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202/203

変わらない未来


「やっぱり、いいものですね」


 幸せそうなトーブ達を、遠くから眺める。

 今はあの場所にいてはいけない気がして、カリバと二人離れた木陰で見守っていた。


「良いって、何が?」


 天気は快晴。空気も最高。

 紛れもなく幸せに包まれている皆を見ながら顎に手を置きクスっと笑いながらカリバは答えた。


「恋、ですよ」


 その言葉は、まるで歌のようにスラスラと出てきたが、その実とても重く思えた。


 恋愛をする為だけに、命を失ってもおかしくないこの世界へと降りてきたカリバ。

 彼女にとっての「恋」とはどんな意味を持つのだろうか。


 俺だって、曲がりなりにもたくさんの恋を重ねてきた。

 カリバに、ミステに、シュカに、萌衣に。

 あいつら、今頃元気にしてるかなぁ。寂しがっていないかなぁ。

 いや、今頃も何も、ここは過去なのか。寂しいのは、俺だけか。


「まあ、間違いないな」


 恋ってのはいいもんだ。

 それは間違いない。恋がすべてとは言わんが、良いもんなのは間違いない。


 だからこそ、だからこそ。


 俺はカリバの目的を知って、一つ、本当に心の底から申し訳ないと思っていることがある。


「ごめん……」


「え? えーと……」


「お前の気も知らずに俺は……お前に……」


「いやなんですかほんとに。いい気分なんですから邪魔しないでください」


「でも、これは謝らなきゃいけないんだ。だって、お前の未来は……いや、すまん、これ以上は、言えない」


 大天使様が言うには、俺がいた時代は、そもそも俺が過去に行ったことで成り立っている世界らしいから、何を言ったところでタイムパラドックス的なものは、多分起きない。


 とは限らないと思う。

 ここで俺が言うのを我慢したからこそ未来に繋がることもあるはずだ。

 たとえば、カリバの未来。


 俺は、カリバに未来で酷いことをした。

 恋をする為に、身分を投げ、命を捨てる覚悟までしたカリバに、洗脳としか思えない全ての女を落とす目(ラブミーウインク)を行い、カリバを落とした。

 

 最低だ。好きな女の目標を、俺は洗脳という形で終わらせてしまったのだから。

 なぜカリバがあの時代に俺のもとへ来たのかは分からない。

 ただ、もし遠い未来にトタースへ行くと洗脳されてしまうと今のカリバが知ってしまえば、あそこへは間違いなく向かわなくなるだろう。


 そうなると、未来はおかしくなる。カリバに出会わなければ俺には回復という手段がないのだから、それはつまり、今まで乗り越えてきたあらゆるものは乗り越えられないということだ。

 カリバがいない未来ならどういう結末を迎えていたかなんて、考えたくもない。


 だが、現実は、カリバと共に行動する未来が存在する。

 だからきっと、こうして過去にいる俺は、カリバに酷いことをする未来は言わない。言わないまま、あの未来に繋ぐんだ。


 それは、悔しい。

 彼女を守ると言っておきながら、彼女を壊すんだ、この俺は。

 

「はぁ……。あのですね。あなたが何を思って謝っているのかは知りませんが、私はあなたに謝られるようなことをされていませんし、第一、あなたに会わなければその……、や、やっぱりなんでもありません」


「俺に出会わなければ、か」


 カリバが俺に出会わなかった並行世界もきっとどこかにあるわけで。

 そこでのカリバは、どういう人生を送っているのだろうか。


「とにかく、やっぱり私、上位世界からこちらに来てよかったです。この世界のことを、私達神は下位世界と呼んでいますが、ちっとも下位なんかではありませんでした。だって、あんな風に笑えるのは、この世界だけなんですから」


 キラキラと輝く笑顔をしたトーブを見ながらカリバは微笑んだ。


「ま、せめて俺がいなくなるまでは、そう思ってもらい続けるようにするのが、今の俺の目標、かな」


「い、いなくなるんですか!?」


 何やら焦るカリバに、俺は慌てて返す。


「い、いや、そんな突然いなくなったりはしない」


 とはいえ、ずっとここにいるわけにはいかないんだけどな。俺はこの時代の人間じゃないんだから。


「そ、そうですよね。勝手なことを言わないでください。ただでさえ勝手についてきてるんですから」


「ついてきてるって、まあ、そうかもしれないけど」


「と、に、か、く! あなたがいなくなったら私はこの世界で独りぼっちなんですから、そこのところはよく考えておいてくださいね!」


「一人ってこたぁないだろ。トーブだっているじゃないか」


「トーブさんはこれから育児で大忙しです。とても私が一緒にいていい立場ではありませんよ。私には、あなたみたいなぼっちがお似合いなんです」


「ぼっちって」


「はぁ……。いいなぁ、赤ちゃん」


 心の底からうらやましそうに、カリバは赤ん坊を見つめている。


「赤ちゃん、か」


 もしカリバの子供が産まれたら、めっちゃ可愛いんだろうなぁ。男の子でも女の子でも、とびきりの美形が産まれてくることに違いない。


「い、言っておきますけど、あなたとの子が欲しいとかそういうことを言ったわけじゃないですからね! そこのところ、勘違いしないように!」


「別にそんなこと考えてないわ! ただ、あれだよ。なんつーの、あいつら、幸せそうだなって、それだけ」


「幸せに決まってますよ。だって、二人は愛し合っているのですから」


「だな」


 彼らが幸せなのは間違いない。

 そして願わくば、ずっとその幸せが続きますように。

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