シュカの気持ち
シスタとミステとカリバは、脱衣所を通り過ぎ家族風呂の浴槽へと突撃した。
そこでは、カプチーノとシュカが二人仲良く風呂に入っていた。
「これは、どういうつもりなのかな?」
「シ、シスタ!? それに、カリバにミステも!」
「お前ら、なぜここに?」
カプチーノとシュカは、突然入ってきた三人を見て驚いた。
「最近シュカさんとカプチーノ様の様子がおかしいからあとをつけて来たのです。そしたら、二人きりでお風呂などと……」
悲しそうな顔で、カリバは言った。
「そういうことか……。だが待ってほしい。俺は別にやましいことなんて何も無い」
「何も無い? 今の状況が既にやましいことだと思うけど?」
男と女が二人で入浴。普通におかしな状況だ。
「そうです! それに、カップル用のパフェを食べているのだって見たのですからね!」
「あ、あの時もいたの!?」
「そうだよシュカちゃん。わたし、あーんってやってるとこ見ちゃったんだからね!」
「うっ……」
もっと周囲に気を付けていれば良かったとシュカは後悔したが、時すでに遅し。
「大体、初めて会った日は裸見られるのすら嫌がっていたくせに、恥ずかしげもなく一緒にお風呂に入っちゃってさー、おかしくない?」
「それは……カプチーノが体を褒めてくれるから」
顔を火照らせて、シュカは小さな声で呟く。
「ねえシュカちゃん、お兄ちゃんにウインクされたの?」
シスタは、シュカは兄の能力にかけられているのかどうかを確かめるべく、訊ねた。
「ウインク?」
だがシュカは、何のことだか分からない、と言った感じで首を捻る。
「ウインク、使ってないみたいですね」
「使うわけないだろ。しょうがねえ、俺が全部説明するよ。別に隠すようなことでも無いしな。お前らにも言おうと思っていたんだが忘れてた」
その言葉を聞いた三人は、カプチーノの次に出てくる言葉を聞き逃さぬようにと耳を傾けた。
「これもさ、修行なんだよ。空を飛ぶための」
「……え?」
カプチーノの言った言葉を、三人は理解できなかった。
『修行は 気合い溜めだけだったはず』
「そうです! 大体、二人でいちゃいちゃしているのが修行って、言い訳が見苦しいですよ!」
「いやそれがさ、シュカって、前も聞いたかもしれないが誰とも付き合ったことが無かったんだよ。で、もしかしたら愛情を知れば、空が飛べるようになるかもってことで、俺がカップルっぽく接してやったわけ」
「愛情を知れば飛べるようになるって、その根拠は何さ!」
「なんかシュカが言うには、そういえばトーブ一族の中でもカップルや既婚者は空を飛ぶのが上手かったって」
「ほんとなの、シュカちゃん?」
「も、もちろん本当だよ!」
「怪しい……」
「怪しいですね」
『嘘の可能性 99%』
恋愛と空を飛ぶ行為が関係しているとは、三人は思えなかった。
「え、嘘なのか?」
三人の反応を見て、カプチーノも嘘の可能性を疑い始めた。
「うぅぅう……」
「どうなのシュカちゃん!」
「どうなんですか!」
「……言っても怒らない?」
小さな声で、シュカはおずおずと聞いた。
『理由次第』
「じゃ、じゃあ言わない」
「もう、ミステちゃんのバカ! 理由次第とか言わないの! 大丈夫だよ? 怒らないから言って、シュカちゃん!」
「ほんと?」
「ほんとほんと!!」
シスタの言葉を信じ、シュカは決心してゆっくりと口を開いた。
「……ただカプチーノとイチャイチャしたかっただけ」
「……やっぱり」
「ですよねー」
『予想通り』
「え? そうなの? イチャイチャしたかっただけなの? マジ?」
カプチーノ以外は、全く驚くことなく、シュカの口から告げられた真実を聞いた。
「だって、カプチーノと一緒にいたら、いつの間にか」
「好きになっちゃってたと?」
「うん……」
顔を朱くして、シュカは頷く。
「だって私、今まで友達さえ出来たこと無かったのに、空も飛べないのに、カプチーノは優しくしてくれて。一緒にお風呂に入った時は、私を見て綺麗な体だって言ってくれて」
「あーあ、元の世界にいた時は、女なんて全く寄ってこない可哀想な人だったのに、すっかりモテ男に」
シスタは、カプチーノが何もせずにただアニメばかり見ていた頃を思い起こした。あれからまだ一年と少ししか経っていない。たったそれだけの期間で、人はこんなにも変わるものなんだなぁと、感慨に浸った。
「元の世界?」
「こっちの話、気にしないで」
「俺、能力無しで女を落としたのか」
カプチーノにとって、それは初めてのことだった。異世界転移をするまでは家族以外の女性とはまともに関わったことも無かったし、異世界転移後は、女は全て『全ての女を落とす目』で手に入れてきた。
「あの、わたしとミステちゃんも、お兄ちゃんにウインクされてないんだけど?」
「萌衣は家族愛だし、シスタは記憶喪失で俺との約束だけを覚えていたからだろ。シュカとは違う」
シュカは、家族でも記憶喪失でも無い。それなのに、カプチーノに惚れた。
「私、こんな感情初めてで、それで、カプチーノともっと一緒にいたくて、修行のためって嘘ついて、カプチーノとデートしてた。ごめんなさい!!」
申し訳なさそうに、シュカは謝る。
「まあシュカちゃんの気持ちも分かるけどね。せめてわたし達には言っておいて欲しかったなぁ」
「同じ感情を持つ、仲間同士なんですからね」
『恋バナ 出来たのに』
「だって、そういうの言うのって、恥ずかしいじゃん……」
「恥ずかしいことなんかじゃないですよ? 誰だって恋はするものです」
「そうそう。で、お兄ちゃん、シュカちゃんの気持ちを聞いた今、どうする?」
「どうするって?」
「何か思うところがあるでしょ?」
「……まあな。正直嬉しいさ。俺なんかが、こんな可愛い女の子に好きになってもらったんだからな。女に飽きた俺でも、シュカになら飽きないかもしれない」
「じゃあお兄ちゃん、シュカちゃんと付き合うの?」
「いいや、それはない。俺には恋愛なんかより、やらなくちゃいけないことがある」
「やらなくちゃいけないこと?」
「決まってるだろ。――世界征服だよ」




