決意
目を覚ました客人は、何が起きたか分からないといった感じでひたすらキョロキョロとしていた。
「これで満足か?」
俺の方はこんな簡単に終わってしまうとちっとも満足では無いのだが、とりあえず力の差を理解させることはできた。
「マジ、かよ……」
「大マジだ。満足したならさっさと帰りな」
「こんなに強い奴がこの世界にいたなんて……」
俺の言葉には全く聞く耳を持たずに、客人はぶつぶつと呟いている。
「カリバ、追い出せ」
全く動きそうになかったので、仕方なくカリバに追い出してもらうことにした。
が、カリバが追い出そうとすると、客人はカリバを拒み、俺に質問した。
「なあ、あんた何レべなんだよ! それだけの力、何レべになれば手に入る?」
「レベル? ああ、1レべだよ1レべ。あんたより遥かに下だ。大体お前だって知ってただろ? 俺がモンスターと戦ったことが無いってこと」
こうして客人の相手をすることはよくあるが、この世界では人間同士で戦ったところで全くレベルは上がらない。
レベルをあげる方法は、モンスターを倒すことのみ。
だから、この街から全く出ていない俺はLv1のまま。
「1レべ? あの力でか?」
「そうだ。信じられないなら見るか?」
この世界では誰もが、簡単に自分のステータスを可視化する能力を持っている。
「ほらよ、力照会」
ステータスを出すを決まり文句を一言唱えると、俺の手元に一枚の紙が現れた。
その紙を客人に渡す。
「な、なんだこれ!?」
驚くのも無理はない。
書かれていたのは
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Lv 1 カプチーノ
HP:9999 MP:9999
攻撃力:9999 防御力:9999
素早さ:9999 運32
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という、驚異的な数値だったからだ。
ちなみに運が32なのは、運に関しては何も上げていないから。
何せこの世界には運を上げるアイテムが無い。
運はこの世に生まれた瞬間にもう数値が決まっていて、そこから変えることはできない。
「な、レベル1だろ?」
「確かにレベル1だけど、このステータスなら俺が勝てねえわけだ。こんな馬鹿げたステータス見た事ない。ひょっとしたらあんた、この世界で一番強いんじゃないか?」
「確かに、そうかもしれないな」
世界一の可能性を、俺は否定はしない。
だって、異世界に来るまで俺は数多くのゲームをしてきたが、こんな能力値、改造してあるソフトくらいでしかあり得なかった。
「でもよ、こんなに強いのに、あんたの力の噂はほとんどの奴が信じてねえ。現に俺もあんたに実際に会うまでは全く信じてなかったからな。けど、そんなのもったいなくねえか?」
「もったいない?」
「ああ。あんたなら、世界を手にすることだってできるかもしんねえのに」
「世界、だと?」
考えたことも無かった。
世界を手にするなんて。
「ま、結局はあんたの生き方なんてあんたの勝手だけどな。じゃ、そろそろ帰らせてもらうわ。戦いには負けたけどよ、あんたみたいな強い人が見れて良かったよ。じゃあな」
そう言うと、客人は背中を向けて帰って行った。
「そうか、世界か」
金も女も有り余るくらい手にして、俺は少し退屈していた。
だが。
「まだこんなに心躍ることがあったとはな!」
今俺は、初めて女をウインクで落とした時と同じくらい興奮していた。
世界を手に入れる。
今の俺には、それができる。
「決めたぞカリバ!」
カリバの方へ振り向くと、俺は声を大にして叫んだ。
「俺は、世界を手に入れる!!」