人を生き返らせる方法
長い階段を一歩一歩降りていく。この先で、俺は萌衣を生き返らせることが出来る!
しばらく歩くと、やがて階段の終わりが近づいてきた。仄かな光が、奥から差している。
「ここは――」
階段を抜けると、俺達は学校の体育館ほどの広さの場所に出た。灯りは僅かにある蝋燭の火のみで、あまり明るくは無い。だがそれでも、先程まで歩いていた階段よりは遥かにマシだ。階段はほとんど真っ暗で、ここまで手探りで進んできたのだ。
「あれは、なんでしょう?」
カリバが指差した先には、紫色の煙がモクモクと浮かんでいた。
「ひょっとすると毒かもしれない」
侵入者を殺すために用意されているものの可能性が高い。迂闊に近づかない方がいいだろう。
他にも何か無いかと全体を見回してみる。煙の他に特徴的なものというと、東西南北の端に一つずつ大きな台座があるな。台座はそれぞれ、青、緑、赤、黄と、全て別の色をしている。台座の上には、今は何も無い。
「ここで何をすれば生き返るんだ?」
「さあ。とりあえず、さっきと同じようにお願いを言ってみればいいんじゃない?」
なるほど。確かに試してみて損は無い。他にいい案も思いつかないし、ここは早速シュカの意見に従うことにしよう。
「俺の妹、シスタを生き返らせてくれ!!」
今度は初めから、萌衣ではなくシスタと呼んで叫んだ。これで萌衣が復活すれば最高だが、果たして。
【誰だ? 我を起こしたのは】
なんだ!? 言葉が直接脳内に流れ込んでくる。耳からは何も聞いていないのに、一言一句はっきりと、男の声で俺の脳に伝わってくる。
「誰!?」
シュカが驚いて叫んだ。どうやらシュカの反応を見る限り、声が伝わっているのは俺だけでは無いらしい。ミステとカリバを見てみると、二人も突然の声にあたふたとしていた。
【我が名は"ドルーワ"】
「カリバ、知っているか?」
「いえ、初めて聞く名です」
「そうか」
カリバも知らないとなると、こっちの世界での有名人というわけでもないらしい。ドルーワ。一体何者なんだ?
「ドルーワとやら、お前は今どこにいる! お前の正体は何者なんだ?」
声だけでなく姿を現してほしい。誰かも分からず、ただ脳に声を流され続けるのは気味が悪い。
【目の前にいるではないか】
「目の前? 俺達の前には、煙と土台くらいしかないが」
【その煙が我だ】
「煙がお前だと? どっからどう見てもただの煙なんだが……」
【一見ただの煙でも、実際はただの煙では無い。あまり深くは気にするな。そんなことより、お主、名をなんと言う?】
深く気にするなって言われてもな……。煙に意識があるなんてかなり気になるんだが……。まあ、今はそんなことを気にしている場合ではないか。
「名前を知りたいんだよな? 俺はカプチーノ、そこにいるのは――」
【カプチーノだと!? そうか、もうそんな時期か】
俺がカリバとミステを紹介しようとすると、その前にドルーワが口を挟んできた。
「俺を知っているのか?」
口振りからして、そうとしか思えない。
【今のお主は知らぬ。だが――】
「だが?」
【いや、なんでもない。なるほどな、そういうわけだったのか】
「何を一人で納得しているんだ?」
俺には何も分からないんだが。俺はここに初めて来たはずなのに、なぜこいつは俺のことを知っているんだ?
【気にする必要は無い。今のお前には関係のないことだ。で、何が望みだ?】
関係ないとは思えないんだけどな……。だが、今はそんなことより萌衣だ。一々こいつの発言を気にしたって、萌衣が生き返るわけではないんだから。
「俺の望みは、妹のシスタの復活だ。あんたに頼めば出来るのか?」
【シスタ。なるほど、あの女か】
「シスタを知っているのか!?」
【うむ。だが、我には彼女を生き返らせることはできぬ】
「なんで!」
ここで人を生き返らせることが出来るんじゃないのか!?
【まあ慌てるでない。生き返らせるのは我ではなく、お主だ】
「俺が?」
【そうだ。お主が、お主自身で復活させるのだ。この場所でな】
この場所で、俺が俺自身で萌衣を復活させる。出来るのか? そんなことが俺に。
いや、出来るか出来ないかじゃない。やるんだ。むしろ嬉しいことじゃないか。誰かの力では無く、俺が自ら生き返らせてあげられるなんて。
「その方法ってのは、あんたが教えてくれるのか?」
【うむ。それはもちろん教えよう】
「ほんとか!」
【ああ。だが、人を生き返らせるのは、決して楽な方法では無いぞ】
「楽な方法では無いって、萌衣の命が復活する代わりに俺の命が失われるとかか?」
もしそうだとしても俺は構わない。俺の命より萌衣の命の方がずっと大事だ。喜んでこの命差し出そう。
【ほっほっほ。命に関わるようなことは無いから安心せい。ただ単に、人を生き返らせるのは少々面倒くさいだけだ】
それなら良かった。いくら萌衣のためならなんでも出来るといえども、命を使わなくて済むのならそれに越したことはない。
「で、その方法とは?」
【まず前提として、人の蘇生は百年に一度しか行えない】
百年に一度、か。この後萌衣を生き返らせたとして、また萌衣が死んでしまったらもうどうしようもできないわけか。萌衣が生き返ったら、全力で萌衣を守ろう。萌衣は寝ている時に攫われたんだし、これからはずっと一緒に寝ることにする。
【で、生き返らせる方法なのだが、ある技をこの場所で使うことだ】
「ある技?」
【ふむ。その技を取得すれば、人を生き返らせることは可能だ】
つまり俺がやるべきことは、その技を覚えるってことか。
「その技ってのは、魔法か?」
【そうだ】
魔法か。だとしたら少しまずいな。俺は今、一つも魔法を使えない。なので、俺に魔法を使える素質があるかどうかが分からない。もしかしたら、俺は何をやっても全く魔法が使えない人間かもしれない。
【安心しろ。貴様は使える】
「そ、そうなのか」
何故そんな自信を持ってそう言っているのかは知らないが、使えるのならよかった。ここまで来て、魔法が使えないから人を生き返らせることは出来ませんなんて悲しすぎるからな。
「で、その魔法はどうやって覚えるんだ?」
【端に、四つの台座があるだろう?】
「ああ」
来た時から気になっていたあの台座のことか。予想はしていたが、人を生き返らせる方法にはやはりあれが関係していたのか。
【あそこに、伝説級の能力を持っている四人をそれぞれ立たせればいい。そうすれば、お主は技を覚えるだろう】
「伝説級の能力を持った四人? 誰のことだ?」
【この世界の、最北端、最南端、最西端、最東端に位置する街には、昔から一人ずつ、伝説級の能力を持った人間が存在する。伝説級の能力を持った人間が死ねば、その街にいる他の人間に伝承され、永遠にいなくなることはない仕組みだ】
「へぇー、東西南北にそんな伝説級なんて呼ばれるほどの能力を持った人がいたとはねえ。やっぱ世界って広いな」
【やることは分かったか?】
「ああ。この場所に伝説級の能力を持った四人を連れてくる、だよな。んじゃ、早速その四つの街に行こうぜ! カリバ、ミステ、シュカ!」
【そうだ、一つ言い忘れておったな。その四人には、必ず信用されていなければならない。それを忘れないで欲しい】
本来は一筋縄じゃいかないってことか。だが俺の場合は別だ。俺は、相手が女ならウインクすればいいだけの話。ウインク一つで、相手は俺を簡単に信用してくれる。相手が男ならまあ大変だが。
「カリバ、ここから一番近い端の街はどこだ?」
「ここは世界の中心ですので、どこへ行くのも同じくらいの距離です。ただ、トーブ一族のいる場所に瞬間移動すれば、最北端の街まではすぐ行くことが可能かと」
「よし決まりだ。俺達の次の目的地は、最北端の街だ!」
伝説級の能力か。それって、俺やミステやチカの能力より凄いもんなんだろうか。もしそうなのだとしたら、果たしてそれはどんな能力なんだろうか。まあどんな能力であろうと、絶対にここに連れてくるけどな! せっかく萌衣を生き返らせる方法が分かったんだ。絶対に諦めてたまるかよ!
「っと、そうだ。ここを出る前に、ドルーワに一つだけ聞きたいことがあったんだがいいか?」
【なんだ?】
「まあ大した話じゃないんだけどさ。外の祠、大きさおかしくないか? 遠くから見た時は大きく見えたはずなのに、近づいたら小さかったんだが」
あれがただの見間違いだったとは思えない。どう考えても、遠くから見た時と近くで見た時とでは大きさが違かった。
【なんだそのことか。あれはただ場所を分かりやすくするための幻だ。あれが無いと誰も来れないだろう?】
「えー。そんなことやるんだったら、霧の方をなんとかしとくべきだったんじゃ……」
霧のせいで、祠を大きく見せようが見せなかろうが、どっちにしろ誰も見つけられないと思うけど。
【霧を無くしたら、逆にどんな人でも来れてしまうからな。霧の中でも目を不自由なく使える者のみが、この場所まで来れるくらいでちょうどいいのだよ】
……と、いうことは。ちょっとまずいことしちゃったんじゃないの、俺達。
「あのー、その霧、もう無くなっちゃったんだけど……」
【何!? どうやってあれだけの数の霧を!?】
「いや、まあ普通に、なんでも消しちゃう能力で」
正確にはなんでも"無"にする能力だが。
【そ、そうか。そんな凄い能力を持っていたのか。だがまあいい。再び霧を発生させればいいだけの話だしな】
「そんなこと出来るのか?」
【ああ。というか、そんなことしか出来ないんだがな】
「それなら良かった。じゃ、謎も解けたことだし、今度こそ行くわ。どうせまたすぐ戻ってくるんだけどな。伝説級の能力者4人を引き連れて」
伝説級の能力者集めはサクサク進めていく予定です。
そして次話は、トーブでの話です。




