霧砂漠
大天使の場所を後にし、俺達はラソの街の中にいた。相変わらず天使の数が多い。というか俺達以外に天使ではない人間がいない。
「世界の中心っていうとどこなんだ?」
「街で言うと、ノーワですかね」
ノーワ。世界に存在する三つの国の内の一つだ。立場だけでなく場所すらも世界の中心だったのか、あそこ。
「じゃ、ノーワまでは瞬間移動ですぐ行けるな。シュカ、頼む」
一度行った場所には、シュカはいつでも行くことが出来る。ここから遠かろうとひとっ飛びだ。
「りょーかい。皆、私に捕まって」
シュカに言われた通り、俺達は各々シュカに捕まった。
「じゃあ行くよ。瞬間移動!」
シュカのその言葉と共に、俺達はすぐにノーワに着いた。瞬間移動時に発生する微妙な浮遊感にも今ではすっかり慣れた。
「やっぱ広いな、ここ」
「そうですね。なんせ国ですから」
ラソが狭かったせいか、余計広く感じる。萌衣が生き返ったその時は、萌衣と一緒にノーワ巡りなんてのもいいかもしれないな。これだけ広ければ、きっと一日遊びまくってもまだまだ遊び足りないぞ。
「で、ここから世界の中心ってのはどれくらいかかるの?」
「世界の中心まで、それほど距離はありません。ただ……」
「ただ?」
「世界の中心は、霧砂漠と言う霧と砂漠に覆われている場所なのですが、そこは、一度入れば絶対に出ることが出来ないと言われています。帰ってきた人は一人もいないらしいですよ」
「霧砂漠、か」
霧だけでもしんどいってのに、どっちもってのは困るな。砂漠は経験したことがないが、歩きにくいというのはなんとなく分かる。
「そこの霧ってのはずっと止まないのか?」
「はい。世界が誕生した頃からずっと霧に覆われていると」
「ふむ」
ということは、待つことは無意味か。もし霧が止むのだったら、そのタイミングを狙って霧が無い間に一気に祠までってのも考えてたんだけどな。
「まあ行くしかないでしょ。シスタを生き返らせるワードルってのは、多分そこにあるんだろうし」
「だな。そもそも、シュカの瞬間移動がある時点で帰ってこれなくなることはまず無いだろうし」
「そうですね。では参りましょう」
☆
「なあ、今どれくらい歩いたよ?」
「さあ……」
霧砂漠。想像以上だった。暑いし周りは何も見えないし、最悪な場所だ。
『喉渇いた』
「あー、俺も」
なんで俺達は食料も水分もろくに用意せずに突入してしまったんだろう。準備を怠るのは駄目なんてことくらい誰でも分かることだっていうのに。第一、帰ってきた人は誰もいないってことを知った上で準備を何もしないって、俺達馬鹿すぎるだろ。
「私も限界です。シュカさん、瞬間移動で水を買ってきてくださいますか?」
あーなるほど、考えたな。確かにシュカなら今すぐ水を購入することが可能だ。
「いや、無理だから」
「なんでさ!」
「だって私の瞬間移動はあくまで行ったことがある場所に行くっていう能力で、知っている人のいる場所に行くって能力じゃないんだもん。でさ、ここって何も目印になるものが無いから、水を買いに行った後に戻ってこれないと思う。霧砂漠自体に飛ぶことはできるけど、多分カプチーノ達がいるところには戻ってこれずに、普通に霧砂漠の中のどこか分からないところに着いちゃうよ」
「あー、そっか……」
こんな霧と砂漠しか無いところで俺達のいる場所に戻ってくるのは無理か……。言われてみれば当たり前だよな。だって、今いるここが霧砂漠のどの辺に位置しているのか、誰も分からないんだもの。
「ということは、水を得られずに歩き続けなきゃいけないのか……」
「大丈夫です! 一応霧って水滴じゃないんですか。だからこう、霧を飲めば」
パクパクと、カリバは霧を飲もうとした。なかなかにアホな姿である。
「……何にも満たされないです」
「だろうな」
なんでこんなに霧があるのにすげえ暑いんだよ。よく知らないけど霧って気温が低いと発生するんじゃなかったっけ? 全然気温低くないんだけど、むしろ超高いんだけど。マジで霧があるのに暑いってのが全然納得できない。ほんとなんで霧が発生してるの? 意味が分からないんだけど。
「とりあえず、歩くしかないのか……」
色々考えたところで、暑いことも霧があることも変わらない。一体いつがゴールなのか、そもそも今ちゃんとワードルにむかえているのか、それすら分からないけど、今はとにかく歩くしか無さそうだ。
「帰ってきた人がいないってのも納得ですね……」
「ああ……」
徐々に足は重くなり、歩くのも嫌になってくる。なんでよりによってワードルはこんなところにあるんだよ……。
あ、そうか。簡単に行ける場所にあったら皆が人を生き返らせることが出来ちゃうからか。当たり前だけど、人を生き返らせるのも楽じゃないな……。
「カリバ、そもそも俺達はどれだけ歩けばいいんだ?」
「それが、帰ってきた人がいないだけあって、中心に行くにはどれだけかかるかってのは、誰も分からないんですよ。そもそも中心にそんな祠があるなんて、今日初めて知りましたし」
「あぁ……。ますます到着できる気がしなくなってきたぞ」
「ですねー……」
誰も分からないような場所に行くって、難易度高すぎるでしょ。
「せめてこの霧が無ければなあ。これさえ無ければ簡単に行ける気がする」
霧があるか無いかで全然違う。そもそも霧が無ければもう祠が見えるかもしれないし。というか、霧があって何も見えないせいで、祠に近づいたとしても近づいたことに気づけないよね、どうすんのこれ。
『霧 消したい?』
「ああ、そりゃ消せるもんならな」
『じゃあ 消す』
「へ?」
一瞬だった。周りにあった霧は跡形もなく無くなった。視界は悪くなくなり、辺り一面を見渡せる。
『霧を無にした』
「おぉ……」
ミステの能力って霧みたいなもんでも無にできるのかよ。てっきり、物とか生き物とかしか消せないと思ってた。
にしても。
「それがあるなら、最初から言ってくれよ……」
今まで歩いてた時間、すっげえもったいないじゃん。
「あ、あそこ!」
シュカが指さす方を見てみると、遠くの方に何か祠っぽいものが見えた。
「あれが、ワードルか?」
祠にしてはえらく大きい。よく知らないけど祠ってもっと小さいもんなんじゃ。
「おそらくそうだと思います。他には何も見当たりませんし」
「よし、じゃあ行くか!」
まだ結構距離はありそうだが、霧があるか無いかで全然違う。祠まで歩くスピードもどんどん上がっていく。
もうすぐだ! もうすぐまた萌衣に会える!!
次話、人を生き返らせることが出来る祠「ワードル」です。




