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彼が愛した相手


「さて、ここは既にS級と呼ばれる人達が隔離されている部屋に繋がる廊下なわけですが」


「ですがって言われてもな」


 おそらく一部屋一部屋がかなり大きいのだろう。今俺達がいる廊下は、とても広い間隔で扉が両壁に用意されている。というか、今見えている両端の一つずつの扉の、その先の扉は、ここからだとほぼ点にしか見えない。多分あそこに別の部屋があるんだろうなぁとなんとか思える程度だ。


「これを片っ端から見るとなると、ずいぶん大変じゃないか?」


 これだけ次の扉が遠いと、最後の扉まではどれだけ距離があるのやら。


「そうでもないと思いますよ。今私達は一番端にいるから幸先が長く見えるかもしれませんが、S級なんてのはそもそもそんなにいません。精々20人くらいです。


「20人か。ならまあ、そこまで苦でもないか」


 一部屋覗いてから次の一部屋に行くまではそこそこ時間がかかりそうとはいえ、多くても合計20回の確認で済むなら、まあ、ここまで来たことに比べればちっとも大変とは言えない。


「ええ。ということなので、いいですか、トーブさん。私達は、目的の人物がどんな人なのか全くわからないので、ここから先はあなたに任せます。思うように探してください」


「で、トーブが探している間は」


「あなたは最後尾で追っ手の足止めです」


「だろうな。というわけで、背中は任せろ」


「助かるぜあんちゃん。いよいよ会えるんだな、カシュに!」


 目を輝かせ、今か今かとトーブはやる気に満ち溢れている。


「カシュ……っていうのか。ふーん、いい名前じゃんか」


 なんとなく、美人さんな気がする。勝手な予想だけど。


「おうとも。名前も見た目もパーフェクトなんだ、カシュは」


 自信満々にトーブは言う。俺もカリバを紹介するときはこんな風に自信に満ち溢れていることだろう。


「もう新しい追手が続々と増えてきています。急ぎましょう!」


 俺たちの背後は、人。人。人。たしかに、グズグズしてはいられないな。


 早速、トーブを先頭に、S級の部屋を確認する作業に入った。

 ちなみに、どの扉も先ほどの研究室に入る前にあったあのロックがかかっていたので、俺の火でロックをぶち壊した。


 次々と、急ぎながら部屋を回っていく。

 さすがS級というだけあって、見るからにやばそうなやつばかりが各部屋にはいた。


 なんか目が三つある奴や、5メートルくらいある奴。ずっと壁にパンチし続けている奴。体が真っ赤に発色してる奴なんかもいた。

 

 こんな奴らと一緒にされているって、もしかしてトーブの女ってのもやばい奴なんじゃ。


 と思いきや、なんでこんなとこに隔離されているのかも分からないくらい普通の人も中にはいたりした。


 全ての人物に共通するものがあるとするのなら、どの部屋も、まるで高級ホテルかのような豪華な装飾を施され、何不自由なさそうな生活をしていたことだ。

 そういや、S級はVIP待遇だとかカリバから聞いたような聞いていないような。

 とにかく、どこもそれはもうすごい部屋だ。正直、俺の住んでいたトタースの城をも超えるかもしれな……いやいや、さすがに俺の城のほうが凄いはず、そこは譲れない。


 と、そんな中、突如トーブが足を止めた。


 いたのか?

 背後を警戒しつつ、トーブの脇から部屋をのぞき込む。



 その部屋は、他のS級の部屋とは全く違った。

 部屋というよりは、庭園、だろうか。

 いや、よく見ると全体は壁に覆われている。庭園というよりも植物園と呼ぶのが相応しいか。


 んー、トーブはどこを見て立ち止まったんだろう。


 全体をよく目を凝らして見てみるものの、人らしきものは見えない。

 いるのは、なんかものすごいデカい鳥が一羽だけ。

 あの鳥は……えーと……そう、ペリカンだ。口がデカいし、たぶんペリカンだと思う。実際のペリカンは見たことないから確信はできないけど、うん、ペリカ……ン?


 いや、本当にペリカンか? ペリカンって、あんなおなか膨らんでたっけか。

 もっとスリムだった気もする。それに、デカいと言っても限度がない? もうあれ、恐竜ってレベルなんだけど。デカすぎない? まああれか。異世界版のペリカンなのか。なるほどね、ここは俺が産まれた世界ではないもんね。異世界のペリカンはあんな感じなんだね。


 って、そんな鳥よりも、カシュってのはどいつだ……?


「カシュ!!!!」


 トーブは叫び、部屋の中へと走っていく。

 そしてーー


 ガバっと、あのペリカンだかなんだかよく分からん生き物に抱きついた。


「まさかーー」


「カシュ! 会いたかったぞ! ずっと!」


 トーブは、感激して涙を流していた。


「どうやら、そのまさかのようですよ」


 信じられないが……信じるしかない。


 トーブが探し求めていた、愛している女性は、人ではなく、"鳥"だった。

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