討伐
「なんであんたがついてきてるわけ?」
依頼元へと向かって走っている最中、共に行動しているチカが俺に問う。
「気にしないでお前は任務にあたってくれ」
「気にしないでって、気になるに決まってるでしょ。気が散る」
「そう言われてもな」
俺はチカの力の正体を知りたい。だから、チカの行動を見ていたい。
「チカ、ここが依頼をしてきた街だ」
暫く走ると、チカの父親がそう言った。
「ここは……」
俺は街を見た瞬間、リエカを思い出した。瓦礫の山と人の死体だらけの、酷い状態だ。
「来てくださいましたか!」
街の生き残りの人が、俺達を視界に捉えるや希望に満ちた声をあげた。
「状況は?」
挨拶などはせず、チカはすぐに対策に当たろうと状況説明を求めた。
「山の奥から恐ろしいモンスターが降りてきて、街を襲っているのです」
リエカと違って、敵は人ではなくモンスターか。
「そのモンスターは今どこに」
「まだ街を襲っています。ついてきてください」
言われた通り、男についていく。
すぐに、そのモンスターの存在を視界に捉えた。モンスターはゾンビのような見た目をしている。
モンスターは姿はそれほど大きくないが、どす黒いオーラを纏っており、強力な敵であることが窺える。
「あいつ?」
「そうです。とても強大な力を持っており、街のものは誰一人敵いませんでした」
「分かった。じゃあちょっと待ってて。すぐに片づけるから」
そう一言言うと、チカはモンスターの方へと瞬足で動いた。
そして――
一瞬にして、モンスターは倒れた。
まただ。また見えなかった。
モンスターの方まで行ったところまでは見えたのだが、それからどんな攻撃をしたのか全く分からなかった。
「何も分からず、か」
ついてきた意味は、残念ながら無かった。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
チカがモンスターを倒すやいなや、男は何度もお礼を繰り返した。
「じゃ、お金は後でリクトに持ってきて」
「分かりました。本当にありがとうございます」
なるほど。挑戦者との勝負の収入だけではとても生活出来ないと思ったが、こうやって金を手に入れていたのか。
「じゃ、帰ろ」
父親に向かい、チカは一言そう呟く。
「むむむむむ」
「どうしたカリバ?」
カリバは、何かが引っかかるようでずっと悩んでいた。
「あのモンスター、どうも見覚えがあるような気がして」
「見覚え? この街の近くまで来たことがあるってのか?」
ここからトタースはかなりの距離がある。トタースに住んでいたカリバはこんなところまで来たことがあるとは思えないのだが。
「そうではありません。というより、直接私の目で見たのではなく……」
直接見たことないのに見覚え? どういうことだ?
「思い出しました!!」
突然、カリバが叫んだ。
「あのモンスター、世界で一番強いと言われているモンスターにそっくりなんですよ!」
「世界で一番強いモンスター? それって、大龍王じゃないのか?」
あの、ミステが一瞬で消してしまったドラゴンが世界で一番強いと俺は聞いた。
「あれはあくまで世界で一番強い"ドラゴン"です。私が言っているのは、世界で一番強い"モンスター"です」
「えーっと、ドラゴンはモンスターじゃないのか?」
「当たり前です!」
ドラゴンとモンスター、違うのか。ゲームじゃ普通ドラゴンもモンスターなんだけどな……。
「先程倒したモンスター、サイズは私が知っているものよりだいぶ小さかったのですが、腐死姫の見た目と一致しています。恐らくは、子供でしょうか」
「あれでだいぶ小さいって、本来の大きさってのはどのくらいなんだ?」
さっきのモンスターは、人と同じくらいのサイズだった。
「大龍王より、大きいかと」
「おぉ……」
大龍王はかなり大きかった。だが、それよりも更に大きいとは。
「その腐死姫ってのは、有名なのか?」
「知名度は大龍王に並ぶかと。なぜ今まで忘れていたのか不思議なくらいです」
「そうか」
大龍王ほどの知名度を持つ、世界最強のモンスターか。
「ということは、そいつを倒して首を持ちかえれば、俺の実力は世界中に知れ渡るな」
今度はミステに、無にしないように頼めばいい。そうすれば、首はきちんと持ち帰れる。
「間違いなく知れ渡るかと。そして、子供がこの街を襲ってきたということは、腐死姫もこの近くに住んでいる可能性が高いですね」
「ふむ」
その、腐死姫の討伐をしたいと思う気持ちが高まる。
だが、チカのことはどうする? 俺はまだ、チカの強さについて何も分かっていない。このままチカと別れ腐死姫のところに行ったら、なんのためにチカのところまで来たのか分からない。
「うーん」
どうしよう。正直どっちも捨てがたい。
「カプチーノ様。ここは一度、腐死姫を討伐しに行きましょう。私は正直、チカさんにこのままついていったところで何か分かるとは思えません」
「でもなあ……」
俺は、チカの強さの秘密が知りたい。チカとの出会いを無駄にしたくない。
「世界征服したいのでしょう?」
世界征服、そうだ。俺の目標は世界征服だ。
「ならば、選ぶべき選択肢は、一つしかないはずです」




