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伝聞

「なんで!? わたし可愛かったよね? ねえ?」


「あいつも俺と同じで女に飽きているのかもな。金持ちってやつは女には困らないし」


「そっかぁ……。うぅ、こんなことだったらやらなければよかったよぉ!」


 萌衣は、がくんと肩を落として項垂れた。


「私も、可愛かったですよね?」


「いや、その、うん。まあ可愛かったんじゃないかな」


 微笑ましい的な意味で。


 にしても、まずいな。男でなおかつ女に飽きているやつが相手となると、この街の落とし方が分からない。

 そもそも、一度失敗したことであいつとの接触が難しくなっている。


 どうしたものかととぼとぼ歩いていると、野太い声の男二人組の会話が耳に入ってきた。

 


「なあ聞いたか。今度の帝王杯、あいつ出るらしいぜ!」


 2人のうち背が高い方の男が、大声で言った。


「あいつって誰だよ」


 背が低い方の男は、あまり興味なさそうに問う。


「分かんねえのか? ツヨジョだよツヨジョ」


「一人で何百もの魔物の群れを片付けたっていうあのツヨジョがか?」


「そうそう! 他の参加者は可哀想だよなぁ。ツヨジョが出るって分かれば、皆出場取り消しちゃうんじゃないか?」


「っていうか、俺の妹も出場するんだけど! どうすんだよ、妹怪我しちゃったら」


「ははっ! 早く妹に伝えてやれ。今回の帝王杯には出るんじゃないってな」


「そうさせてもらう。あーあ、妹さ、『優勝してサオル様の側近になることができたら、お兄ちゃんに美味しいものいっぱい食べさせてあげる!』ってはりきってたのになぁ」


「どんまいどんまい、ま、次があるだろ。毎月やってるんだから今回くらい出なくたっていいじゃないか」


「それもそうだな。じゃ、早速妹に伝えてくるわ」


 そう言って、背が低い方の男は走って行った。


「おう! 可愛い妹を大切にな」


 走って行った背中に、残された男はそう声を掛けてから、ゆっくりと歩いて行った。



 ふむ、良いことを聞いた。


「カリバ、今の話聞いてたな?」


「はい。『お兄ちゃんに美味しいものいっぱい食べさせてあげる』とは、なんとも可愛らしい妹さんですね」


「いや、そこじゃないんだが」


「え!?」


 聞いてなかったのか……。


 今の男、『優勝してサオル様の側近になることができる』と言っていた。

 つまり、あいつに簡単に近づく方法がまだ残っている。


「お前ら、帝王杯についての情報をこれから集めてこい!」


「はっ!」


 ビシッと敬礼をして、カリバは走って行った。


 よし、俺がやることは一つだ。

 その帝王杯という大会にエントリーして、優勝してサオルの側近になり、隙を見つけ王の座を奪う!


「さて、俺も帝王杯について調べるか」


 そもそも出場する方法を知ることができないと意味が無いし。


「その前にご飯行こうよ~。もうお腹空いちゃった!」


『同意』


「飯ならついさっき食ったばかりじゃないか……って、おい!」


 なんでミステと萌衣は、まだここに残っているんだ。

 さっき情報を集めて来いって言っただろうが。


「どしたのお兄ちゃん、突然『おい!』なんて。あ、もしかしてそれお兄ちゃん考案の新しい挨拶? 流行らないからやめときなって」


「どこの世界にそんな相手を不快にさせるような挨拶をするやつがいる」


「別に不快じゃなかったけど?」


「普通は突然『おい!』なんて言われたら不快になるの! そうじゃなくて、なんでお前らまだここにいるんだよ。帝王杯の情報集め!」


「いや、そんなのカリバちゃんに任せればいいでしょ。そもそも王様のいる建物特定したのもカリバちゃんだし」


『甘いもの 求む』


「あ、わたしも甘いもの食べたい!」


「お前らなぁ……」


 もうちょっとやる気を出せよ、せっかく帝王杯っていう良い情報を手に入れたんだから。


「でもさ、わたしやミステちゃんに、情報収集なんて出来ると思う?」


「確かに……」


 萌衣はテストで赤点しかとることが出来ないアホの子だし、ミステに至ってはほとんどしゃべらない。


「そういうわけだから、わたし達はやっても意味が無いの!」


「自信満々に言うな」


 ペシッ! と軽く萌衣の頭を小突く。


「というか、お兄ちゃんだってやらなくていいんじゃない?」


「え? なんで?」


 俺は萌衣と比べたら学力はあるし、ミステと違って人と話せるんだが。


「だって、どうせウインク使って女の子落として情報収集するんでしょ?」


「そりゃまあそうだな」


 その方法が一番手っ取り早いんだし。


「落とした女の子がさ、何も情報を持ってなかったとするじゃん? で、新たな女の子を落とすじゃん? また情報を持ってなかったとするじゃん? また新たな女の子を落とすじゃん? って、そうやってどんどんどんどん女の子を落としまくると、惚れさせちゃったたくさんの女の子に囲まれて、イオキィでまともに行動できなくなるよ」


「言われてみれば……」


 こいつ、アホの子なのに賢いじゃないか。確かにその通りだ。女を落としまくれば、俺はそいつらに囲まれてしまう。実際トタースでも、外に出るとすぐに周りに女が集まってきて、まともに行動できなかった。


「そういうわけだから、お兄ちゃんもわたしとミステちゃんと一緒に甘いものを食べに行こう!」


「……それもそうだな! よーし、クレープでも食べようぜ! さっき美味そうなクレープ屋があったんだよ!」


 なんだか上手く言いくるめられてしまったような気もするが、どうせカリバに任せていれば見つかるんだし、俺達はもうとことん街を楽しもうか!

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