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約束

「カプチーノ様、客人が来ました」


「客人?」


 俺の元で働いている女が、俺の部屋に入るや否やそう報告した。


「はい、どうしますか?」


 どうしますかって言われてもな。


「そいつは男か?」


 男だったら問答無用で追い出しておいて欲しい。正直今は客人の相手をするのは面倒くさい。客人の相手をすることくらいしか楽しみが無かった前とは色々違うのだ。


「いえ、女です」


「そうか、女か。でもなあ」


 もう街の女はこの半年で十分すぎるほど集まったし、一々女の来客にウインクをして落とそうとも思わない。


「どうすっかなあ」


「なんでもその客人、カプチーノ様のお知り合いだとか」


「知り合い?」


「はい。約束を果たしにきた、と」


「約束ねえ」


 街の外にいる人と何か約束なんてしたっけか。全く覚えていない。


「ふむ」


 その約束とやらがなんなのか気になるな。


「そいつをここに呼んでこい」


「分かりました。後、出来ればカリバ様とミステ様とシスタ様も呼んでほしいとのことです」


「あいつらも? なんでだ? まあいいや。分かった、部屋に集めておくよ」


   ☆


「わたし達にお客さん?」


「ああ。俺達の知り合いなんだとよ」


「わたし、こっちの世界じゃ知り合いなんて全然いないよ?」


「俺だってそうだ」


『知り合いを装ったテロリストの可能性』


「いや、ないだろ。というかもしそうだったとしても、俺とミステがいればテロなんて出来ないしな」


『確かに』


 納得したらしく、ミステはこくりと頷いた。


「カプチーノ様と約束を交わした人で、なおかつ私達が知っている人でしょう? でしたら、あの人しかいないじゃないですか」


「お? カリバは誰が来るのか分かるのか?」


「むしろ、分からない皆様の方にびっくりなのですけど」


 俺達が話していると、扉が二回ノックされた。


「カプチーノ様、客人を連れて参りました」


 扉の向こうから、先程俺に報告に来た女が言った。いつも思うのだが、ここで働いている女は全員敬語で話すので、話し方に特徴が出ず誰が誰だか分からなくなることがある。敬語禁止令でも出すべきだろうか。


「そうか、ありがとう。客人とやら、入っていいぞ」


 俺がそう言った途端、勢いよく扉が開いた。


「久しぶり!」


 扉が開いた途端、少し懐かしい声。


「おお! 元気だったか?」


 客人の正体は、俺達と共に何日も修行をした女の子、シュカだった。なるほど、確かにシュカなら俺達全員と知り合いだ。


「もちろん。私、風邪ひいたことないからね!」


「シュカさんがここに来たということは、トーブ一族には認められたということですね?」


「うん! 私の技見せたら、皆超びっくりしてた。もう私をバカにする人はトーブ一族には一人もいないよ」


「そっかぁ。おめでと、シュカちゃん!」


『めでたい』


「こちらこそありがと、シスタ、ミステ」


 えへへ、とシュカは笑った。


「で、約束というのは、トーブに認められたら私達の元に戻ってくるということですよね?」


「そう! これからよろしくね! っていうか、私びっくりしちゃった。カプチーノ、世界で一番強い人なんて言われてるんだもん。トーブの方までその話届いてたんだよ?」


「凄いだろ?」


「超凄い! 只者ではないとは思ってたけど、まさか世界で一番強いとはねえ」


「まあ本当は俺は世界で一番強いわけじゃないんだけどな」


 ミステやチカの方が俺なんかよりずっと強い。


「そんな謙遜しないでって。でさ、この街って最近国になったんでしょ? 凄いなぁ、カプチーノは国王様ってわけだ」


「もうそんなことまで知ってたのか」


 国になったのなんてつい最近のことなのに。


「当たり前だよ! 歴史的なことなんだし、知らない人なんていないよ」


「そう、なのか」


 トタースの外から来たシュカが言うことで、国になったことの凄さを改めて感じた。


「あ! でもね、凄いのはカプチーノだけじゃないんだよ! 私にだって凄いことがあるんだから!」


「ほう」


 シュカは誰が見ても分かるくらい自信満々だ。


「なんと私の瞬間移動、自分だけじゃなくて、皆と一緒にとぶことも出来るようになりました!」


「なに!?」


「あくまで私が行ったことのあるところだけなんだけどね」


 なんてことだ。超便利な能力じゃないか。

 今後、どこかへ行くときにシュカと一緒にその場所へ行けば、それ以降はいつでも俺達はその場所へ行けるってわけだ。


「試しに一緒にどこか行ってみる? と言っても、私全然他の街とか行ったことないんだけどね」


「行く行く! わたし瞬間移動経験してみたい!」


 身を乗り出して、萌衣は元気よく手を挙げて言った。


「私もお願いします!」


 萌衣と同じように、カリバも興奮していた。


『興味深々』


 ミステも瞬間移動してみたいようだ。というか、誰だって興味あるよな。一瞬で遠くまでの移動なんて、普通経験出来ないことだし。


「よし、じゃあ俺ら四人を全員瞬間移動してくれ」


「分かった! じゃあ皆、私に捕まって」


 シュカに言われた通り、俺達は各々シュカの体に捕まる。


「じゃあ行くよ? ほい!!」


 一瞬、微妙に浮遊感があった気がした。そして。


「瞬間移動完了!」


 さっきまで建物の中にいたはずなのに、いつの間にか俺達は野原にいた。


「すごい! すごいよシュカちゃん!」


 ぴょんぴょん跳ねて、萌衣が喜ぶ。


「本当に一瞬でしたね」


「そりゃまあ瞬間移動だしね。それより皆、ここに見覚えは無い?」


「見覚えって……あ!」


 覚えていないわけがない。ここは――


「私達が、初めて出会った場所。そして、修行をした場所」


 そうだ。ここは、何日も何日も気合いを溜めたあの場所だ。


「私がここに連れてきたのには、理由があるの」


「思い出の場所だからだろ?」


 俺にとってもシュカにとっても、ここは大切な思い出の場所だ。


「そう、思い出の場所だから。私が大切なことを伝えるには、ここしか無いし」


「大切なこと? トーブに認められた以外に、まだ何かあるのか?」


「あるよ。とってもとっても大切なこと。人生で一番大切なこと」


 シュカは決意に満ちた顔をした。


 ゴクリと生唾を飲む。表情を見れば分かる。これからシュカは、何かかなり大きなことを言う。シュカにとっても、俺にとっても凄く大きなことを。


「カプチーノ」


 俺の名前を言って、シュカはじっと俺の目を見た。俺も、じっとシュカの瞳を見返す。

 静寂が辺りを包む。

 風の音と、心臓の鳴る音だけが、耳に入ってくる。

 この心臓の音は、シュカの音か、俺の音か、それとも両方か。


 一瞬とも永遠とも思えた沈黙の中、シュカはゆっくりと口を開き、勇気を振り絞って言った。

 


「――私と結婚してください」

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