女神の横で
「さて、どうすっかこれから」
「とりあえず、私は寝ます。あなたが起きるのを待っていたせいですっかり寝不足なので」
「いや、これからってそういうことじゃなくて……」
「12時間くらい寝ます。では……」
「って寝すぎだろおい! ってもしもーし」
なんかもう寝ていた。
早すぎる。そして寝顔が可愛すぎる。
「で、そんな長い間俺はどうすりゃいいんだよ……」
次の目的地も決まっていないし、決まってないから準備することも何も無いし。
「ってか、神様なら寝不足とかも回復できるんじゃないの? というか神様に睡眠って概念あったの? って、聞いてないか……」
深いところまでぐっすり眠ってしまっている。可愛い。
「ま、でも寝たくはなるわな」
俺が起きるのを待っていたのもそうだが、それ以前に、カリバはこの世界に来てからずっと張りつめていて、まともに眠れていないはずだ。
そして今こうやって幸せそうに寝てるってことは――
「少しは信頼されてるってことかね」
今の俺は弱い。でも、何かカリバにあろうことなら全力で守る。
そんな俺の想いを、彼女は信じてくれた、はず。
「おっ、ねえちゃんは寝ちゃったんか。俺の可愛いベイビーを見せてあげようと思ったちゅうのによぉ」
カリバをただ眺めていると、トーブが俺の方に来た。
どうやらカシュの方も赤ちゃんと一緒にすっかり眠ってしまったようだ。
「もう十分すぎるほど見たっての」
ついさっきまで、トーブはそれはもう嬉しそうに何度も何度も俺に赤ん坊を自慢してきた。
「そうかそうか! でも何時間、何日、何年見てもいいものだろ?」
「何年も見たらもう赤ちゃんじゃなくなってるだろ。で、何の用だ?」
「用って程じゃねぇ。ただ、そうだな。あんちゃんせっかく一人なんだし、良い機会だ。少し話そうや」
「話、ねぇ。そんな盛り上がる話題なんて俺は持ってないぞ?」
そもそもこの時代の人がどんな話題で盛り上がるのかちっとも分からない。
「いいや持っとる。あんちゃんよぉ、ねえちゃんのこと、このままでいいんか?」
「このままって、神だからどうこうするってことか? んなわけあるか。なんもしない」
神の心臓を食べればなんでも願いが叶うそうだが、心臓を食べるということはつまりカリバを殺すということだ。
そんなこと、俺にできるわけがない。
「いや、神だなんだなんてどーーーーでもいい。いや、もちろん娘の件は感謝してるが、そういうことじゃねぇ。いや、でも、神だから進みにくいってのはあるか……」
「何一人で納得してるんだ。進みにくいって何の話だよ?」
進みにくいどころか未来ではエッチなことだっていっぱいしちゃってる関係なんだが!
「いや、あのよぉ。あんちゃんは、ねえちゃんのことをどう思ってるんだ?」
「どうって、そりゃあ決まってるだろ。今この世界で一番大切な存在、それがカリバだ」
「大切、ねぇ。その大切ってのは恋愛的な意味で?」
「恋愛的な意味でも、だ」
あらゆる面において、この世界ではカリバより大切な存在なんていない。
「なるほど、な。それを聞いてとりあえず安心はしたぜ」
「安心?」
「おう。これから話すことは、意味のあることだって分かったからな」
「俺達で話すことなんて、なんかあるか?」
一緒に一つの大きな出来事を乗り越えたとはいえ、別に何か話すようなこともないと思うが。
「あるある。ありまくる。いやよぉ、あんちゃんがねえちゃんを愛してるってのは言質取ったわけだども。で、愛しているなら、尚更このままでいいのか? って思ってな」
「このままって、そりゃもちろん、皆に命を狙われたままじゃ大変だからどうにかしようと」
「いやそういうことじゃなくてだな。あんちゃん、好きなだけで終わりなんか? 恋愛ってのは、どっちかが気持ちを伝えなきゃ何も進歩が無いもんだ。だが、あんちゃんからは何かをしようっていう気持ちが感じられねぇ。だからこそ確認したし、確認したからこそ、このままでいいのかと思ってな」
何かをしようという気持ちが感じられない、か。
「こればっかりは、トーブには分からんよ……」
俺が、カリバの恋人探しなんてもんを、楽しくやっていると思うか?
そりゃ、カリバと一緒にいること自体は楽しい。最高だ。最高の女との旅なんて、そりゃ最高に決まっている。
だが、今ここで俺とカリバが恋愛的なことで発展したらダメなんだ。だって、俺はここの時代の人間じゃないし、帰る場所があるから。
カリバは、その"帰る場所"には連れていけない。戻るアイテムが一人用だからとかそういう問題を抜きにしても、ダメだ。だって、俺の帰る先の未来には、ここにいるカリバの未来がいるんだから。
俺は、我慢して我慢して、そして帰るんだ。ここでするべきことを全て終えたら。
「ああ、わからんね。だがよぉ、恋愛は実った方が絶対に良い。そんな単純なことなら、わかってるつもりだ。なんせ、今俺は最高に幸せだからな」
俺の悩みなんて気にしないという風に、トーブはニカっと笑って答えた。誰もがその幸せを否定できないくらい自信満々に。
「あんちゃんが、どんなもんを抱えてるかなんて知らんし知る気もない。だが、俺には恩がある。一生かけてでも返さなくちゃいけない大きな恩が。それをここで返させてもらう。見たところ、ねえちゃんもあんちゃんのことを悪く思っては無い、と思う。よし、決めた! 決めたぞ!! あんちゃん達を幸せにするために、俺は全力を出す! たとえ、この命に代えてもな!」




