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「ここだな!」


 急いで走って、俺達は目的地へとたどり着いた。


「ボイトコ、聞いたことの無い街ですね」


 街の前にあった看板を見て、カリバは呟く。


「どんな街だろうと関係ない、萌衣を探すぞ」


「探す必要は無いぞ」


 街の中を探索しようとした瞬間、顎鬚を伸ばした男が俺達の前に現れた。


「誰だあんたは。あんた、萌衣の居場所を知っているのか?」


「ああ知っているとも。それよりお前、本当に俺のことを覚えていなのか?」


「ああ、知らない。そんなことより早く萌衣を出せ!」


 早く萌衣に会いたい。萌衣を助けたい。


「そうか、覚えていないか。だがな、俺はお前のことを忘れたことは一度も無い。それどころか、この街の男全員、お前のことを忘れたことは無いだろうよ」


「どういうことだ?」


 この街に、俺は今日初めて来た。だから、俺とこの街の男全員との接点なんて無いはずだ。

 だとすると、俺が世界一強く偉くなったことが関係しているのか?


「カプチーノ様、この男、名前は知りませんが前にトタースで見た記憶があります」


「なんだと?」


「この男、おそらく……」


「おっ、どうやらそこの側近の女は俺の正体に気付いたようだな。もっと多くの男を見れば、お前も分かるんじゃないのか?」


 顎鬚男がそう言うと、何人もの男が四方八方から現れた。

 全員の男を見ても、やはり何も分からない。誰なんだこいつらは。


「すまん、あんたには悪いがさっぱりだ」


 第一、俺は男の顔なんて一々覚えているはずがない。俺は男が嫌いなんだ。


「これだけ見ても分からんとは、つくづくイラつくやつだ。ならば教えてやろう。俺達は――元トタースの住人だ」


「元トタースの住人だと?」


「そうだ。貴様が女だけの街をつくるために追い出しただろう?」


「なるほどな、そういうわけか」


 確かにトタースに追い出された人なら俺のことを覚えていて当然だ。俺のせいでトタースにいられなくなったんだからな。

 そして、俺がこいつらを覚えていないのも当然だ。俺はトタースにいた男なんて全く興味無くて誰一人記憶していないからな。


「で、俺に追い出されたあんたらがなんの用だ。萌衣はどこにやった」


「何の用かって? そんなの決まっている、復讐だよ」


「復讐だと?」


「少し、お前に追い出された男達の話をしよう」


「そんなことはどうでもいい! 早く萌衣の居場所を!」


「まあそう焦るなよ。まずは黙って聞け。それからでも遅くないだろう?」


「チッ」

 

 何が「遅くないだろう?」だ。遅いに決まっているだろうが。俺は一刻でも早く萌衣に会いたいんだ。

 だが、ここで何を言っても話を聞くまでは萌衣のことを教えてもらえそうにない。くそ! イライラする。


「じゃあ話させてもらおうか。ある男の話だ。男は、ある一人の女を愛していた。だがその男は、最初は全く想い人に振り向いてもらうことができなかった。だが、何度も何度もアプローチを繰り返し、ついに女は男の想いに答え、付き合うことになった。付き合い始めてからは、それはもう幸せな毎日だったそうだ。なのに、ある日突然、愛し合ったはずの女は、別の知らない男に恋をしていた。まだキスすらしたことの無かった彼女が、たった一夜にして、別の男と性行為まで済ませていたんだ。当然男は絶望したよ」


「また別の男の話をしようか。トタースに住んでいたとある男の話だ。その男は、妻と娘と、仲良く三人で暮らしていた。お金こそあまり無いものの、男にとって最高の家庭だったらしい。ある日のことだ。妻と子が夜になっても家に帰ってこない。何も知らせずに帰ってこなかったことなど今まで一度も無かったのに。次の日、男は衝撃を受けた。なんと、妻と娘は朝に帰ってきて、帰ってくるなり、知らない男のことを好きになったからここを出ると言うのだ。昨日までは愛し合っていたのに、たった一日で、家庭は崩壊さ。顔も知らない男によってね」


「今度は男の子の話をしよう。男の子は、小さい頃に父親を失い、母親と二人で暮らしていた。母親はとても優しく、男の子はいつも母親に甘えていた。ある日のことだ。急に、トタースから男は全員出て行くということになった。知らない男がそう勝手に決めたらしい。母親と別れたくない男の子は、当然それを拒否した。トタースに残りたい、トタースに残りたいと言い続けていたんだ。だが、その男の子がトタースに残っていたかった理由である大好きな母親は、そんな必死な男の子に何もしてくれなかった。それどころか、トタース追放が決まってから一度も顔もあわせてくれなかったらしい」


「こんな話がまだまだたくさんあるんだが、聞くか?」


「いや、いい」


「そうか。さて、この男達の話の中には、必ず『知らない男』という人物が登場するんだが、それが誰だか分かるか?」


「……ああ」


「そうだよな、分からないはずないよな。俺達は、最初こそ『知らない男』だったが、すぐにその男のことを知ることが出来たよ。何せ、トタースに残った男は一人だけだったからな。そいつがその『知らない男』の正体だと、気付かないわけあるまい」


 こいつが言う『知らない男』とは、もちろん俺のことだ。

 酷いことをしている自覚はあったが、実際にこうして話を聞くとそのクズっぷりがよく分かる。ほんと俺ってのは最低野郎だな。


「すまなかった」


 謝って済む問題で無いことくらい分かっているが、俺は謝った。

 だが正直、俺は男のことなんてどうでもいい。今の話を聞いても、俺は女を落とすのをやめるつもりはないしな。クズならクズらしくクズのまま生き続けてやる。


「すまなかっただぁ? そんな言葉を聞きたくて、俺はお前をここに呼んだわけじゃねえ」


 怒りを剥き出しにして、男は怒鳴った。


「じゃあなんだ、トタースに再び住むことが目的か?」


 再び住んだところで、俺が落とした女はもう二度とこの男達の元に帰ることは無いだろうが。


「今更あんな街戻る気になんかならねーよ。そんなことより、俺達が望んでいることは他にあるんだからな。言っただろ? 俺達の用は復讐だって」


「その復讐ってのは具体的に何だ」


「お前をボコボコにしたいってのが一番なんだが、そんなことが出来ないことくらい俺達は分かっている。お前の強さは有名だからな。だから――お前の絶望に満ちた顔を見ることにした」


 ニヤリ、と男は不気味に笑った。


「どういうことだ?」


 男が何をしようとしているのか分からない。だが、なんだか凄く嫌な予感がする。


「まあ見てれば分かるさ。おい! あいつを連れて来い!」


 男がそう合図をすると、二人組の男が一人の女の子を連れて出て来た。


「萌衣!」


「お兄ちゃん!!」


 連れてこられた女の子は萌衣だった。萌衣は俺の顔を見るなり笑顔になったが、目が腫れているのを見ると、今まで泣いていたことが分かる。


「お前ら、萌衣に何をする気だ」


「いいねえその目」


 萌衣の隣の男は、ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべた。


「何をする気だ! 言え!」


「何って、決まっているだろ?」


 一呼吸置くと、男は続けた。


「――こういうことだよ」


 俺の目の前で、"萌衣の生首が宙を舞った"。


 一瞬だった。萌衣の隣にいた男の剣が、一瞬で萌衣の首を切った。


「ああああああああああああああ!!!!!!」


 萌衣は、死んだ。

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