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小さなサイエンティスト


「ここか」


 足を止め、目の前の扉を見つめる。見たところ、そんなに他のところとは変わらない。


「はい、そこのセキリュティロックをあなたがぶち壊してくれれば道は開きます。おそらく、あなたが火を当てるだけで簡単に壊れると思いますよ」


「ぶち壊すって、そんなことしたら見つかっちまうんじゃないのか」


「見つかるでしょうね。でも、ここ以外通り道がありませんから……。幸い今は真夜中、いくら危険とはいえ上手く隠れて目的の場所まで行きましょう」


「ここからはスニーキングミッションってわけか……」


「ここからというか、ボラに着いてからずっとそうだと思いますけど」


「そうは言っても、ここまでで会ったのはロボくらいで、まだ誰にも会ってないからな……」


「ここから先もどうせロボばかりですよ。ボラの人間は、研究者でありながら誰もが規則正しい生活をしていますから。夜中はぐっすりです」


 この先に人が大勢いるのなら、三人で隠れるってのは結構無茶な気がするが、これしか方法が無いのならば仕方がない。


「じゃあ、壊すぞ」


 カリバとトーブに確認を取り、俺はドアの横に付いている認証キーに火を灯した。


 ブーン ブーン ブーン


 あたりにサイレンが鳴り響く。

 赤い灯りがチカチカと点滅し、ボラ全体に侵入者を知らせる。


 焦るな俺。S級とやらがいる場所に向かうんだ。サイレンくらい普通普通。


 ロックを壊された扉は、爆発するように勢いよく開いた。


「よし、行くぞ!」


 三人で扉を越え、その先へと走り出そうとすると――


「誰が行くって?」


 ニヤリと、丸眼鏡の白髪の女性が笑った。


 扉の先は、フラスコや試験管など、色々なものが積まれた長机が規則的に並んでおり、女性はその中心にいた。

 見たところ、理科室の実験室みたいな部屋だ。


「ちっ……。いきなり人と遭遇かよ……」


「予想外ですね。ボラの住民は夜には働いていないはずですが」


 とはいえ、幸いにも弱そうな女が一人。これならば、ここを抜けるのはそこまで苦労はしないはず。


「ハハッ。たまたま徹夜で薬作ってたら、侵入者だァ? こんな面白いことが起こるなんて、ボクはツいてるなぁ!」


 心底嬉しそうに、女は笑う。


「悪いが、お前と遊んでる時間は無いんだ。さっさと先に行かせてもらう」


 どうせウインクは効かない。ならば構うよりも放っておくのが正解だろう。

 小さな女を無視し、先へ進もうとした――が。


「残念。この部屋はオートロックでね。このボタン一つで、完全に閉めちゃうことが可能なんだ」


 そう言って、女は持っていたリモコンのボタンを親指で押した。

 すると、後ろの扉がガチャリと音を出して閉じた。


「閉じたところで、また燃やせばいいだけの話だっての」


「燃やす? そうか、炎を使ったのか。確かに、ボラの機械は火と雷気に弱いものが多いから、火を持っていれば簡単に突破できる。ほんとバカだよねぇ、この街は。あまりにも侵入者なんてもんが現れないから、見掛け倒しのロックだけ。ほんと、ボクが起きてなかったら大変だったよ」


 全く焦った様子もなく、ただただ楽しそうに女は話す。


「俺が火を持っていると分かっていて、よくもそんなに落ち着いていられるな。さっきも言ったが、閉じ込められたところでまた火で簡単に壊しちまうぞ?」


「んー、それはどうかな。君の後ろの扉は、外側からはカードを通さなきゃ通れないようになっているから、あんな感じでセキリュティロックが付いていたけれど、逆に内側からは何も通さなくても自由に出られるんだ。それってつまり、閉じてしまえば壊すものも無いってことだよね?」


 たしかに、入ってきたときに壊したものが、俺の背後の扉の近くにはどこにもなかった。

 女の言う通り、これではここから戻れない。


「その扉に限らず、この部屋から繋がる四つの扉は全て同じような仕組みになっているんだ。だから、ここから出たければボクの持っているリモコンを使わなければいけないってわけ」


「なるほどな。簡単な話じゃないか」


「そうだよ、簡単な話。君はボクがアクションを起こさなければ永遠にここから出られないんだ」


「馬鹿言え。こんな薬物臭い部屋にいつまでもいてたまるか。さっさとリモコンを渡せ、そうすりゃ攻撃を加えるつもりはない」


「ハハッ! 渡せって? そんなつまらないことをボクがするわけないじゃないか! いくら君達が三人いるとはいえ、ここはボクの実験室だよ? キミ達と遊べるものなんていくらでもある!」


 不気味に、楽しそうに、女は笑う。

 見ているだけで不愉快な表情だ。できるだけ早くこの場を去りたいところだが――


「例えば、これとかね!」


 フラスコに入った黄色い色のした液体を、女は俺達に見せびらかした。


「これはボクが作った劇薬の一つ。これを浴びるとね、足が溶けちゃうんだ。不思議だねぇ、どこに浴びても、足だけが溶けちゃうの。君達とっても面白そうだからァ、できれば傷つけずに実験体にしてみたかったんだケド、実験中に暴れられたら面倒だからね、まずはこれで足を溶かしてあげる!」


 そう言って、女はフラスコを俺達の方へと投げつけてきた。


「馬鹿が! そんなの当たるわけないだろ!」


 どうやら投擲能力はそこまでらしい。俺達はいとも簡単にそれを交わすと、地面に落ちたフラスコはパリンと音を立てて割れ、中身の液体がどろりと零れた。


 俺達はその液体から距離を取るため、液体が零れたことによりできた水たまりを避けるように前に逃げた。が――


「残念、上だよ」


 女がニヤリと笑いながらリモコンのボタンを押すと、天井がパカッと開き、勢いよく先程の液体が俺達三人に降りかかった。

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