決戦
「お兄ちゃん、このおじさんだよ! 本落としていったの!」
突如登場した高そうな鎧を纏った男を、萌衣は指差した。
「だろうな。悪人オーラがプンプンする」
一目見ただけで悪い男だと判断できる、超極悪人面だ。
「さて、秘密について教えてもらおうか」
ゆっくりとした低音ボイスで、男は言った。
「だから、そんな秘密は知らないと言っただろう!!」
「そんなはずはない。何せあの本は、何百年もの間、我の国でずっと隠され続けていたのだからな。それを、運の良い我が見つけたのだ」
「あの本? なんのことだ!」
「この世で最も大きな秘密がこのリエカに隠されていると書かれた本だ」
「そんなの嘘だ!」
「だから、そんなはずはないと言っておろうが!!」
男はそう叫ぶと、近くにいた街の人の首を持っていた剣を使って切り落とした。
ブシャァァアアと首元から血が噴き出す。
「言わないと、皆こういう目に合うぞ? 良いのか?」
男は自分がやった行動に満足するように、ニヤリと薄気味悪い笑みを漏らした。
こいつ、殺人を楽しんでやがる……。
「ちょっといいかい」
これ以上殺人をさせるわけにはいかない。
男の注意を引くように、俺は話しかけた。
「なんだ貴様は?」
俺の身なりを見て、男は俺がこの街の人間では無いと気づいたようだ。
訝しげな視線で、男は俺を見た。
「俺か? 俺は、この街のヒーローさ」
小さい頃、男なら誰もが一度は言ってみたい台詞を、俺は口にした。
「ヒーローだと? 馬鹿馬鹿しい」
「馬鹿馬鹿しくても構わないさ。いいかおっさん、俺はこの街を救って英雄になるつもりだ。痛い思いをしたくなかったら、さっさと降参しな」
「ふっ、愚かな妄言を言いおって。こちらは貴様のような妄言に付き合ってやるほど暇では無いんだ。お前ら、あの男を殺してやれ」
男がそう支持すると、男の背後から一斉に兵が現れ、俺に向かって突撃した。
「萌衣、お前は街の人を非難させろ。カリバは襲われた人間の回復!」
「おっけー!」
「了解です!」
俺の言葉を聞いて、萌衣とカリバはすぐに行動を開始した。
「ミステ、いけるな」
『余裕』
「よし。覚悟しろよ、格の違いってやつを見せてやる!」
突撃してきた兵の数をざっと確認した後、剣を構える。
全部で五十ってとこか。結構多いな。
「よっと」
ま、所詮敵じゃないんだけどな。
俺は、剣の柄の部分を、兵の腹にちょん、と当てた。
それだけで、兵は簡単に倒れた。
「悪いが殺しってのは好きじゃなくてね。大人しく気絶していてくれ」
襲ってくる敵を、剣の柄で次々と気絶させていく。
一方ミステは、攻撃力は無いので、能力で戦っていた。
襲ってくる兵の腕や足のみを消し、次々と兵をダルマにしていっている。
「うへー結構エグいことやってるな」
いや、俺の方が甘すぎるのか。
「んじゃ、俺もちょっと痛い思いをさせてやっかな!」
近くに来ていた二人の兵の全ての腕を、目に見えぬほどの速さで切り落とした。
「おぉ、爽快だなこれ。癖になっちゃいそう」
柄での攻撃をやめ、襲ってくる兵の手足を片っ端から切り落としていく。
俺とミステの連撃はしばらく止むことなく続き、やがて残るのは大将の男一人だけとなった。
「な、なんなんだこいつらは!? 化け物か?」
男は腰を抜かし、小便を垂らしていた。かっこわりぃ。
「化け物たぁ失礼だね。俺もミステもあんたと同じ人間だよ。まあ、ちょいと便利な能力の使い手だがな」
「ど、どうするつもりだ? 俺を殺すのか?」
怯えて震えた声音で、男は問うた。
「いいや、違う。言ったろ? 俺、人殺しにはなりたくないのよね。で、だ。どうしてほしい?」
「どうするだと? 決まっている! この街にある秘密を!」
「まーだそんなこと言ってんのか。それは駄目だ。そうだなぁ、よし分かった。お前の持ってる金を全て使って、この街を復興しろ」
「そんなこと誰が!」
「断るなら、お前の命をこの世から消しちまうぜ? 俺は人殺しになりたくなくても、そこにいるなんでも消しちゃう女の子はどうだろうなぁ?」
「くそッ!」
おっさんは、大人げなく涙を流しながら、勢いよく地面に拳を叩きつけた。
「じゃ、そういうことでよろしく。あっ、俺がいなくなったら反乱しようとかバカなことは考えるなよ? 少しでもそんな真似したら、すぐにお前を消しに戻ってくるからな。さっきの能力を見たから分かると思うが、俺達凄い能力使いでな。いつでも自由に行きたい街に飛ぶ、なんて能力も持ってるんだぜ?」
もちろん嘘。そんな能力は無い。
でもまあ、こう言っとけばとりあえずこの街は安全だろう。
「なぜ、なぜこうなった! 我はただ、この世で最も大きな秘密を知りたかっただけなのに!」
「別に知りたかっただけならこんな結果にはならねえよ。お前はそれを知るために人を殺した。だから俺というヒーローから罰を受けたのさ。ま、命が助かっただけでも感謝するんだな。俺が元いた国じゃあ、これだけの人を殺せばすぐ死刑だっただろうよ」
というわけで、これにて一件落着。
「カリバ、兵隊さんの腕とか足を治してやんな」
俺やミステによって腕や足を失ってしまった兵達が、血だらけになった地面に倒れている。それは、あまり見ていて楽しいものではない。
「分かりました。では早速」
カリバの体を緑色の光が包み、兵の体に一斉にその光が降り注ぐ。
「って、あれ?」
半数以上の兵が、手足が戻らず、依然としてダルマのままだ。
「あ、もしかして……」
ミステの能力で消えた腕や足は、元には戻らないんじゃ。
あれは無にする能力だ。無にするってことは、もうこの世から、兵の腕と兵の足というものは、存在しないものになってしまったということだ。
この世に存在しないものは、さすがのカリバでもどうしようも出来ない。
「いやぁ、ミステの能力ほんと恐ろしいね……」
こればっかりはもうどうしようもできない。
ミステの能力を受けてしまった兵達には申し訳ないが、我慢してもらうしかない。
『ごめんなさい』
「いや、いいんだ。私達はたくさんの酷いことをしてきた。これは、その罰だと思って受け入れるよ」
ミステの謝罪に、兵の一人がにっこりと笑ってそう答えた。
その一言をきっかけに、他の兵達も次々に自分の体の一部を失ったことを受け入れていった。
「私達の職業はいつ命を落としてもおかしくない。殺さないでくれただけで十分だ、君達には感謝すらしているよ」
「それに、手足を戦時中に失えば、街から大量の援助金をもらえるから、働かずして家族を養えるしな!」
その兵士の言葉に、他の兵士たちは声を上げて笑った。
「ま、そういうわけさ。私達のことは気にしないでくれ。にしても、君達の強さ、凄かったよ、一体何者なんだい?」
「俺達が何者なのか、か」
リエカの街の人からしたら、俺達はヒーローだ。
でも、この兵達からしたら、俺達は何者なんだろうね。
次話は、兵達がリエカを襲ってきた部分を書きます。書かなくてはならないのです。




