出発
「大天使様?」
「帝王杯に、ツヨジョってのがいたのは覚えているか?」
「決勝で私が戦った相手ですよね?」
「そうだ。俺、帝王杯決勝の前日にあいつに会ってたんだよ」
そこで俺は、ツヨジョと戦った。
「そうだろうとは思っていました。あの人、私と戦っている時明らかに手を抜いてましたので。カプチーノ様が決勝の前にウインクをして落としたのでしょう?」
「いいや」
俺はツヨジョにウインクをしていない。あいつとは、ウインク抜きで分かり合った。
「ええと、じゃあ一体何を?」
「ちょっと色々あってな。ま、そんな大したことじゃない。そこでだ。あいつ、天使だっただろ?」
「そうでしたね、大きな羽が生えていました」
「で、天使のあいつから聞いたんだよ。天使の中で最も偉い存在『大天使様』のことをな。その大天使様ってのは、予言を得意としているそうなんだが、その予言、実際に当たってた。少なくともツヨジョにした予言にはな」
「ツヨジョさんにした予言?」
「簡単に言えば、帝王杯に出れば強い奴に会えるって予言だな」
「強い奴? 私、そこまで強くないですけれど……」
「お前じゃない、俺だ。大天使様は俺が帝王杯に来ることを予想していたんだ」
「なるほど、話が読めてきましたよ。カプチーノ様は、ツヨジョさんと戦ったのですね? 大天使様の予言通りに。で、既に満足したツヨジョさんは、私との勝負には力を入れてなかったと」
「大体そういうことだ。そういうわけだから、大天使に会いに行くことにする」
「分かりました」
『大天使 場所 分かる?』
「天使で最も偉い存在なんだし、調べればすぐ分かるだろ」
「調べるって、誰が調べるの?」
「そうか、シュカは知らないんだったか。ここにいるカリバさんはな、情報収集に自信たっぷりなんだ。な?」
「チカさんにコテンパンにされてそんな自信無くなりましたけどね……」
遠い目をして、カリバは呟く。
「それを言えば俺なんて自信満々で挑んであいつに一瞬でやられて気絶したんだぞ? あいつは絶対に勝つことが出来る能力とかいう反則的なもん持ってたんだ、負けたのは仕方ないだろ」
あいつに勝てる人間なんて絶対この世に存在しない。
「それはそうですけど……」
「むしろ、ここで調べることができれば名誉挽回じゃないか!」
「……そうですね。分かりました! やってやりますよ!」
よかった、これで大天使様のいる場所に行けそうだ。本当に、カリバの情報収集にはいつも助かっている。ネットが無い世界での情報収集なんて俺には絶対無理だもん。
☆
「なんか、すぐにわかりました」
頑張ります! と気合いを入れてすぐに、カリバは帰ってきた。
「なんなら、知らなかった方がおかしかったくらいです」
「そんなにか?」
「はい。なんてったって大天使様って、超有名人ですよ。噂では何千年も生きているとか」
「何千年……」
何千年も生きると、世界ってどんな風に見えるのだろうか。
「はい。ですから、簡単に居場所が分かりましたよ」
「その居場所ってのは?」
「天空に浮かぶ街『ラソ』です」
「ちょっと待て、今お前、天空に浮かぶって言ったか?」
「はい、言いましたけど」
空に街なんてあったのか、びっくりだ。
「というか、天使って空飛べないんじゃなかったのかよ。なんで空に大天使様がいるんだよ」
うっかり落ちちゃったらどうするんだよ、飛べないんなら死んじゃうぞ?
「さあ、それは分かりません。ですけれど、ラソは確かに天使の街ですよ」
「空の街ねぇ。というか、空にある街なんてどうやって行くんだよ。トーブ一族に頼むか?」
シュカの瞬間移動を使えばすぐにトーブ一族のいる場所に行けるし、まあトーブ一族の力も借りれないことは無いと思うけど。
「いえ、大丈夫です。誰の力も借りません」
「本当か?」
「行けば分かりますよ」
「そうなのか? んじゃ、まあ行くか、そこに」
俺達の次に行く場所が決まった。天空に浮かぶ街『ラソ』だ。
簡単に荷物をまとめ、旅路の準備を始める。今まで一緒に行動していた萌衣の姿は、ここには今は無い。だが、すぐにまた会える、きっと。
「行こう」
シュカとカリバとミステを見回して、俺は言った。
人は生き返るんだ。たとえそれが、禁忌だろうとなんだろうと知ったこっちゃない。
準備を終え、トタースを四人で出た。
今は四人だが、次ここに来ると時は絶対に四人ではない。萌衣を含めた、五人だ。




