帝王杯①
エントリーを済ませ、今日は帝王杯当日。
出場人数は意外と少なく、たった七人だけ。
おそらく、ツヨジョとかいうやつが出場するからだろう。
帝王杯は、決勝は明日行い、本日は一回戦と準決勝のみが行われる。
にも関わらず、観客の数は非常に多い。
なんでも、この月一回行われる帝王杯は、この街の住人にとって最も楽しい娯楽なんだとか。
「いいなカリバ、俺達に任せておけ」
「は、はい!」
こいつ、緊張してるな?
「安心しろ。俺達には秘策があるんだ。お前が負けることは無い」
「そうですよね。私、頑張ってきます!」
「よし!」
カリバの背を一度ぽんぽんと叩く。
するとカリバは、一度ニコッとはにかみ、選手待機の場所へ向かって行った。
緊張、少しは解けたかな?
皆が見ている中、あみだによる抽選が行われた。
カリバの戦いは、まさかの一試合目。
相手は、あいつか。
見た目はあまり強そうではない。が、人は見かけによらない。見た目だけでは何も分からない。
今すぐあの敵のところに行ってウインクして「負けろ」と伝えたいところだが、選手は全員観客の見えるところにいるし、突然俺があそこに行ったら怪しさMAXだ。
しばらく待つと、カリバと相手選手の二人以外の選手が試合舞台から抜けた。
いよいよ始まる。
「一回戦! カリバ選手対ケマル選手 試合開始!」
審判の声と同時に、ゴングが会場に響き渡った。
この試合は、武器は一切無しの肉弾戦。
カリバは肉弾戦経験なんて一度も無く、圧倒的に不利だが果たしてどうなるか。
先にケマルが動いた。
ケマルは左手で拳をつくると、カリバの脇目掛けて大きく突きを放った。
が、それをカリバはぎりぎりのところでなんとか避ける。
そして、カリバは避けた後すぐに体制を変え、肘打ちをケマルの脇腹へと入れた。
お、意外と勝てるんじゃないか?
だが、そんなに甘くは無かった。
ケマルは、カリバの攻撃を受けても全く動じずに、左足でカリバの右足を払い、カリバの体を倒した。
カリバはすぐに起き上がろうとしたが、それよりも早くケマルが上に乗りマウントポジションを取り、カリバの顔を何発も殴る。
チッ、やはりそう簡単には勝たせてもらえないか。
なら、もう"あれ"を使うか?
その必要は無かった。
カリバは俺の力が無くとも、自力でマウントポジションを解いた。
そして、隙ができたケマルの体へ、右回し蹴りをお見舞いした。
さすがにこたえたのか、ケマルは少し仰け反る。
ひょっとするとこの勝負、俺達が何もしなくてもカリバが勝てるかもしれんぞ?
「あんたやるじゃん。けど! それじゃあ私には勝てないよッ!」
突如、まるで弾丸のように、ケマルの体が物凄いスピードでカリバへと飛び、カリバに直撃した。
「ぐはッ!」
カリバの口から、少量の血が垂れる。
「まだまだ!」
よろけたカリバに、再びの体当たり。
カリバは避けるモーションをとることすらできずに、真正面から受けてしまった。
「うッ……ぐ」
見ているこちらが辛くなるほどの力強い体当たりが、その後も何度も何度もカリバを襲った。
しかしカリバは倒れない。俺のために勝つという想いが、カリバを奮い立たせている。
もういい、よく頑張ったカリバ。
「ミステ、あれをやれ!」
『了解』
隣にいたミステが頷く。
そして。
「キャッ!」
ケマルはカリバへの突撃を中断し、一度女らしい声を上げて胸を押さえた。
何があったんだ? と周囲が湧く。
が、見た感じでは何も起こっているようには見えない。
そう、あくまで見た感じは。
ケマルの隙を突き、一気にカリバの反撃が始まった。
パンチと蹴りの乱舞を、隙だらけのケマルは為すがままに食らい続ける。
やがて何度も攻撃を受けたケマルは、バタッ、と倒れた。
起き上がる様子は無い。
ということは。
「勝者! カリバ選手!」
見事、カリバの勝利が決まった。
ワァァァァァという歓声が、場内を包む。
ふぅ、とりあえず、一回戦突破だな。
「お兄ちゃん、何やったの?」
そういや、萌衣にはまだ説明していなかったな。俺の秘策を。
「簡単さ。ミステにあるものを無にしてもらったんだ」
「あるものを無に? だって、何も消えてなかったよ?」
「いいや、消えたんだ。ケマルが付けていた、ブラジャーがな」
俺は、試合前にミステに一つ頼んでいたことがあった。
俺がやれと言ったら、対戦相手のブラを消してほしい、と。
試合中に突然ブラが無くなれば、誰だって動揺する。
そして、ブラが消えたことにケマル以外は誰も気づくとこができないので、ケマルが突然胸を押さえた理由は誰にも分からない。
もしケマルが、「突然ブラが消えたんです!」なんて審判に報告しても、証拠は無いので言い訳にしか聞こえない。
「その言い訳を使うために最初からブラを付けてなかったのでは?」 と言われて終わりだ。
完璧な作戦だ。
これさえあれば、優勝なんか楽勝だ。




