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壁の中へ


「この辺りでいいでしょう」


 何キロあるのかわからないほどの外周を歩いている途中、カリバは上を見上げた。

 空では数々の光が瞬いている。当たり前だが、あの光一つ一つが星で、異世界だろうと空の先には宇宙が広がっている。


「あの星のどれかに、宇宙人がいたりするのかね……」


「宇宙人? 何言っているんですか? それより壁ですよ壁。この辺りから、壁の上に行きましょう」


 ああ、カリバが見上げてたのは、空じゃなくて壁の頂だったのか。

 すっかり夜な為、視界が悪く、壁がどこまであるのかはっきりとは見えない。

 正直、暗いほうが危険な気がしなくもないが、カリバが言うには夜は明るい昼間より遥かに作戦が成功する確率が高いらしい。


「分かった。ここなら安全なんだな」


「確実とは決して言えませんけどね。まあ、行けば分かると思いますよ、どうしてここを選んだのか」


「ふーん。まあいいや。じゃ、誰から上行く?」


「俺、俺に行かせてくれ!」


 目を輝かせながらトーブが手を挙げた。


「いえ、ここはカプチーノさんでしょう。何かあった場合、壁の上からすぐに逃げられるのは自由に空を飛べるカプチーノさんだけですので」


 いや、あれ空を飛んでるんじゃなくて空を浮いているんだけどね。


「う、確かにそうかもしれない。じゃああんちゃん、さっさと行ってこい」


「行ってこいって言われてもな……」


 ゴクリと唾を飲む。この先はどんな場所なのか未知数だ。科学力が外の世界より先をいっているらしいボラ。緊張するなというのも無理な話だ。


「どうしたんですか? 行かないんですか?」


「いや、行く。……よし!」


 高い高い壁の頂点を目指して、俺はえいやと浮いた。


 やはり一人で浮くのは容易い。

 ゆっくりと、確実に上へと上がる。そして、すんなりと壁の上まで辿り着いた。


「ふぅ……」

 

 結構足場は広いんだな。

 想像よりずっと、壁は横幅があった。車が一台通れそうなほど広い。


「さて、向こう側はどうなってるかな」


 カリバとトーブをここまで連れてくる前に安全を確認するため壁の内側へと視線を移す。


「……って、おいおいマジかよ」


 そこには、なんとも予想外な光景が広がっていた。


「でっけぇ……」

 

 そう。壁を越えたところで、かなり大きな建物の外観が見えるだけだった。

 どこまでも広がっていそうな巨大な建物が、壁の中にはあった。

 なるほど、町全体が研究施設とはよく言ったもんだ。まさか壁を越えたらその先にあるのが巨大な建物とはな……。壁程の高さこそ無いが、今まで見たどんな施設よりも大きな建物がそこにはあった。

 建物の側面には等間隔に窓ガラスがあり、外の様子は中から簡単に見えてしまうようになっている。

 これなら確かに昼よりは夜のが都合が良いというのも頷ける。


 下に誰もいないことをしっかり確認してから、俺はカリバ達に向かって腕で丸を作った。

 って、この距離じゃ俺の合図なんて見えないか。


 ま、合図なんて見えなくてもとっくに心の準備はできているだろう。

 俺は遠目でなんとか位置を確認しながら、トーブを浮かした。


「っと。うはぁ。空飛ぶってやっぱ気持ちいなぁ」

 

「馬鹿、あんま大きな声出すなって」


 清々しい顔をしてやってきたトーブに続いて、ふわふわと慎重にカリバも連れてきた。


「さて、下に誰もいないことですし、早速降りましょうか」


「降りるのはいいんだけどさ。降りた瞬間中にいる人に見つかって即詰み、みたいなことにはならないのか?」


「安心してください。この辺りは夜は滅多に人が通らないので。まあ降りたら分かりますよ」


 カリバを信じ、一人ずつ俺から順に壁の内側へと降りていく。

 ここから先は、もう後戻りはできない。


「お二人とも、中を見てください」


 最後に降りてきたカリバの言葉に頷き、ガラス越しに建物の中を見る。


「なんだあれ。巨大な穴?」


 そう。俺達が降りたところにある窓から見える部分には、巨大な穴があった。

 ポカンと空いた穴だが、決してうっかり落ちてしまうようなものではなく、穴から少し離れたところにぐるっと柵が張り巡らされており、扉を開けなければ入れないようになっている。


「そうです穴です。なんの穴か分かりますか?」


「いや、さっぱりわからん」


「あの穴はですね。この建物の中のあらゆるところに開いています。まあ、壁からすぐ近くにあるのはここくらいですが」


「じゃあカリバは、この穴があるからここに決めたのか」


「はい。ここを使うことで、なるべく人に会わずに目的地に行くことが可能ですから」


「へぇ、そいつは凄いな。なんでそんな穴がそこかしこにあるんだ? いろんな場所へのショートカットになるとか?」


「いえ、違います。いや、まあショートカットにはなるのですが。まあ簡単な話、あれは、ダストシュートです」


「ダストシュートって、つまりゴミ箱か!?」


「はい。この街は、あらゆるところに穴があって、その穴は全て地下のゴミ処理場へと繋がっているんですよ。で、ゴミは基本皆さん朝に捨てますから、今はこの辺を通る人が少ないわけです」


「なるほどな。って待てよ、この穴目当てに来たってことはまさか」


「はいそうです。私たちは、ダストシュートを通してゴミの山へと行き、そこから目的地へと向かうんです。なんせこの街の巨大なゴミ処理場は、街のいたるところに繋がっているんですから。なんと、この建物の広さのまま、地下全体にゴミが広がっているんですよ!!」


「マジかよ……」


 うげぇ、考えただけで吐きそう。

 もしかしなくても、俺達身体中ゴミだらけになるよな、それ……。

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