壕
「旅のお方を連れてきました」
穴を掘って作られた場所に、俺達は連れてこられた。
「旅のお方? なぜ?」
「不思議な魔法で私達を助けてくれたのです。ですので、是非お礼をと」
「ほほぉ」
見た感じ、五十人くらいか。生き残っていた人達が、次々と俺達へ歓迎のあいさつを贈った。
「礼は後で良い。それより、状況をもうちょっと具体的に聞かせてくれ」
「状況? なんでですか」
「俺達は、あんたらを助けに来たヒーローなんだよ」
「ヒーロー?」
「そうだ。この街を救いたい。だから状況を知りたい」
「救いたいと言いましても……」
ミステと萌衣を見て、街の人は困惑する。
当然だ。この二人は、いかにも弱そうだもの。
さっきだって、この二人のおかげで悪人と勘違いされずに済んだわけだし。
「人は見かけによらないってな。この街で、一番強いやつを呼んでくれ」
俺の言葉に、街の人は顔を見合わせると。
「私達の街で、モンスターと戦うような人はいないのです……。ですからまだ全員レベル1で……」
「じゃあ誰でもいいや。そこのあんた、あんたでいい」
筋肉のついた、強そうな男を指差す。
「ミステ」
『了解』
俺がミステに合図をすると、すぐにミステが行動を起こした。
「な、なんだ突然!?」
男が突然の出来事に驚いた。
「服が全部無くなってやがる!」
驚くのも当然、男は体に纏った服を全て失い、素っ裸になっていたのだ。
「これがミステの能力。簡単に言えば、なんでも消せる」
「なんでも、消せる……」
ざわざわと、街の人達が動揺し始めた。
「やっぱりあんた達、あいつらの仲間なんじゃ!」
カリバが助けた男の一人が、またもやそんなことを言い放った。
「だから、違うっての」
「じゃあ、証拠は! 証拠はどこに!」
「証拠なんてもんは無いけどさ。これからの行動で証明するよ」
「そんなこと言われても!!」
「まあまあ落ち着きなさい。もし騙されていたのだとしても、もう私達の希望はこの方々に託すしかないじゃないか。この方々を敵と判断して追い払ったところで、私達が助かる方法は無いだろう?」
初老のおじいさんが、俺に突っかかってきた若者を宥めた。
「しかしですね……」
「人は疑うより、信じた方が、ずっと良い」
年の功からなのか、おじいさんの言葉には妙な説得力があった。
「分かりました……」
若者は、おじいさんの言葉に折れた。
「さて、じゃあ改めてお願いする。状況を具体的に頼む」
「でしたら、私が話しましょう」
先程若者を宥めていたおじいさんが名乗りをあげた。
「あんたは、この街の長か?」
先程の振舞といい、人の上に立つ貫禄がおじいさんにはあった。
「いんや、街の長は死んじまったよ」
「そうか……」
「まずは、どこまで知っているのですか?」
「この世で最も大きな秘密ってのを手に入れに来た兵を連れたおっさんが、この街を襲いに来たってことだ」
「そうですか。ならば、私達から話せる情報など何もありません。それ以上は私達にも分からないので」
「敵の攻撃の方法とかは?」
「それでしたら少しだけ分かります。確か、炎を使っていました」
「炎か。分かった、ありがとう」
特別な能力では無いのなら、苦戦することは無さそうだな。
「先程の消す能力で、敵を全て消すつもりなのですか?」
「いいや。それはしない、俺は人を殺すってのは好きじゃないんでね。ましてや、無にしてしまうなんてのはもってのほかだ」
天国とか地獄とか、もしそういうものがあるのだとしたら、無にされてしまえば決してそこには行けないと思う。
無になるというのは、死ぬのよりも更に恐ろしいものだ。死んでも亡骸は残るが、無になれば何も残らない。
「では、どうやって?」
「ま、俺が戦うってことだな」
俺の言葉を聞くと、街の人達は少し落胆した表情を見せた。
「安心しろ、俺は強いよ。ほら、力照会」
俺のステータスを見て、街の人達は今日一番の驚きを見せた。
「な、なんだこれは!?」
「これほどの力を持つものが、この世に存在していたなんて!」
街の人からは、先程の落胆した表情は既に消えていた。
「ま、そういうわけだから安心しろ」
「はい! ありがとうございます!」
凄い変わりようだ。完全に俺を信頼しきっている。
「敵襲ううううう! 敵襲ううううう!!」
突如、一人の男が大声で叫んで入ってきた。
「何!? もう来たのか?」
「はい! ここの特定ももう時間の問題だと――」
「見ーつけた」
高そうな鎧に身を包んだ初老の男が、ニヤリと君の悪い笑顔を浮かべ、顔を覗かせた。




