五分五分
「この場所では、あらゆる能力が使えないのです」
「あらゆる能力が使えないだと?」
そんな場所があってたまるか。
「ミステ、なんか消してみろ」
こそこそと、小声でミステにそう伝えた。
『了解』
すぐに二文字の魔法の文字が浮かび上がった。能力はともかくとりあえず魔法は使えることが確定か。さて、どうなるか。
『!?』
「どうした?」
『何も消せない』
「マジか?」
こくり、とミステが頷く。
能力が、使えない。能力に頼りまくって世界一になった俺にとって、そんな場所の存在はかなり不安になった。
「私を落とすことはできません」
「くそ!」
じゃあもう完全に予言は聞けないのか?
「ですが、私はあなたの希望を完全に消してしまったわけではありません」
「そうなのか?」
「はい。ツヨジョさんは覚えていますか?」
「もちろんだ。だからこそここに来たんだからな」
ツヨジョが大天使様の存在を教えてくれたから、俺は会いに来たんだ。
「そうですか。それはよかったです。では、私が出す予言をする条件なのですが、そのツヨジョさんとの――再戦です」
「再戦?」
意外な条件だ。
ツヨジョとは、強くなったらまた戦ってほしいと頼まれた。それが今なのか?
「そうです」
「だけどよ、そんなに強くなったってのか? 前戦った時はそんなに……」
そんなに強くなかった。正直、相手にならないほどに。
「ふふ。驚きますよ、きっと。ではお呼びしましょう、ツヨジョ!」
大天使様がそう叫ぶと、大天使様の後ろからひょっこりとツヨジョが現れた。
「お久しぶりです」
「ああ、久しぶり」
見た目は、変わっていないな。綺麗な翼は相変わらずだ。
「武器の使用は不可で、能力は分かっていると思いますが使えません。それでは、どうか頑張ってください」
大天使様のそんな言葉を皮切りに、俺達の戦いが始まった。
さて、どれだけ変わった?
あれからまだ一年も経っていない。たったそれだけの間にそんなに変わったとは思えないが。
「カプチーノさん」
「なんだ?」
「私、実はカプチーノさんと出会うまで修行をした事が無かったのですよ」
「ほう」
俺だってないけどな。シュカと一緒に気合いを溜めたくらいだ。
「修行をした事が無い人が修行をすると、どれほど強くなるか、見せてあげます!」
そう言って、ツヨジョは俺の元へ飛び込んできた。
そして、迷わず俺に向かってパンチを繰り出した。
俺は軽々と右掌で受け止めようと――何!?
止められなかったわけではない。俺の右手は、ツヨジョの攻撃を確かに止めている。
だが、前にツヨジョと戦った時とは明らかに違った。拳が、重い。
たった一撃を受け止めただけで、俺の右手はひりひりとしている。
「やはり、そう簡単にはいきませんか。けど――ッ!」
素早くパンチを放った左手を引き、今度は右手をまるで大砲のように俺に撃ち放った。
「うぐっ!」
なんとか左手で受け止めたが、これはそう何度もさせていい攻撃では無い。おそらく、このまま反撃をせず受けたままでは俺はやられる。
「こんの!!」
左手でツヨジョの右手を抑えたまま、右手で拳を作り脇腹へと叩き込もうとした――が、ツヨジョは俺の拳撃を読み、余っていた方の手で俺の拳を受け止めた。
「くっ!」
お互いに、片方の手を掴まれ、片方の手を掴んでいる状態だ。
「このッ!」
蹴り技は隙が多いと判断し、俺は自らの頭をツヨジョの肩に強くぶつけた。ツヨジョは軽く咳き込むと、俺の拳を掴んだ手の力を弱めた。
いまだ! ここで一気にしかけようと、解放された手で、この隙にツヨジョの腹部に全力で突きをお見舞いしようとした。――が。
「――ッ!?」
隙があったのは俺の方だった。力を弱めたツヨジョの手は、いつの間にか俺の助骨の部分にあった。
あの時握る力を緩めたのは、俺の攻撃に怯んだからではなく、反撃するためだったのか!
ガードできずに受けてしまった攻撃は、想像以上に俺にダメージを与えていた。じんじんとした痛みは、なかなか消えそうにない。
――だが、甘いな。
俺に攻撃を与えたことで満足をし、油断をしていたツヨジョの軸足の脛を、俺の蹴りがぶち当たった。
なんとか転ばないようにツヨジョは耐えたが、転ばないことに集中しすぎてしまい、隙が生まれた。その瞬間、両手で拳をつくりツヨジョの胸に強烈なワンツーを放つ。
「うっ……ぐっ!」
だがツヨジョは俺の攻撃にぐっと耐えると、素早く反撃した。くるりと回転し、回し蹴りを俺の頬に向けて放つ。
俺は避けられずに蹴りを受けてしまった。口の中で血の味がする。どこか切ったか。
「なかなか面白い勝負ですね」
俺とツヨジョの勝負を見ていた大天使様が、嬉しそうに笑った。
「たったこれだけの間で、ここまで強くなっていたとはな。びっくりだ」
「私もびっくりです。あれだけ修行をしてもまだカプチーノさんに勝てないとは」
「俺は強いからな。そう簡単にお前に負けないんだよ」
俺を倒せるのは、チカだけだ。
「カプチーノさん、なぜツヨジョが強いか分かりますか?」
大天使様が、俺に質問を投げかけた。
「ステータがカンストしてるんだろ?」
だから俺と同じくらいの強さなんだ。
「いいえ違いますよ。ツヨジョは修行の果てに、攻撃力、防御力などのステータスとは無縁の力を手に入れたのです」
「ステータスとは無縁だと?」
「そうです。今の彼女が力照会をしても、攻撃力や防御力は全て???になります。彼女の力は、そういった数値で表されるものでは無いのです」
「数値で、表されない? 本当なのか? ツヨジョ」
「さあ。私、修行をしてから一度もしたことがないので」
「ちょっと、ここでしてみてくれないか?」
大天使様の言っていることの真偽をこの目で確かめたい。
「分かりました。力照会!!」
しばらく待ったが、何も出てこない。
「あの、二人とも。この場所では、能力は何も使えないのですよ?」
俺とツヨジョを見て、大天使様は、何をしているの? とでも言いたげな顔でそう言った。
「あぁ、なるほど」
そういやこれは、誰でもできる"能力"だったな。だからできないのは当然か。
「ただ、確認しなくても、私が言っていることは本当です」
証拠は何も無いのだが、嘘をついているようにはとても見えないし、ここは大天使様を信じることにしよう。
「で、じゃあその"???"ってのは、攻撃力9999よりも上なのか?」
「そんなことはありませんよ。どちらが上なのかなんて決まっていません。単純に、ツヨジョの強さは攻撃力という指標では測れないもの、ということです」
「そうか」
攻撃力9999よりも強いわけではないと聞いてとりあえず安心した。まだ俺の負けが決まったわけじゃない。
「そもそもなぜこの世界に、HPや攻撃力なんていう数字があるか知っていますか?」
「いや、知らない」
前から疑問には思っていた。
この世界はゲームでは無い。それは確実だ。なのに、"ステータス"という存在はどう考えてもゲームにあるものだ。現実で能力値を数値化するシステムなんてありえない。
「そうでしょうね。"今のあなた"はそれを知るはずがありません。けれど、いずれ知る時が来るでしょう。いや、知るというよりも、"する"と言った方が正しいでしょうか」
「???」
言っていることがわけが分からず、俺は頭に大量の疑問符を浮かべた。
「すみません。私のせいで興が削がれてしまいましたね。試合を再開してください」
「はあ」
「では、行きますよ!」
大天使様との会話が終わるや否や、ツヨジョは再び俺に攻撃をしかけてきた。
大天使様が言いたいことや、なぜツヨジョのステータスが数値化されないのかは結局分からないままだ。だが、一つ分かることは。
「この試合を、俺はとても楽しんでるってことだ!!」
こんな勝負は初めてだ。完全な五分五分。どちらが勝つかは分からない。
「私も、楽しいですよ!」
俺に攻撃を仕掛けながら、ツヨジョは言った。
「そうか、そいつは良かった。俺だけ一人で楽しんでたってしょうがないからな!」
ツヨジョの攻撃をギリギリのところで捌きつつ、俺からも攻撃をしながら答える。
「だけどよ、最後に勝利の女神がほほ笑むのは、誰だと思う?」
「決まっているじゃないですか、勿論――」
「この俺だ!!」
「この私です!!」




