突撃
いやほんと、驚きすぎて声が出ないというか。
そう来たかぁ。たしかに、思い返してみれば人だとは一度も言っていなかったような気がする。
まあ、これから会うのは人だよね? とか一々確認取らなかったし。というか普通取らないよね。いや、普通を疑ってこその異世界か。もう異世界に来てからかなりの日数が経っているからすっかりこの感覚を忘れてしまってたなぁ。
というか、異世界ではこれは普通なのか……?
疑問に思ってカリバを見てみると……
ぽかーんとしていた。それはもう信じられないものを見るかのように。
異世界でもありえないんじゃん!
そりゃそうだ。そこそこ長く異世界生活を送ったけどこんなの聞いたことない。
だけどまぁ、いいかな。
二人というか、一人と一羽というか。幸せな顔を見ていたら、なんか、そんな色々と驚いているのも馬鹿らしく思えた。
「っと、そんな浸ってる場合でもないな」
さすがに、もうはったりは通用しない。俺らを追いかけていた科学者の奴らは、もう俺の火の球が大したことないということに気付いているはずだ。
じりじりと距離を追いつめられる。
捕まったら、何をされるか分かったもんじゃない。
「うーん……」
良い案が思い浮かばず、ただ天井を見つめる。天井には植物園らしく、ガラスの天井が張り巡られている。
ガラス張り、か。
「まあ、これしかないか……」
あのガラス、分厚いんだろうなぁ。でも、まあ、それしかないよなぁ……。
「カリバ、回復はまだできるな?」
「まだも何も、私が人を回復するのに限界はありません。疲れたらまた回復をすればいいだけですし」
「無敵すぎるなほんと……。んじゃ頼んだ。よし、トーブ! 感動の再開のとこ悪いが、行くぞ!」
「あ、ああ。すまんな、二人きりの世界に入り込んじまってた。で、行くってどこへ?」
「あそこ」
そう言って、天井を指さす。
「あそこって、見たところただの天井だが」
「いや、ただの天井じゃない。ガラスの天井だ。幸いにも、この部屋は他のS級の部屋と違ってるんだ」
「まさか……」
「そう、まさかだ。いくぞ!」
もうモタモタしてはいられない。
今が限界だ。これ以上は逃げ続けられない。
俺と、カリバと、トーブと、その相手をまとめて、俺を先頭に、天井へと風で飛ば……飛ば……
飛ばない……。
「俺、弱すぎない……?」
今の俺には、どうやら全員をいっぺんに浮かすことは不可能だったみたいだ。
だからと言って、一人ずつやっていくのはダメだ。
時間がないわけじゃない。ただ、大前提として、俺が先頭じゃなきゃこの作戦は成功せず、俺が先頭でこの部屋から出てしまうと、外からでは後の人間が見えないので風で上手く運べない。
「ぐぬぬぬぬぬ!」
力を入れて風を起こすが、やはり無理だ。なんか優しい風が地面から吹いているだけ。
「ん? ああ、あんちゃんがよくやってる浮かす奴をやろうとしてるのか。でも、無理に風を起こす必要はないぞ。なんせ、カシュがいるからな」
「と、いうと?」
「カシュの口は、人三人くらいなら余裕で入るんだ」
言われてみれば、確かにカシュは見た目ペリカンだ。しかも普通のペリカンよりもものすごくでかい。
このサイズなら人三人くらい余裕だろう。
「よし、じゃあ頼んだ。ガラスの天井まで飛んでくれ。そして、天井に近づいたら俺を出してくれ」
「了解っと。やれるな、カシュ」
トーブの言葉にこくりと頷いて、カシュはガバっと口を開いた。
「じゃああんちゃんねえちゃん、入ってくれ」
言われて、口の中へと入る。
「おおぉ!」
意外と快適。三人入っても、まだ余裕がある。
「じゃあ、行くぞカシュ!」
トーブの言葉とともに、グンっと飛ぶ。
「うぉ!」
まるでジェットコースターにでも乗ってるかのような勢い。
なんていうかーー
「気持ちいい!」
気持ちいし楽しい。ずっとこのまま乗っていたい気分。
と、そうも言ってはいられない。
あっという間に追っ手が届かない場所へと到達する。
名残惜しいが、口の中から出る。
あぁ、いやだなぁ。やりたくないなぁ。だが、これしか思いつかなかったから、やるしかない。
「カリバ、マジで頼むぞ?」
頷いたカリバを見て、準備は完了。後はもう、やるだけ。
「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
足元に風を起こし、全速力でガラスの天井へと向かう。
あー!絶対痛いやつ! 絶対痛いやつに決まってる! けど、やるしかない!!
一人なら、結構な勢いで風で飛べる。そして、その勢いのままーーガラスに頭をぶつける。
「いっ…!」
痛すぎて意識が飛んだーーと思ったら、カリバの回復でまた意識が引き戻される。
ちなみにまだガラスはちっとも割れていない。なんちゅう硬いガラスだ。もっと薄いのにしといてくれよ……。
泣き言を言いたいのをグッと我慢し、勢いを殺さずガラスに頭を打ち続ける。
意識が飛び、意識が飛び、意識が飛び、そしてーー
「どっりゃぁ!!!」
ガラスは砕けた。
もう痛みでまともに頭も回っていないが、とにかく、ガラスを割ることができた。
その結果に安堵し、一気に力が抜けそのまま落下していく。
そうして落ちていると、スポッとカシュの口の中に吸い込まれた。口の中は、最初に入った時よりも、温かく感じた。




