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気合い

 

 シュカに出会った翌日、俺達は早速修行をすることにした。


「で、何をすれば飛べるようになるんだ?」


「知らない。前も言ったけど、皆歩くのと同じように当たり前に空を飛ぶの」


「そ、そうだったな。ちなみにお前は、どんな修行をする気でいたんだ?」


 修行のためにトーブ一族を出たのだから、何かしら計画があったに違いない。


「何にも決めてなかったよ。ただ、色々な街を回っていればいつかは飛べるようになるかなあって」


「あのなぁ……」


 おそらくそれじゃあ一生かかっても飛べるようにはならないぞ?


「なんか良い案は無いかなぁ……」


 俺が初めて歩いた時のことを思い出そうとしたが、さすがに無理だ。そんな昔の記憶あるわけない。


 萌衣の時はどうだったっけか。確か、萌衣の手を持って「あんよが上手、あんよが上手」とかお袋がやっていたような。

 じゃあ、空が飛べる人間にシュカの体を持ってもらって、「とぶのが上手、とぶのが上手」とかやればいいってのか? いや、そもそも周りに空が飛べる人間がいないから無理だ。


「気合いだよ!!」


 次にやることを皆で考えていると、萌衣がそう言った。


「気合い?」


「そう! 飛ぶ! って気持ちをいっぱいいっぱい出せば、きっと飛べるよ!!」


「そんなわけ……」


「よし、やってみる!!」


 嘘、本当に実践すんの? 多分無駄だよ?


「はぁぁあああああ!!」


 シュカが、声を上げて気合いを溜める。いや、意味無いって。ただ疲れるだけだからやめなって。


「頑張れシュカちゃん! 頑張れシュカちゃん!!」


 それを応援する、我が妹萌衣。


「はぁあああああああ!!」


 シュカは萌衣のことを信じ、叫び続けた。

 そして。


 ほんの10cmくらい、シュカの体がふんわりと浮いた。


「飛んだ! 飛んだよ! ちょっとだけど、確かに飛んだ!!」


「うん! おめでとうシュカちゃん!」


 嘘だろおい、こんなことで飛べるようになるのかよ。大体、気合いを溜めるだけで飛べるなら、もうとっくに飛べてただろ。気合いを溜める機会なんていくらでもあっただろうし……って、普通気合いを溜める機会なんて無いか……。


「見てた? 見てた?」


 嬉しそうに、シュカはぴょんぴょんと跳ねる。


「ああ、見てたよ。おめでとう」


 飛べた理由はなんであれ、やるべきことは分かった。

 

「シュカちゃん! 今日からちゃんと空が飛べるようになるまで毎日気合いを入れまくるんだよ!」


 そう、とにかく毎日気合いを入れまくる、これが飛ぶための修行だ。

 ……これって修行って呼べるのか? まあ、これが正解なんだから、深く考えるのはやめよう。


「よーし! じゃあシュカちゃんと一緒に、私も気合いを溜めるよ! ほら、カリバちゃんもミステちゃんもお兄ちゃんも!」


「え? 私達もですか?」


「そうだよ! 頑張る時は一緒に頑張るんだよ!!」


「はぁ……私もですか」


「そうだよ! 気合いだよ気合い!!」


「分かりましたよ、協力すると約束しましたものね。では、うぉぉおおおおおお!!」


 恥ずかしいのか少し顔を朱くしながら、カリバは叫んだ。


「ほらほら、そこの二人も」


『うおおおおおおおおおおお!』


 萌衣に促され、ミステは真顔で魔法文字でそう書いた。いや、絶対気合い溜めてないよねそれ。楽しようとしてるよねそれ。


「ほらほらお兄ちゃんも」


「分かってるよ。見てろ? この中で一番大声で気合いを溜めてやるよ!」


 この中で唯一の男だ。女なんかに声量で負けるわけにはいかない。


「お、言うねぇ、お兄ちゃん」


 宣言した以上、やるしかない。俺は、限界まで大きく息を吸い上げた。

 そして


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 吸い込んだ空気を一気に吐き出しながら、大声で叫んだ。


「おお、言うだけはあるねえお兄ちゃん。私も負けないよ!」


 俺の声を見た萌衣は、自信満々にそう言うと、一気に叫んだ。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 さすが俺の妹、やるじゃないか!! 俺ほどではないが、かなりの声の大きさだ。

 ……あれ? というか、気合い溜めって声が大きければ大きいほど良いとかってそういうのは特に無かったような。ま、いいか。とことん叫ぼうじゃないか!


「み、皆が頑張ってくれるんだから、私ももっと頑張らなくちゃ!!」


 俺と萌衣に触発されて、シュカも再び気合いを溜め始めた。


 そして、俺達五人は日が沈むまで、休むことなくずっと大声で叫び続けた。


  ☆


 もう、声が出ない。

 結局、最終的にシュカは人一人分くらい浮けるようにはなったのだが、まだまだただ浮いているだけで、飛ぶとは程遠い。


 一体この修行、何日かかれば終わるのか。

 まあ俺達は別に急いでいるわけでもないから、今すぐ飛んでもらえないと困る! っていうわけでも無いんだけどさ。


『皆 何もしゃべらない?』


 魔法文字で叫んでいたミステが会話をしようとするのだが、ミステ以外誰一人口を開かない。


 今日は、もう寝よう。そんでまた明日、頑張ろう。


 


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