城からの脱出
トーブの用意していた策とは、至極単純なものだった。
メジハにばれないように、ひっそりと外へと続く通路を素手で掘り進めていたのだ。
トーブが何日もかけて掘った穴を、3人で屈みながら歩く。
おそらく、このトーブという男はそこそこ腕っぷしがある。そうでなければいくら時間があったとはいえここまで掘ることはできないはずだ。
「ほら、着いたぜ」
先陣を切っていたトーブが屈んだまま指を指す。
指の先には、ぼんやりと明るい光が俺達を迎えていた。
ここから出てしばらく走れば、おそらくなんの危険も無くメジハから逃げることが出来る。
だが、それではカリバに見損なわれてしまう。だから、あえてここからは危険なことをする。
なぁに、危険なことと言っても危険なのは俺だけだ。カリバには傷1つ付けるつもりはない。
穴から出て、大きく伸びをした。背中の骨がポキポキと鳴り気持ちがいい。
「で、どうするんですか?」
「どうするも何も、まずはあいつを呼ぶ。そんで、あいつにやられた借りを返す」
「簡単に言うけどよぉあんちゃん、見たところあんたあんまり強そうじゃない。メジハだって大したことないかもしれんが、なんせあいつには護衛が付いている。強そうな姉ちゃん相手に、兄ちゃんが勝てるとは思えない」
「大丈夫だ。そういう、肉体的な強さでどうこうするつもりは無いからな」
普段の俺ならともかく、今の俺はトーブの言う通りそのままぶつかっていっても多分勝てない。
けれど、だからって俺は一般人になっちまったわけではない。
「さーて、トーブの女を探すってミッションもあることだし、さっさと済ませますかね」
人通りの少ないところから、人通りの多い城の近くまで移動する。
俺とカリバはともかく、身体中傷だらけのトーブは周りにいた人達が不信そうにぎょろぎょろと見つめていた。
まだ完全に夜になっている訳でも無いため、人の数は少なくない。――だが、まだ足りない。
まぁ人の数は後でどうにでもなる。それよりも、ターゲットを呼んでもらわないとな。
捕まったあの時と同じように、再び城の前に立つ。
「あ、あなたはさっきの……? 城に入ったはずでは」
俺が入った時と同じ人が、まだ門番をしていた。
「ん、あぁ、出てきた」
「出てきたって、入口はここしか無いはずなのですが……」
「なーんか迷っちまってな。気がついたらここにいたんだ。すまないが、メジハさんを呼んでもらってもいいか? まだ話が途中でさ、俺がここに来たって伝えればまた迎えてに来てくれるはずだから」
「そ、そうですか。分かりました。少しお待ちください」
俺達がここにいることに多少驚きはしていたものの、どうやらちゃんと呼んでくれるようだ。
ということは、この門番さんはメジハが地下でやっていることについては何も知らないんだろうな。
さて、まだしばらくかかりそうだし、この間に。
「なぁなぁ!! 今からここで、メジハさんがとんでもないことをしてくれるらしいぞ!!」
俺は、遠くまで聞こえるくらい大声で叫んだ。
街を歩く人達が、なんだなんだと足を止める。
「な、何してるんですか! 私は目立ってはいけないんですよ!」
小声で、俺に不安そうにカリバが伝える。
「すまんカリバ、今はとにかく人を集めなきゃならない。お前も手伝ってくれ」
「あの男に報復できるのなら協力はしますが、もし私の正体を知っている人まで引き連れるような事態になったら許しませんからね」
「まぁ、それは賭けだな」
大丈夫、という保障はない。でもまぁ皆から逃げている神がわざわざこんな大袈裟なことをしているとは普通思わないだろう。顔を見ずにカリバが神だと気づくには、カリバを殺そうという意識を持って探していなければならない。こんな人混みの中心を、わざわざそんな意識を持ちながら見るやつもいるまい。
それからも俺は何度か叫ぶ。
気がつけば、ぞろぞろとたくさんの人が集まっていた。
よし、これだけいればもう十分だな。
「なんなんだいこの騒ぎは。僕を呼んでいる人というのは一体誰で……!? なぜ、君達がここにいる!?」
二人の兵士を連れて現れたメジハは俺達を見るやいなや、顔を顰めた。
当然だ。地下にいるはずの人物とこんな所で再開したんだからな。
「いやー、ちょっと道に迷っちまってさぁ。気がついたらここにいたんだよ」
「道に迷うだとぉ!?」
メジハは優しそうな顔を必死に取り繕っているものの、今にも怒りが弾けだしそうだ。
「メジハ様、どうかしたのですか?」
「い、いや、なんでもないんだ。さて、迷ったならまた案内してあげよう。さぁ、こっちへ」
「その前に、面白いことを見せてくれるんだろ?」
「面白いことだって? なんの話しだい?」
「なんの話だかは、これからすぐに分かるさ」
ニヤリと、メジハを見て笑う。
さーて、見てろよカリバ。俺ができる男だっていうところをなぁ!




