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ゴミ山の大将


 考えるんだ。

 ここから、上手くいく作戦を。

 決めるんだ。

 カリバの前でかっこいいところを。


 とはいえ、不利な状況に変わりはない。


 頭を回せ。考えることに全神経を集中させろ。


 まず第一優先はなんだ?

 トーブの彼女を助けることか?

 違う、カリバを守ることだ!


 ならば、やるべきことは一つ。まずはカリバをここから逃がす!


 それを第一に考えた場合、俺にできることはなんだ?


 周囲を囲むロボは、機械だから当然だが全くの無感情で俺達を見ている。


 ここからどこへ走ろうとも、簡単に捕まって終わりだろう。

 

 だが逆に、ここから動かなければこのロボ達は手を出してこない。じっと待っている。

 

 なら、そこに勝機はある――ッ!


 俺は、再び地面から風を起こした。


 だが、今までの風とは違う。俺が風を起こしたのは――


 俺達から離れた、ゴミの山だ。


 ぶわっと、大量のゴミが宙を舞う。


 あれだけたくさんのゴミが舞えば、ロボ達の視線は一瞬だけ、逸れる――ッ!


 その瞬間を俺は逃さなかった。

 全てのロボが気を逸らした瞬間――俺はカリバを物凄い勢いで空へと飛ばした。

 飛ばした先は、一番近くにあったあの穴。

 トーブが何か言いそうになるのを、目で口止めする。


 あの勢いで飛ばしたら、普通の人間は、多分死ぬ。

 穴は俺達が落ちてきたやつと構造は同じだろうから、穴まで届いたらそのまま真っすぐ上に吹き飛ばせば穴の中は問題ないだろう。だが穴から飛び出しても、俺は風の威力を弱くすることはできない。穴の長さが俺達が落ちてきた長さと同じだろうが違かろうが、ここから見えない先のことで、調節なんてできるわけがない。

 強い勢いのまま、穴の先にある天井までかっ飛ばす。

 

 これはカリバの回復能力を信頼しきった作戦だ。あらかじめぶつかると分かっていれば、即座に回復をできるはずだ。アイスの時のようなことにはならない。

 

 カリバを守るために、カリバを傷つけることになるとはな……。

 これしか思いつかなかったとはいえ、俺がカリバを傷つけたことに変わりない。すべて終わったら、全力で謝ろう。


 ロボ達は、舞ったゴミから俺達へと視線を戻す。


 とりあえずカリバは送ったが、こっから先は同じ作戦は通用しないだろうな。

 カリバをこの場から逃がすことが第一だったとはいえ、逃がせたところでここから先もまだまだ俺のやることは終わらない。


「ナニガ、オコッタ?」


「ヒトリ、キエタ」


 ロボ達は戸惑いを隠せずにゴチャゴチャと話し合っている。


「トーブ、ちょっといいか?」


「え、ああ……」


 カリバをかっ飛ばしてからずっと困惑しているトーブに、耳打ちする。


「俺が合図をしたら、ゴミ山の中に飛び込め。そして、そのまま真っすぐ前に進め。その間俺は後ろに進む。そして、俺が出て注意を引き付けたら、お前も現れろ。そして俺が上に吹っ飛ばす」


「吹っ飛ばすって言ってもなぁ、あんな勢いで穴に突っ込んだら生きて出られるとは思えないぞ」


「大丈夫だ。俺を、信じてくれ」


 トーブは俺の目を見て、俺の目の先にある強い思いを感じ取り、頷いた。


「よっし! じゃあ行くぞ! せーのっ!」


 ズッボリと、地面のゴミへと体を突っ込んだ。

 臭いなんて気にしていられない。ゴミの海を、泳ぐ。


 トーブとは逆方向に、俺は進み続けた。そして――


「おいロボ! 俺はこっちだぞ!!」


 ゴミの海から姿を現し、大声でロボの視線を引き付けた。

 その瞬間、俺の声を確認し、トーブが現れた。

 大丈夫。ロボはまだ俺にしか気づいていない。

 さて、後は飛ばすだけだが、風を起こしたら音でバレてしまうだろう。

 一度目こそ音に気付かれなかったが、あいつらはもう辺りに感覚を研ぎ澄ませているはずだ。

 だから、その音を越える音を出す。

 

 周りを見回す――あそこだ!

 燃えそうな紙が多い場所に狙いを定めて、俺は炎を飛ばした。


 ボーっと炎が燃え盛る。だが、ロボは火の方へと視線を動かさない。じっと、"俺"だけを見ている。

 いいのかな? 俺だけで!!


 声に出さずに気合を入れて、トーブを上へと飛ばした。

 頼むぞカリバ、トーブのことを死なせるなよ……!


 そして、残ったのは、俺だけ。

 どうする。もう注意を逸らすこともできない。

 あたりは火を起こしたことによりモクモクと煙が舞い、息も苦しくなってきた。


 何か? 何かないか? ―――って、あるじゃないか! 最後の希望がっ!


 俺は、再びゴミの山へと潜った。

 このままだと、どこから俺が現れたとしても、おそらくすぐにロボは気づくだろう。

 だが、だからこそ、勝機はある――!


 ゴミの中を泳ぎながら、煙の濃いところに、大きな音をたてて、姿を現した。

 そして、そこにロボが集まった。もう、その場所から逃げることはできない。


 だから、()はその間に、風で勢いよく穴へと吹っ飛んだ。


 そう――最初に姿を現した方は俺ではない。

 風林火山の内の山の力。土で作りだした不格好な偽物の俺だ。

 普通ならこんな作戦は意味をなさないだろうが、今は視界の悪い煙だらけの中。

 だからこそ、俺の作戦は実った。

 力が弱くなろうとも、俺は負けない。俺は、進む――!

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