二人の国王
「ここがノーワか」
帝王杯をした街、イオキィよりも更に広い。現在どんどん大きくなっているトタースでもこの広さにはまだまだ及ばない。
「さて、どこへ向かえばいいんだ? 手紙にはそういうことはちっとも書いて無かったが」
「普通に考えればあの城でしょうね」
カリバが指さす方向には、とても大きな城がある。
「んじゃ、あの城まで行ってみるか」
色々興味の湧く店の横を通ったが、今はスル―して城の方へと向かう。
近づけば近づくほど大きな城だ。地震とか来たらヤバそう。そもそも異世界に地震があるのかどうかは知らないが。
城に着くと、城の前にはたくさんの兵がいた。さすが国王様のいる場所だ。ちなみに俺の街トタースの城の前にはあまり兵はいない。自分の身は自分で守れるし。
兵に構わず城に入ろうとすると、すぐにその兵達に囲まれた。
「貴様ら、何用だ!」
持っていた剣を俺達に向けながら、敵意むき出しで聞いてきた。
「お客様だよお客様。トタースのカプチーノって言えば分かるか?」
「トタースのカプチーノだと? 貴様がそうである証拠がどこにある! さては、カプチーノのふりをして国王を襲おうって根端だな!」
「違うって! 俺は本当にカプチーノだ。証拠は、無いが」
証拠ってそもそも何を渡せばいいんだよ。
はぁ……。兵士が女だったら落とせたんだがな……。
「あーごめんごめん。その人、ほんとにカプチーノ君だから」
どうしたものかと戸惑っていると、服の乱れた若い女性が城の中から現れ兵士達に告げた。
「そうでありましたか! 無礼な振る舞い、大変申し訳ございません!」
女性の言葉を聞くや否や、兵士達は態度を一変させ、全員俺達に頭を下げた。
「いやぁ、早かったね。大丈夫? 迷わなかった?」
「えーと、あんたは……?」
「私? 私はワンス、ノーワの国王さ」
この人が、国王……。
人の上に立つようなオーラは、正直全く感じられない。
「ちなみにもう一人の国王のファストのハジメちゃんはここ最近ずっとノーワに泊まり込んでるからすぐに会えるよ」
ファストの国王の方はハジメと言うのか。そっちの人はこの人とは対照的に国王っぽい感じなんかな。
「一緒にいるのはお仲間さんかな?」
「ああ」
ここで、全員お嫁さんです、なんて言おうものならどう思われるか分かったもんじゃない。
「じゃあお仲間さんもせっかく来てくれたんだし、一緒についてきてもらおうかな」
そう言ってから、ワンスは歩き出した。俺達五人は、その後ろをついていく。
「なんだか、国王様っぽくないね」
「まあお兄ちゃんだって国王様っぽくないし、いいんじゃないの?」
「確かに」
シュカと萌衣が、こそこそとワンスに聞こえないように話す。自覚はあったが俺も国王様っぽいと思われてなかったのね……。
にしても、国王様なのに女とは。なんか勝手に男だと思っていた。
「ここだよ」
しばらく歩くと、綺麗な装飾の施された扉の前で止まった。
「ご飯用意してあるからさ、皆でおしゃべりしながら食べようよ」
そう言ってから、ワンスは扉を押した。
「おぉ」
テーブルに並べられた食事を見て、ミステが感嘆した。
ミステの気持ちはよく分かる。並んでいる食べ物はどれも見るからに美味そうだからな。
「好きなところに座って食べててね。私はハジメちゃんを連れてくるから」
そう言うと、扉を閉めてワンスは出て行ってしまった。
「えーと。飯、食べるか?」
「食べる!」
「そうか」
正直、いきなり食事に連れてこられても、俺は食べる気にはならない。
ワンスのことをまだ何も分からない以上、トタースを潰すためにこの食事に毒を盛っている可能性だってありえる。
『美味』
「あっ……」
ミステが普通に食べ始めてしまった。本当に毒が入ってたら大変だ。
「ハジメちゃんを連れてきたよ!」
扉を開け放って、新たな女を連れてワンスが入ってきた。え? ハジメの方も女だったの?
「あれ? そこのちっちゃい子しかご飯食べてなかったの? 遠慮することないのに。美味しいよ?」
そう言ってから、ワンスはテーブルの上のパンを一つとって食べた。ふむ。ワンスが食べたってことは、どうやら毒は入っていなかったようだな。よかった。
「あ、あの……ワンスちゃん。カプチーノって、男の子だったの?」
「言ってなかったっけ? そうだよ、カプチーノは男だよ。今ホットな人物なんだから、ハジメちゃんもそれくらいは知ってないと」
「だ、だって……普段全然外のこと聞かないし……」
「もう! それでもファストの国王様なの?」
「うぅ……」
なんか弱そうな子だな。ワンスより更に国王らしくない。
「さて、皆揃ったことだし、改めて自己紹介しよっか。私の名前はワンス、ここノーワでは国王をさせてもらっているよ」
「えと、その、わ、私は、ハジメ。ファストの、国王」
「俺はカプチーノだ。トタースの国王でもある。で、こいつらは俺の仲間」
俺に紹介されて、カリバ達は「どうも」とお辞儀をする。ミステだけはまだご飯を食べているままだけど。
「な、なんで、仲間の人、全員、女なの?」
「なんでって言われてもな」
もちろん婚約者であることは言わない。さて、なんて説明しようか。
「トタースは女性しかいない街なのです。だから、私達が女であるのも当然です」
俺の代わりにカリバが答えてくれた。
「そう、なんだ。なんで、女の子しか、いない街なの?」
これまた回答に困る質問。
「世の中には、色々な街があるということですよ」
「な、なるほど。勉強になる」
それで納得しちゃうのかよ。
にしても。
俺はずっと、ある一つのことを考えていた。
世界を束ねる二つの国の王は、二人とも女性だ。
ということは――俺の能力『全ての女を落とす目が通用する。
――やらない理由は無いよな。
俺は、国王二人にウインクをした。そして――
国王二人は落ちた。女ってのは好きな男の言うことならなんでも聞く生き物だ。なので、彼女達はもう俺の意のままに操れる。それはつまり――俺は今、世界を思うがままに操れる存在となったのだ。




