修行の成果
今日もまた、俺達は修行をしていた。
「うぉぉおおおおおおお!」
シュカが大きな声で気合いを溜めると、ゆっくりと上空へと浮かんでいく。
「大分浮けるようになってきたな」
「うん!」
シュカは、かなりの高さを浮けるようになっていた。
「けど、空は飛べないんだよねぇ」
そう、いくら浮かべても、シュカは空を自由に飛び回ることが出来なかった。ただ、垂直に上に浮かんでいくだけ。
「そうなんだよね、どうしてなんだろ……」
「大丈夫! いつかきっと飛べるよ!!」
自信を無くしてしまいそうなシュカに、萌衣がエールを送る。
「そうだよね! トーブ一族の皆を見返すため、頑張る!!」
「よし! その意気だよ! ほら、もう一度気合いを溜めんるんだ!!」
「分かった。うぉぉおおおおおおおお!!」
萌衣の言葉に頷き、シュカが再び気合いを入れた瞬間、信じられないことが起こった。
「え!?」
なんだ? どうなっているんだ? こんなの絶対おかしいだろ、だって――
「シュカちゃんが、消えちゃった!」
そう、シュカの姿がどこかに行ってしまったのだ。
「シュカさん、隠れているのでしょうか」
「いや、皆シュカの姿を見てただろ? 隠れる隙なんて無かったって」
俺は、修行中ずっとシュカの姿を見ていた。目を離した覚えも無い。なのに、突然視界からシュカが消えてしまった。
『周り どこにもいない』
周囲を見渡していたミステが、魔法文字でそう書く。
「シュカちゃんどうなっちゃったの!? これって神隠しだよね!?」
なんだか嫌な予感がする。こういう事はあまり考えたくないが、もうこの世にシュカの存在は無くなってしまったのかも……。
「ミステが消したとかじゃないんだよな?」
『違う 消してない』
ミステを疑ってなどいないが、一応確認しておく。
「うわぁぁあああん! シュカちゃんが死んじゃったよぉぉぉおお!」
萌衣はシュカを死んだと判断し、泣き出してしまった。
「死んだと決まったわけじゃないだろ!」
そうだ。あいつはそう簡単に死ぬような人間じゃない。
だが、そう思いたくても、もしかしたら本当に死んでしまったのではないか? という嫌な考えが脳を支配していき、それ以上は何も言うことが出来ず、ただ萌衣の泣き声だけが耳に入ってきた。
「おっす! ただいまー。って、あれ? なんで泣いてるの?」
暗い空気の中、突然素っ頓狂に明るい声がした。
「って、シュカ! お前どうして」
俺達の前にはいつの間にかシュカの姿があった。ついさっきまでそこにはいなかったのに。
「むっふっふ。聞いて驚くがよい! なんと私は、トーブ一族に残る伝説の能力を持っていたのだ!!」
暗かった空気をぶち壊して、自信満々にシュカはそう言った。
「伝説の能力? そんなことより、心配してたんだぞ! お前、どこ行って」
「どこに行ってただって? それは――トーブ一族の住んでいる場所さ」
「どういうことですか? トーブ一族は、ここからかなり遠いところに住んでいるはずなのですが」
「トーブ一族にはね、有名な伝説があるの」
「伝説?」
「うん。『トーブの民は、最初はあらゆるところへ行くことが出来る能力を持っていた。だが、それを悪用し、様々な悪事を働いたトーブ一族は、その能力はトーブ一族には相応しくないと神に判断され、その能力は没収されてしまった。しかし、それでは一族の特色を失ってしまう、どこへでも行くことが出来ないなんて、それはもうトーブ一族なんかではない。トーブ一族がトーブ一族では無くなることを恐れたトーブ一族の民達は、神に願った。どうか、私達に私達だけの能力を恵んでください。二度と悪事を働かぬと誓いますので、と。そうしてトーブ一族は、空を飛ぶ力を得た』っていうね」
「じゃあ、おまえは」
「うん。どこへでも行くことができる能力を手に入れてしまいました!!」
「マジ?」
「うん、マジマジ。ただ、ちょっと試してみて分かったんだけど、私が行けるのは本当にどこでもってわけではなくて、行ったことのあるところだけみたいなんだけどね」
「いや、でもそれでもすげえよ。瞬間移動なんてさ」
はっきり言ってチート級の能力だ。
「だよねだよね? 凄いよね?」
「うん! おめでとうシュカちゃん! ということは、えーと、シュカちゃんは、もう空は飛べなくてもいいの?」
「うん! それより凄い能力を手に入れちゃったからね」
「そっか、ということは、目標達成、でいいのかな?」
空を飛べるようになったわけではないけれど、トーブ一族に認められるために頑張って修行していたのは報われたんだし、まあいいんじゃないか?
「というわけで、早速またトーブ一族の皆のところに行ってくるよ! それで、今まで私のことをバカにしてた人達を、見返してやるんだ!」
「ということは、私達とはもうお別れですかね」
「え!? あ、そっか。シュカちゃん、トーブ一族のところに行っちゃうんだもんね」
『寂しい』
シュカとお別れと分かって、カリバと萌衣とミステは寂しそうな顔をした。
「お別れ……? 嫌だよ! そんなのしたくないよ!!」
別れと気づいて、シュカはそう辛そうに言った。
「お別れするくらいなら、私、トーブ一族になんか戻らない!!」
「シュカちゃん……」
「だから、私も、皆と一緒に行かせて!」
涙を流しながら、シュカは頼む。
だが。
「ダメだ」
俺は、シュカの頼みを拒否した。
「なんで? どうして駄目なの? 私のこと、嫌いになっちゃった?」
「そうじゃない。嫌いになんかなるわけないだろ。だけど、それは駄目だ」
「どうして!?」
涙を流し、信じられないといった目で俺を見る。
俺はその目をしっかりと見つめ、シュカに言った。
「お前はなんのために修行をしていたんだ?」
「空を飛ぶため、だけど」
「なぜ空を飛びたかった」
「トーブ一族の皆に、認めてもらうため」
「だろ? だったら行って来い。俺はお前の修行を、無駄にしたくない」
「でも!!」
俺の言葉に反論するシュカに、俺は更に言葉を続ける。
「それで、お前がトーブ一族にきちんと認めて貰えたら」
その時は。
「俺達のところに、戻ってこい」
「カプチーノ!」
シュカの涙が、嬉し涙へと変わっていく。
「分かった。私行くよ。トーブ一族のところへ。そして、その後は!」
「頑張れよ、待ってるからさ」
「うん!!」
嬉し涙を流したまま笑顔を見せて、シュカは姿を消した。
「さてと、俺達も行くか」
何日も修行をした馴染みある草原に背を向け、俺達は歩き出した。




