表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/203

ワードル

 

「あれ?」


 先程見えた時はとても大きく見えたはずの祠が、何故だか近くに来るととても小さかった。子供一人分くらいの大きさだ。

 今まで見ていたものは本当にこの祠だったのか? こんな大きさの祠が遠くから見えるとは思えないんだが。

 ただまあ、大きさはともかく見た目は十分だ。今まで見た事のあるどんな祠とも違っていて、いかにも凄いことが起きそうな感じ。


「さて、ここで何をすればいいのですかね……」


「さあ」


 祠に来たはいいものの、この後どうすればいいのかが分からない。てっきりここに来ることで何かイベントが勝手に始まるのかと思っていたのだが、特に何も起こりそうにない。


「ここの祠に向かってお願いを言えばいいだけなんじゃないの?」


「そうなんかな……」


 正直、そんな簡単に萌衣を生き返らせることは出来ない気がする。そりゃあ霧でここまで来るのはとても大変だったけれど、それでもまだ人を生き返らせるほどの労力では無いと思う。なんてったって命ってのはどんなものよりも大きな存在だし。まあ生き返るのなら万々歳なのだが。


「じゃあ、言うぞ?」


 小さな祠をじっと見つめて、俺は気持ちを込めて叫んだ。


「俺の妹、萌衣を生き返らせてくれ!!」


「……」


「……生き返った、のかな?」


 一切何も起こらず、成功したのか失敗したのかが全く分からない。

 ただ、なんとなくだが失敗した気がする。こういうのって俺の中では、成功すると光ったり音が鳴ったりするイメージだ。それに、願いが叶ったかどうか分かりやすくするために、萌衣をここに生き返らすんじゃないか? いや、死んだ場所で復活とか遺体がある場所で復活とかそういう可能性もあるけどさ。


「願いの言い方が悪かったんじゃないの? だって、萌衣じゃなくてシスタじゃん」


「あ、そうか」


 こっちの世界では萌衣はシスタなんだったな。あっちの世界での名前を言っても意味が無いか。ただ、それだけが原因ってわけでもない気がする。だがとりあえず、挑戦してみて損は無いか。


「じゃあ、もう一度やるぞ?」


 改めて願いを言うことにする。今度は、"萌衣"ではなく"シスタ"と呼んで。


「俺の妹、シスタを生き返らせてくれ!」


「……」


 同じだ。祠からは何の反応も無い。


「これは、失敗だよな」


 百パーセント失敗と決まったわけではないが、失敗だと思っていいだろう。確証は無いが、やっぱり本当に成功したのなら俺達にも分かるようになっていると思う。


「失敗だとしたら、何か願いを叶える条件があるってことですね」


「ああ」


 一番ありそうなのは呪文かな。開けゴマとか出でよ神龍そして願いをかなえたまえとかああいう感じのだ。けれど、もしそうなのだとしたら俺達が萌衣を生き返らせるのは不可能に近い。ただ闇雲に何かを言ったところで、正しい呪文が当たるはずがない。

 だから、発動条件が呪文の可能性はひとまず考えないことにしよう。まだ何も分からないのに、勝手に出来ない条件を正しいものだと肯定してしまうのは愚かな選択だ。わざわざ自ら希望を捨てるような結論を出す気は無い。


 コンコン。


「なにやってるんだミステ!」


 どうしようかと悩んでいると、ミステが俺達の希望であるワードルを何故か叩いていた。もし壊れてしまったらどうするつもりなんだこいつは。


「これしか今の俺達には希望が無いんだぞ? そんなことはやめてくれ」


『壊すほど強くは叩いていない』


「いやいや、どれほどの力で叩けば壊れるかなんて分からないだろ?」


 もしもとても脆い祠だったらどうするんだ。


『平気』


「平気って証拠は無いだろ!」


『証拠は無いけど平気』


 コンコン。コンコン。ミステは、俺の忠告を無視してワードルを叩き続けた。


「やめろって!」


 このままでは本当に壊れてしまう。遂に我慢が出来なくなった俺は、実力行使で止めることにした。

 やることは簡単だ。ミステの腕を掴み、叩く動きを止めるだけ。

 早速、ミステの腕を掴んだ。そしてそのまま動けなく――あっ……。


「やっべ……」


 全身に嫌な汗をかいた。やばい、大変なことをしてしまった。

 ミステの腕を掴んだと同時に、俺は重心を崩してしまい、ミステと仲良く転んでしまったのだ――ワードルを巻き添えにして。

 俺達の体重を支えることが出来なかったワードルは、地面に倒れてしまった。


『カプチーノが悪い』


「いやいや、そもそもお前が!」


『私は 何度か叩くことで萌衣を生き返らせることの出来る何かが発動するんじゃないかと思ってただ調べていただけ』


「あっ、そうなの……」


 じゃあ完全に俺が悪いじゃん。ミステはワードルで萌衣を生き返らせるための方法を探していただけなのに、俺はそれを邪魔して挙句の果てにワードルを倒してしまった。


 もしこれでもう二度と萌衣を生き返らせることが出来なくなったのだとしたら、俺は自己嫌悪に苛まれて自殺してしまうかもしれない。


「あの、カプチーノ様、これを」


 罪悪感でいっぱいの俺に、カプチーノは何かを見せようとした。なんだよ、祠の壊れた部分でも見せつけて更に俺を追い込もうってか? 


「これは――」


 階段だ。さっきまでワードルがあったところに、先の見えないほど長い、砂漠の下へと続く階段がある。どうやらワードルが倒れて位置がずれたことで、それを発見することが出来たようだ。


「ひょっとして、この階段の先に人を生き返らせる方法があるんじゃないの?」


「ひょっとしてというか間違いなくだ! 絶対にこの階段の先に人を生き返らせる方法がある!」


 階段を見つけられたのは、きっと偶然じゃない。これは運命だ。萌衣は、生き返る運命にある!

次話、人を生き返らせる方法とは

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ