全てを手に入れた男
異世界に来てから、一年が経とうとしていた。
金色の防具に身を纏ったまま、この街でもっとも高い城の窓から外を見渡す。
「カプチーノ様、お食事の用意ができました」
この街『トタース』でも随一の美貌を誇る女が、頭を下げ報告した。
「そうか、すぐに行くと伝えろ」
「はっ!」
俺の返事を聞くと、すぐに女は部屋から退出し、姿を消す。
「この世をば 我が世とぞ思ふ望月の 欠けたることもなしと思へば、か」
偉人、藤原道長が残した、言葉。 『この世はまるで自分のためにあるようだ』と、詠った短歌。
今まさに、俺は藤原道長と同じ気持ちだ。この世はまるで自分のためにあるではないかと思ってしまうくらい、なんでも手に入る毎日。
女を落とす能力は、ただ女を落とすことができるだけの能力なんかではなかった。
女を落とすこの力で、俺は女だけでなく、街さえ自分のものにしてしまった。
どんな女も落とせるということは、どんなものでも手に入るということと同義だった。
まだ異世界に来たばかりのあの日、俺は手に入れた能力を使いまくり、街中の女を落としまくった。
そして、どんどん落としていく内に、この街の一番偉い女さえ落としてしまい、この街はあっという間に俺のものとなった。
それから俺はこの街から全ての男を放り出し、街全体を俺のハーレムにした。
最初の頃は楽しかった。
毎日毎日他の女を抱ける日々。楽しくないはずあるまい。
だが、楽しいのは最初だけだった。
俺は、女遊びに飽きた。
毎日毎日それだけをやっていれば、当然の結果だ。
それから俺は、女では無く力を手に入れることにした。
そして、すぐに手に入れてしまった。
トタースに来たばかりの頃は攻撃力も防御力も素早さも何もかも最低値だった俺は、能力値を上げるきのみや種を女から貢がせまくり、すぐに全能力値はカンスト状態になった。
装備も、見ての通り全身最強。この街を訪れた女勇者をウインク一つで落とし、装備一式を頂いた。
金も、女も、力も手に入れた。
もう手に入れていない物など、何も無い。