サオルの側近
帝王杯決勝で、私はツヨジョに勝ち優勝しました。
ツヨジョは本気で戦ったなどと言っていたが、間違いなく嘘です。彼女は手を抜いていました。
きっと、カプチーノ様が落としたのです。
それで命令したのです「カリバに負けろ」と。
というわけで、私は今、サオルの側近をやっています。
サオルは、私が側近になると決まった時には、一度追い出している相手なだけあってかなり驚いていたけれど、幸い側近の仕事を取りやめる事態にはなりませんでした。
「おいカリバ、飯はまだか!」
「はい、ただいま!」
まだ働き初めて幾日も経っていないけれど、はっきりしたことがあります。
聞いた話によると、帝王杯は月一ペースでやっているらしいのですが、その理由は、大量に側近が欲しいからではありません。
単純に、側近になった人が月一でやめてしまうからなのです。
このサオルという男、人使いがとっても悪いのです。
カプチーノ様とは天と地の差です。
「遅い! 早く!」
はぁ……。
サオルは、基本食事を自分の部屋で食べます。
なので、側近の私はわざわざ作られたものを取りに行かないといけません。
これくらい自分でやってくださいよ! というか、なんのための食卓ですか!
全く使用された痕跡の無い食卓を見て、私は愚痴ります。
長い長い階段を往復して、今日の食事を持ってきました。
「おまたせいたしました」
「遅い! 今日の給料は5%減らす」
「す、すみません!」
朝から早速これです。
サオルの側近の仕事は、確かに給与は高いです。
ただし、それはあくまで初期値の金額。
サオルは、ことあるごとに給料を減額します。
一日が終わる頃には結局、大した額は残りません。
こんな仕事なら、皆辞めていってしまうのは当然です。
私だって辞めたい今すぐですもの。
「着替え」
サオルは、私の気など全くお構いなしに命令をしました。
「はい!」
口では全く嫌では無さそうに返事をしていますけれど、もう超嫌です。今すぐぶっ飛ばしてやりたい衝動に駆られます。
一体いつまでこんな男の側近なんてしてなければならないのやら。
☆
「カリバ、風呂だ」
「お風呂、ですか?」
「そうだ。風呂に入りたい」
風呂ぉ? 一人でお風呂も入れないのですかこの人は。
今まで何日か働いてきましたが、風呂の命令は初めてです。
「えーと、私はどうすれば」
「風呂に入りたいから一緒についてこいと言っている」
「はぁ、そうですか」
お風呂までこの部屋からそんなに遠くないんですし、一人で行ってくださいよ……。
私がついていく意味は?
とても嫌な気持ちのまま、私はサオルと共にお風呂へと歩きます。
「さて、到着。さっさと入って疲れを落としたいな」
一体あなたの生活のどこに疲れる要素があるのですか!
「では、私は外でお待ちしていますので、ごゆっくり」
「はぁ? お前も入るんだよ。当たり前だろ?」
「なッ!?」
何を言っているんですかこの人は!
カプチーノ様以外の男に、裸など絶対見せたくありません。
「どうした? 早く脱げよ」
この変態! 帝王杯で女しか出場させないのはこのためだったのですね!
「すみません。先に入っていてください。私、少しトイレに行ってきます」
「チッ、分かった。さっさとしろよ」
「はい」
どうすれば! どうすればいいのですかカプチーノ様!
とりあえず脱衣所を出てみたものの、この後どうすればいいか分かりません。
カプチーノ様は、サオルと親しくなり隙を見つけろとおっしゃった。
だったら、ここで逃げては絶対にいけません。カプチーノ様を裏切ることになってしまいます。
けれど。
カプチーノ様以外の男と入浴なんて……。
浴槽は馬鹿みたいに広いけれど、広ければ平気というわけではありません。
男と二人で入浴する、その行為が耐えられないのです。
どうしたら……、どうしたら……。
あ!
既にお風呂に入ったことにすればいいのです。そうだ、その手がありました。
再び脱衣所に戻ります。
もうサオルの姿はありません。既に浴場へと行ったみたいです。
できればカプチーノ様以外の男の体なんてキモすぎて見たくないのですが、勇気を出して、えいやっ! と服を着たまま浴槽に繋がる扉を開けました。
「すいません、実はもう今日は既に入浴は済ませ……ッ!?」
入浴中のサオルを見て、私は驚き、言葉は途中で詰まりました。
まさか、まさかサオルが――!




