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英雄

 リエカを襲った兵達は帰った。

 リエカの街の人達は、皆喜んでいる。


「あの、一つ良いですか?」


 街の男が、俺に話しかけてきた。


「なんだ?」


「あの、この街を救ってくれたあなたを信じて、一つお願いがあるのですが」


「お願い? 街救ったのに、まだなんかしなくちゃなのか?」


もう立派な英雄なんだから良いだろ。


「すみません。だけど、このお願いはあなた方にとっても悪くない話だと思います」


「どういうことだ?」


「実は僕、今日この街を出て行く予定だったんです」


「街の人達を見捨ててか?」


「はい……」


「そうか」


 別に責めようとは思わない。誰だって自分の身は大事だ。


「実は僕、あるものを託されて、それを守るためにこの街を出る予定だったんです」


「あるものを?」


 俺の予想とは違って、この男は、逃げるためにこの街を出ようと思ったわけじゃなかったってことか。


「そのあるものとは――この世で最も大きな秘密です」


「!?」


 この世で最も大きな秘密だって!?


「それは、存在しないんじゃなかったのか?」


「いえ、存在したのです。本当は」


「そうだったのか……」


 だったらその情報を、あの襲ってきた男に渡せばこんな悲劇にはならなかったのでは? と思ったが、そんなことはこいつだって分かっているはずだ。きっと、何か大きな理由があったのだろう。俺は別に、その理由を詮索する気は無い。


「で、なんでそれを俺に教えたんだ?」


「その秘密を、あなたに託そうと思ったのです。あなたほど強ければ、きっと誰にも奪われることも無いし、それに何より、あなたのことは信じられるので」


「そうか」


 確かに俺が持っていれば誰にも奪われることは無いだろう。


「じゃあ、受け取っていいんだな?」


「はい」


 この秘密の為にここまで来たのだ。遠慮するつもりは全く無い。


 男から、一枚の紙を渡された。

 ここに、この世で最も大きな秘密が書かれているのか……。


 早速、何が書かれているか読んでみることにする。


「えーと何々……『この世には、人を生き返らせる方法が存在する。死は決して、絶対的なものでは無い』って、これだけか?」


「それを悪い人間が知ってしまえば、恐らく世界は大きく変わってしまうはずです」


「いや、そもそもこれにはその、"人を生き返らせる方法"ってのが書かれていないじゃないか。書かれているのは、ただ存在するってだけで」


 なんだか拍子抜けしてしまった。こんなのが、この世で最も大きな秘密?


「"存在する"というのが大きいのですよ。ありえないと思われていたものが、あり得る。それがまずいのです。この秘密が知られることで、世界は狂います」


「そういうもんかね」


 いまいちピンと来ない。


「はい。もしこの情報を知ってしまえば、知った人間は、必ず色々な策を使って人を生き返らせようとするでしょう」


「不可能では無いと知っているから、か」


「そうです。そして、もしかしたらその方法に辿り着いてしまうかもしれません」


「辿り着いたとしても、普通その方法を独占しないか? 人に教えるメリットが無いだろ。独占してれば、世界が狂うことなんて無いんじゃないか?」


「独占なんて無駄ですよ。だって、いつまでも死なない人が存在したら、どう考えてもおかしいじゃないですか。誰だっておかしいと気づくはずです。そのことに気づかれてしまえば、種がバレるのも時間の問題じゃないですかね」


「なるほどな」


「そうして人の生き返りが皆に知れ渡り、世界に浸透した時、世界は狂います。人は当たり前のように生き返り、この世に死という概念が無くなる。それは一見素晴らしい事かもしれませんが、そんなことはありません。死があるから、生があるのです。死というのは恐ろしいものですが、しかし、この世から絶対に無くしてしまってはならないのです」

 


「その秘密が凄いことだってのはよく分かったよ。ま、俺は生き返るだとかそういうのには全く興味が無いから安心して預けてくれ」


 人は死ぬ時が来たら死ぬ。俺だって、その時が来たら受け入れる。死にたくはないが、死なないことが駄目だということくらい分かっている。


「信じますからね。リエカを救った英雄を」


「あいよ。にしても、なんだかなぁ……。この秘密、俺にとっては全く意味が無いんだよ。さっきも言ったけど、人の生き死にをどうにかしようとは全く思わないからさ。だからさ、もっと俺にとって有益な情報が良かったなあって」


「期待に応えられなくてすみません」


 男は申し訳なさそうに謝った。別にそんな謝るようなことでも。


「何かお困りかね?」


 新たにこの街の長になることになったらしい、初老のおじいさんが来た。


「いや、お困りってほどでもない。ただ、何か有益な情報があればなあって」


「有益な情報、ですか。どんなものなら有益ですかね?」


 どんな情報が有益だろうか。世界征服に役立つ情報! なんて言うわけにはいかないし。


「なんかすごい人の情報、かな」


 抽象的になりすぎたか。ただ、俺より凄い人間がミステ以外にもいるかどうかを俺は知っておきたい。


「凄い人、ですか。でしたら、"どんな戦いにも絶対に勝つ人間"は知っていますかね?」


「いや、知らない。誰だそれは?」


「わしも詳しくは知らないんですけどね。ここから遠い街に、どんな勝負でも絶対に勝つことができるという噂の人間がいるのです。あくまで噂ですけどね」


「なかなか面白い情報じゃないか」


 どんな勝負でも絶対に勝つ人間、か。

 もし本当にそんな人が存在するなら、それは凄いことだ。ぜひ会ってみたい。


「実は、カプチーノさんが来る前に、その人にリエカを助けて欲しいと頼もうと思っていたのですが、何せその人がいる街が遠すぎてですね。その街に頼みに行くまでにリエカは滅んでしまうだろうと判断し、結局行動に移せなかったのです」


「その街ってのは、なんて街だ?」


「リクトです」


「ありがとう」


 決まりだ。次の俺達の目的地は、リクトだ。

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