なくなれば、アイファさんも協力してくれると思いますし」
「その出現する理由に関係しているかもしれないんだ」
「そうなんですか? でも私、召喚士についてあまり詳しくありませんよ?」
「どんなことでもいい。教えてくれ」
今は少しでも多く召喚士についての情報を知りたい。俺の知識だけじゃ、まだ今気になっていることの確証が得られない。
「そう言われましても……。えーっと、召喚士は、モンスターを召喚して戦う人のことを言います。呼び出せるモンスターの種類や数は、人によって違く、多い人だと何十体の同時召喚が可能だとか」
「何十体の同時召喚……」
「モンスターを召喚して遠くから見守っていれば、絶対にやられることはないし、もしかして召喚士って最強なんじゃないか? なんて思うかも知れないですが、実は召喚士には弱点があります」
「弱点?」
「半径百メートル以内にしかモンスターを召喚できないのです。ですから、遠くから召喚するということは――」
「カリバ、この街にはアイファ以外に戦える人はいないんだったよな?」
カリバの話している最中に、俺は割り込んで質問した。
「はい。そのはずですけど……」
「よし、街を毎日襲っているモンスターの正体、多分分かったわ」
「本当ですか?」
「ああ、むしろ分からない方がおかしいくらいだ。あのモンスターはおそらく――アイファの父親が毎日召喚している」
次話、なぜモンスターに街を毎日襲わせていたのかが分かります。




