表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

191/203

無数のゴミ


「ぐげっ……」

 

 上手く調節できずに、ゴミの山に尻餅をつく。

 そしてすぐに

 

「ぐげっ……」


 俺の上にカリバが降りてきて


「ぐげっ……」


 俺の上にトーブが落ちてきた。

 

 カリバの奴、トーブが落ちてくる直前にちゃっかり俺の上から離れてトーブにぶつからないようにしてやがる……。


「にしても、くっさいな……」


 右も左もあるのはゴミのみ。

 これ臭いだけで死ねるんじゃないかな……。


「ちょっといいですか」


 カリバが俺にだけ聞こえるように顔を近づけた。


「これでも一応あなた達が違和感を感じないくらいのさじ加減でこの空間で生じる臭いから回復してあげているんですよ?」


「え? そうなの?」


 とんでもないくらい臭いんだけど。


「当たり前です。大体こんな場所、普通なら意識を失ってすぐ終わりですよ。一体何年分のゴミがここにあると思っているんですか。生ゴミを何年も放置した臭いって、嗅いだことあります?」


「いや、そりゃ分かんないけど。まあ、なんかしてくれてるんならありがとな」


「はい。まああなた達のは絶妙に調整してる中、私にのみ、完全に臭いが伝わらないようしてるんですけれどね」


「ずりぃ! それ俺とトーブにもやってくれよ!」


「そしたらトーブさんが怪しむでしょう。私は臭くて辛い振りができるから全然大丈夫ですけれど。あー臭い臭い」


「何その棒読み……」


「おいあんちゃん達、いつまでイチャイチャしてんだ。こっちはイチャイチャしたくても相手が今ここにいないってのに」


「イチャイチャなんてしてません! ここの臭いよりあなたの方が臭いですねと伝えてあげただけです」


「その嘘はさすがに酷すぎない? 俺じゃなきゃ傷ついてるからねその発言。まぁ、俺は別にいいんだけどさ。で、そんなことより、こっからどこへ向かえばいいんだ?」


「トーブさんの想い人が隔離されている場所はおそらくボラの中央です。今いる場所は端っこなので、このまままっすぐ進みます。と言っても、さすがにこのゴミ捨て場から正確に中央まで行ける程はっきりとは案内できません。なので、これくらいでいいかな、と思ったところで上に上がります。上を見上げると、穴がいくつかあるのが分かりますね?」


「ああ、さっき落ちてきた穴と同じようなのが遠くにも何個かあるな」


 高い天井を見上げながら、俺は答えた。


「はい。あの穴は、全てボラのゴミ捨て場へと繋がっています。ここからまだ全く見えないほど先にある同じような穴を通って、私達は目的地に向かいます」


「ゴミ捨て場が街全体と繋がってるとか、改めてすげえ街だなここは」


 できることならこんな地下深くではなく明るい街の上を歩いてみたかった。技術の進歩とやらも気になるし。


「そこかしこに捨てられる場所があるおかげで、ボラはポイ捨てが少なくとても綺麗な街なんですよ」


「ここにいる限りじゃ綺麗とは到底思えないけどな。というか、また穴を通るって言ってたけどさ、どこの穴も落ちてきた穴と同じようにクソ長いんだろ? 戻れるのか?」


「あなたはどこまでも高く持ち上げることができるのでしょう?」


「いや、まあそうなんだけど、見えない先まで浮かせるのはちょっと怖いな」


「安心してください。地上に着く直前までは直線なので、あなたは何か調整したりする必要はありません。まっすぐ上に飛ばしてください」


「怪我しても保証できないからな」


「それ、私に言う言葉ですか?」


「そりゃそうだった。さて、こんなとこでダラダラしゃべっててもしょうがない。さっさと案内してくれ」


 カリバの案内の元、俺達は変わらない景色の中を歩き始めた。

 ちなみに、本当にカリバは臭いセーブしてくれてるのか? って疑問をずっと抱き続けるくらいとにかく臭い。視覚的なもんも影響してるのかもしれない。

 ゲロより汚いものがそこら中にあるし。


 今が何時なのかも分からず、ずっと同じ景色の中を俺達は歩き続ける。

 たまにある灯りのおかげで真っ暗ってわけではないんだが、なんだかなぁ。


「って、なんだあれ」


「あれって……、やばいです! あれに見つ……」


 カリバが何か言うより先に、俺が見つけた"それ"が近づいて来た。

 

 なんというか、ロボ……だよなこれ。

 下半身はキャタピラになっており、いかにもロボですって感じの顔を付けた機械がこちらに近づいて来た。


「嘘……この時間はロボットはこの辺りにはいないはずなのに……」


「なんだ? 実はこいつがとんでもなく強かったりするのか?」


 いかにも弱そうなロボの頭をポンと叩く。


「違いますけど、とにかく面倒なことがおこるんです。理由は後で話すので、今すぐこのロボを壊してください!」


「え? 壊すってどうやって」


 うーん……。


 とりあえず思いきって顔面にパンチをしてみた。

 が、こっちが痛いだけでびくともしない。

 見た目はほんと強そうではないんだけど、とにかく硬い。


「何やってるんですか! 上です! 上に飛ばすんです!」


「上って……ああ、そういうことねっ!」


「ハッケン。ハッケン。タダイマヨリ、カクニンヲオコナ――」


 ふんっと気合を入れて、機械的な音声で何かを言い始めたロボを風で浮かす。そして高い天井まで勢いよく打ち上げた。重すぎて持ち上がらないとかなくて良かった……。


 ガコンっと音がして、ロボットは勢いよく砕け散った。


「間に合い、ましたかね?」


「間に合うってどういうことだ? 結局なんだったんだよあいつは」


「あのロボットは、ここを整えるのが主な仕事です」


「整えるって、なんだ?」


「考えてみてください。穴からゴミを捨て続けたら、普通はその真下にゴミが集まりますよね。特に、利用されることの多いゴミ捨て場と繋がっている穴の下は、大変なことになってしまいます」


「あー、そりゃそうだ。でも、見た限りそんな風にはなってないな」


「はい。それは、あのロボットが整地をしているからなんです。それと、ゴミが増えすぎないように時々燃やしたりもしています。地下は無限に広がっているわけではありませんからね」


「へぇ、そんな機能があるようには見えなかったけど」


 ロボは、何もできそうに無いポンコツって感じの見た目をしていた。とても火を出したりするとは思えない。


「言ったでしょう? ボラは技術が進んでいるって」


「ふーん、そういうもんなんか。でもさぁ、そいつに見つかったところで別に何も無くないか? ただ聖地してるだけなんだろ?」


「ゴミ捨て場を整えるというのは、何も整地をすることだけを言っているのではありません。よく考えてみてください。街のそこかしこにある穴、何かに使えるとは思いませんか?」


「えーと……」


 なんだろう。いまいちピンと来ない。


「殺人、ですよ。穴の先がこんな深い場所にあるのですから、穴に落とすだけで簡単に人を殺せます。そして、穴の先に生きた人がいないならば、遺体が見つかることはありません。それだけではありません。何か理由があって、地上で人を殺したとしましょう。その後、遺体をここに投げ入れてしまえば、証拠を残さず簡単に遺体処理ができてしまうのです」


「確かに、言われてみればそうだな……」


 いくら穴の周りに柵があったからといって、鍵すらかかっていないあんな柵は誰でも簡単に越えられる。酒に酔った相手や力の弱い女子供なら、簡単に穴まで連れていき、無理矢理落としてしまうことなど造作も無いだろう。


「これでは、ボラは殺害し放題の無法地帯です。それを防ぐため、ボラの地下のロボットにはとある機能がついています」


「ゴミと人を判別する機能、か」


「そうです。もし人が投げ捨てられた場合、その機能によって、すぐにゴミではないと判別でき、そもそもどの穴に投げ捨てられたかは普段から整地をしているロボには簡単に分かりますので、犯人も見つけやすくなります。更に、ボラは全員にナンバーがつけられており、ロボットは遺体の血を採血することにより、その遺体がどのナンバーと一致するのかを特定することができます」


「すげえな、血で特定って……」


「ボラは子供が生まれた時に必ずその子供の採血を行い、その血をデータベースに残していますから、ロボットは、遺体の血とそのデータベースとで照らし合わせることで遺体が誰かが分かるんです」


「データベースって……。この街にはインターネットとかもあるのか?」


「インターネット? なんですかそれ? とにかく、ロボットにはそういう機能があるんです」


「ふーん、じゃあ俺達はデータベースに入ってない人間だから、もし血を抜かれてたらまずかったな。血一つで部外者の侵入が簡単にバレちまうってわけだ。でもまあ、血は抜かれなかったしセーフだろ?」


「いいえ、私はまだ、遺体の話しかしていません。可能性は極めて0に等しいですが、穴に落ちた後、死なずに遺体にならなかったケースの話がまだです。何せ下にあるのはゴミ。落ちたら必ずしも死亡ではなく、ゴミがクッションとなり生きる可能性もあるでしょう」


「その場合は、どうなるんだ?」


「ロボットが生存者と接触した場合は、採血よりも優先して、レスキューを専門にしているロボットが助けに来ます」


「ということは、じゃあ……」


「レスキューロボ、来るかもしれません。あ、でも大丈夫ですよ、おそらく情報がレスキュー隊に届く前にロボットを壊せましたから、だって、もしレスキューロボが来るならサイレンで知らせが……」


 ヴーンヴーン。


 あたりにサイレンが鳴り響く。


「って、おい!これもしかして!」


「やばいです! レスキューロボ、来ます!!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ