この世には、人を生き返らせる方法が存在する
『この世には、人を生き返らせる方法が存在する。死は決して、絶対的なものでは無い』
俺はかつて、この文を読み思った。
"人は死ぬ時が来たら死ぬ。俺だって、その時が来たら受け入れる"と。
だが俺は、その時が来ても受け入れることはできなかった。
人は死ぬ時が来たら死ぬ。確かにその通りだ。だが、彼女の死は早すぎる。彼女の死ぬ時は、今じゃない。
まだ十三年しか生きていない彼女は、あまりにも生きていなさすぎる。彼女の幸せは、これからだったのに。――いや、彼女の幸せじゃないか。俺と彼女の幸せ、か。
俺は思う。彼女がいない人生なんて、他に何があろうとも何の価値もないと。今の俺は、もしリエカの一文が無かったら、命を捨てることなどなんの躊躇いもなかったはずだ。
「萌衣」
会いたい。会って、また話したい。
「どうしますか、カプチーノ様」
暫く沈黙を続けていた俺に、カリバは問いかけた。
「決まってるだろ? やるよ。萌衣を生き返らせる」
リエカの男は、俺を信頼して秘密を託した。だが俺は、あんたが託したこの秘密、私的に使わせてもらう。
「そう言うと思っていました。カプチーノ様にとってのシスタさんは、他の誰よりも大きな存在ですものね」
そう言って、カリバは少し悲しそうな目をした。
「確かに俺にとって萌衣は大きな存在だ。妹でもあり、嫁でもあるからな。妹ってのはお兄ちゃんにとって一番大切な存在だし、嫁ってのはこれから先の人生を共にする一番大切な存在だ。だがまあ、他の誰よりもってのは違うぞ。俺にとって、萌衣とシュカとカリバとミステは、全員が優劣つけることなく一番だ。お前ら全員大事だ」
「カプチーノ様!」
俺の言葉を聞いて、カリバは元気になった。
「さて、話を戻すぞ。この世には人を生き返らせる方法がある」
「そうですね。あそこまでリエカの方が大事にしていらしたのですから、本当のことだと思っていいでしょう」
「ああ。だから今回はこの情報を完全に信じることとする。で、だ。問題は、この生き返らせる方法が何も分からない」
「そうですよね、ただ生き返らせる方法があると言われても」
何か無いのか、生き返らせる方法が分かる手段は。
「もう一度、リエカに行きますか?」
「いや、間違いなくリエカの人もこの"人を生き返らせることができる"ということしか知らない。聞いただろ? あの男は村長からこの秘密を託されたって。だが、この秘密を持っていた村長さんは死んでいる」
「確かにそうですね。ですが、それ以外に手がかりといいますと……」
「無い、な」
だからといって諦めるつもりは無いが。
「あ! カプチーノ、起きたんだ! もう、ずうっと寝てたんだよ!」
カリバの部屋にシュカが飛び込んできた。シュカの手には一枚の濡れタオルがある。おそらく俺のために用意してくれていたのだろう。
「おう、シュカか。心配させてごめんな」
「あれ? てっきりシスタのことで落ち込んでると思ったのに、元気あるね」
俺の様子を見て、シュカは戸惑った。
「まあな。だって、萌衣とはまだ会えるし」
「会える!? そんなわけないよ! だって、シスタはもう……」
「死んだ、だろ? だけどなシュカ、死んだからって会えなくなるわけじゃないんだ」
「えーと……、カプチーノ、やっぱりまだ具合悪い?」
心配そうに俺を見る。
「いや、俺はおかしくなってそんなこと言ってるんじゃないんだ。これを見てくれ」
シュカに、この世で最も大きな秘密の書かれた紙を渡した。
「何これ? まさか、こんな紙切れに書いてあることを信じてるの?」
シュカは紙に書かれた一文を全く信じていない。まあ当然か。
「それがただの紙切れだったら信じないさ。ただな、それはただの紙じゃないんだ。その紙を巡って、何人もの命が無くなった」
「何人もの、命が……」
「ああ、だからその紙は信頼性はあるんだ」
「本当なの? カリバ?」
「はい、その紙に書かれたことは事実だと思っていいですよ」
「そう、なんだ。でも、これだけじゃシスタには会えなくない? 生き返る方法何にも書いて無いし」
「だから、それを今考えてるんだよ。希望を持てないよりはずっといいだろ?」
何も縋るものが無いと、俺はもう壊れてしまう。
「おぉ!!」
今度は、ミステが来た。ミステにしては珍しく、いきなり魔法文字では無く地声だ。
『復活?』
あ、結局『おぉ!!』以外は魔法文字なのね、まあいいけど。
「ああ。そもそもダメージは全然受けてないし、ずっと寝てたのは多分ただの疲労だ」
『よかった』
嬉しそうにミステはニコっと微笑んだ。
そういえば、ミステの手にはずっとパフェが乗っているな。シュカと同じように、俺のためにわざわざ用意してくれてたのか。
「ぱくっ」
と思ってたら、ミステは自分の持っていたパフェを美味しそうにもぐもぐし始めた。え? それミステ用だったの? 俺のために準備してたんじゃないの? まあもし俺のためだったら、眠っている人にパフェの準備とか意味が分からないけど。
「全員揃いましたか。では、改めて考えましょう。人の生き返る方法を」
「考えるって言ってもなあ。そんな簡単にできるものなら、既に誰かが実際にやっただろうし」
『未来が見えれば可能』
「どういうことだ?」
『カプチーノは 未来でシスタと会っている自信 ある?』
「ああ。絶対に萌衣を生き返らせる」
『なら 未来 見ればいい 生き返らせる方法を 自分から学ぶ』
「いやでもさ、仮に未来が見れたとして、色々矛盾するだろ? もし未来の俺が生き返らせることが出来るなら、それを知って俺は生き返らせるわけだけど、だったら未来の俺はもちろん過去に未来の俺を見たことでその方法を知ったわけだし……」
『大丈夫』
「なんでだ?」
駄目だろ普通。
『今このまま未来を見ずに進めば 自力でカプチーノが人が生き返る方法を見つける こうなる未来を仮に未来Aとする』
『未来Aを見ることで未来そのものが変わる 未来Aを見ることで 本来行くはずだったはずの未来Aは 未来Aを見た私達の未来では無くなり 未来Aを知らない私達の未来となる 私達が向かう先には新たな未来が生まれる』
「えーと、よく分からんが、要するになんだ?」
『未来さえ見れれば 生き返らせる方法を知ることは可能 ただ進む未来が移動するだけ 矛盾は生まれない』
「よく分からんが、ミステがそう断言するならきっとそうなんだろうな。というか、なんでお前そんなこと知ってるのさ」
ミステってこういうこと知ってるような人だったっけ?
『図書館で見た"もしも世界が一つでは無かったら"という本の内容 未来を知ることで未来は無限に存在出来て その一つ一つが別の世界だと書かれていた』
「あー、そういえばお前、そんなの読んでたな」
イオキィの図書館で、ミステがその本を読んでいるのを見た気がする。異世界とかの話じゃなくて、そういう内容の本だったのか。
「って言ってもなあ。未来なんて見れるわけ――」
何かが引っかかる。あれ? 俺、未来を見る方法をどこかで知ったような……。
なんだ? どこで俺は知ったんだ? 思い出せ。これを思い出せば、俺は萌衣を!
「そうか!」
イオキィだ! 俺はあそこで、未来を見る方法"予言"を使える人物を知ったんだ!




