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死へと誘う薬


「ぐっ……うぁっ……!」


 身体が燃えるように熱い。


「すぐに殺してもいいんだけどね。どうせならちょっとした実験をやらせてもらうよ」


「うっ……あっ、実験……だと?」


「今君達にかけた薬は、見た目はさっきのものと同じでも足が溶ける薬とは違うんだ。それは人を殺す薬」


「人を……殺す? お前……さっきと言ってることが全然違うじゃねぇか……」


「別に殺さないとは言ってないよボクは。でも、実はこれ、人を殺す薬の中でもかなり特殊でね、かかってもなかなか死にはしないんだ。だけどね、時間が経てば経つほど痛みを増していくんだ。その痛みにどこまで耐えられるか、いつ気絶するか、見せてもらおうと思ってね。僕らは人を殺す液体が作れても、実際人に使うことは禁止されていてね。最終的に死んでしまうこの液体を使うには君らがちょうどよかったのさ」


「くるってやがる……」


 人が死ぬところを見た経験こそあれど、それを見てみたいだなんて思ったことは一度もない。

 研究者ってのはどいつもこいつもこんなに捻くれているのか?


「さぁ! いつまで我慢できるかな! まあもっとも、我慢したところで最後に待っているのは結局死なんだけどねぇ! この薬がかかったら最後、治すものなんてのはこの世に存在しないんだから!」


 今でさえもう限界だってのに、これから更に痛みが増してくってのかよ……。

 そんなの、耐えられるわけがない……。


 ――だが、別に耐える必要もないんだけどな。

 なんせ俺らには、カリバがいるんだから。


 カリバに目を向けると、いかにも痛そうな様子で腹を抑えている。

 

 ってことはあいつ、もう自分に使ってやがるな。

 なんせ、この痛みは腹じゃない。全身が痛いのだ。

 おそらくカリバは体全体に痛みが回る前にさっさと全身を回復してしまったのだろう。

 だからあんな風に、必死に痛いフリをしているんだ。


 それに引き換え、トーブは今にも気絶しそうな険しい顔をしている。口からは泡が―ー

 

 と、早くもトーブは気絶してしまった。

 無理もない。俺ももう気絶しかけるくらい意識が朦朧としている。トーブでもよくもったほうだ。


「……ッ”!」


 もはや声を出すのすら苦しい。


「やるねぇ二人とも! でもさぁ、もう限界なんじゃないのかい!」


 楽しそうに笑いながら、俺達を見た。


 くっ……。なんとか意識を保ちつつ、カリバに目配せをする。


 カリバは、もうやったほうがいいですか? と俺にだけ分かるアイコンタクトをしてきた。

 あのバカ、やけに回復かけてくれないなと思ったら、どれくらい痛いか知らないからまだ大丈夫だと勝手に思っていやがったな? トーブが気絶した時点でどれだけの痛みかなんてわかりきったもんだろうがよ……。


 結局、耐える必要の無い痛みを気絶ギリギリまで耐えきったところで、ようやく痛みが無くなった。

 どうやら、やっとカリバが回復をかけてくれたようだ。


 いくらなんでも遅すぎるぞ……。

 この一件が終わったら絶対文句言ってやる。


 でもまあ、今はカリバへの文句の言葉を考えるよりも先に、あいつをどうにかしないとな。

 さーて、こっからお芝居開始と行きますか!


 トーブが気絶してくれたことは都合が良かった。これなら、嘘をたやすくつくことができる。


「おいおい、君ら二人本当に人間かい? まさかここまで耐えるなんて思いもしなかったよ!」


 タフな相手を前にして興奮しているのか、嬉しそうに女は話した。


「楽しいねぇ! なんで人が苦しんでいる姿ってこんなに楽しいんだろう!」


「……そうかい。俺は、ちっとも楽しくなんかないけどな!」


「……ッ!? なぜ話せる! キミ達はもうとっくに限界を迎えたはず!」


「ばーか! 俺はこんなのにやられるほど雑魚じゃないんだよ! 最初こそ痛かったが、すっかり慣れちまったぞ!」


 もちろん、カリバが回復を使ってくれたんだなんてことは言えない。

 そんなことしたら、カリバが神だってバレちまうからな。

 回復は、神にしか使えないんだから。


「そ、そんなはずはない。痛みは限界無く増していくはずだ。なんせこの薬は痛みを増すことだけに特化したもの。それに慣れるなんて!」


「じゃあ、実験失敗だな!」


 そう言って、一気に距離を詰める。


「ま、待ってくれ! そ、そうだ! 君がボクの持っているリモコンを奪ったところで、痛みに慣れていても君にかかった薬は消えず、君は結局死んでしまうよね? で、でも、ボクは君にかかった薬を打ち消す薬を持っているんだ! だからボクの言うことは聞いたほうがいいよ!」


「さっき言ってたよな、かかったが最後、治すものはこの世に無いって」


「や、やだなぁ。そんなの嘘に決まっているじゃないか! いいかい、君がボクの言うことを聞いてくれたら――」


 最後まで言い終わる前に、俺は女の顔面をぶん殴った。

 いくら普段の力が出せない俺の拳でも、これだけ勢いよく殴れば、当然ぶっ飛ぶし歯は折れるし気絶する。


「わりぃな。薬なら、もうとっくに俺の体から消えちまったよ」


 殴った時に口から吐き出された血を拭うこともせずに、女に近づきポケットを弄る。


「おっ、あったあった」


 ポケットからリモコンを取り出す。


「んじゃ、リモコンも手に入れたことだし――」


 俺は女を風で空中に浮かせ、頭から勢いよく落とした。

 メジハの時と同じように。


「たとえ女だろうとよ、カリバに攻撃したやつを生かしておくほど、俺は甘くないんでね」


 血の広がる床を、とくに心を痛めることなくただ見つめた。

 俺に出会ったのが運の尽き、だったな。

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