救世主さん
「な、なんだ?」
大声で突然叫んだおっさんは、嬉しそうに俺達を見た。
うーん、悪い人ではなさそうだが、普通の人ではない気がする。
「俺の名前はトーブ。この牢にお前らより先に捕まっちまった男だ」
「トーブ、ねぇ」
「目的地に行く途中にこの街に寄ったら、あっちゅう間に捕まっちまった。おそらくお前らもそうなんだろ?」
「あぁ」
俺の言葉に、カリバも頷く。
「あいつの遊びは酷いもんだ。見てみろこれ」
トーブがボロボロの汚れたシャツを脱ぐと、そこにはたくさんの傷跡があった。
「これは、酷い傷ですね……」
「それ全部、あいつにやられたのか?」
「そうだ。あいつは普通じゃねぇ」
痛々しくて見ていられない。
カリバの力さえ使えば簡単に治せるのだが、ここであれを使えばカリバが神だとバレてしまう。いくら悪人とは思えない男でも、カリバが神だと分かった途端何をしてくるかなんて分からない。
「だが、俺はあの野郎にただやられているだけじゃなった。ここから脱出する方法を、ずっと用意していたんだ」
「ほんとか!」
「あぁ。だが、タダでお前らを逃がすってのは虫が良すぎる話だ。そうだろ?」
「まぁ、そうだな」
トーブは傷だらけになりながらもあいつの悪趣味に耐えてきたってのに、何もされることなく無傷で脱出してしまうのは、どう考えてもずるい。
「そこでだ。条件がある」
「その条件ってのが、さっき言ってたあいつを救えるだかなんだかが関係してくるってわけだな?」
「察しが良いじゃねえかあんちゃん。そういうことだ。俺は助けたい女がいる。そいつを助けるのに協力して欲しい」
「勿論、できることなら協力は惜しまずさせてもらう。俺達だってここから出たいからな」
「そいつは助かる。ここで断られてたら、俺の計画がまた振り出しに戻っちまっていたところだかんな」
「で、その助けたい女ってのはどこにいるんだ? ここにある他の牢か?」
もしそうなら、あまりにも静かすぎる気もするが。
「いや、ここには今は俺しかいねぇよ、昔はいたみたいだがな、全員壊れちまった」
「壊れたって……」
「死んじまったってことさ。そりゃそうだ。あんなのずっと続けられたら死ぬに決まってる。食えるもんもろくに出してもらえねえしな」
身体中傷だらけにされるだけじゃなく、食事も満足に取れないのか。
もしここにずっといることになったらと思うと、背筋がぞっとする。
「酷すぎます……。救世主さん、あのメジハという男、私許せません」
「きゅ、救世主さん? まさかとは思うが、その救世主さんってのは俺の事か?」
「えぇ、自分で言ってたじゃないか。救世主だって」
「いや、確かに言ったけど、その呼び方はないだろ」
何かある度に救世主さんなんて呼ばれるのは、いくらなんでも恥ずかしすぎる。
そりゃあ、カリバの救世主であることは事実だし、それを変えるつもりもないけども。
「そう言われましても、私、まだあなたの名前を教えて貰っていませんし。あなたと呼んでいると、2人以上人がいると紛らわしいんですよ。だから、救世主さん」
「え? 俺教えなかったっけ?」
「はい、私はあなたの名前を知りません。あなただって、私の名前は知らないでしょう?」
「いや、知ってるけど。カリバだろ?」
「なんで知ってるんですか!」
「えーと……、救世主だから?」
「またそれですか……。ほんとなんなんですか救世主って」
「救世主は救世主だっての。んじゃ、今更すぎるけど自己紹介しとくか。名前はカプチーノ、というかあれだな。お前と、あとトーブにも俺の力の強さを知ってもらう為にも、ここで1度能力値を見せておくべきか。 力照会!!」
…………
……………?
あれ?
なんも出ない。
いや、おかしいだろ。いつもならなんか紙が1枚ペラって。
「あの、何やってるんですか?」
「いや、何ってほら、俺の攻撃力とか見せようと思って」
「こ、攻撃力って」
おかしなことを言うなと言わんばかりに呆れたようにカリバは笑った。
「そんな何かを叫ぶだけで人の力が測れるわけないじゃないですか。大体、攻撃する力を見せるってなんですか。まぁでも今までの行動からしてなんとなくあなたの力は分かりますけどね。あなたは、力無し、です」
「いや、俺はその……くっそ、なんで紙がでてこないんだ……」
「何も無いところに紙が出てくるわけないでしょう。馬鹿なこと言ってないで、トーブさんの話を聞きましょう」
「あ、あぁ……」
なんだなんだ? この世界には能力値という概念が無いのか?
ここは俺達が戦った世界の過去のはずだ。
だったら、能力値が無いなんておかしいじゃないか。
はぁ……。
考えても答えなんて分かりっこない。
とりあえずはここを出ることが優先。
落ち着いたらまたじっくり考えることにしよう。
「えーと、なんだ。メジハをあのままにしておくわけにはいかないんだっけか?」
「そうですよカプチーノさん。このままここを出て、あなたは納得できるんですか?」
「納得はできないが、だからと言ってカリバを危険に晒すわけにはいかない。だから、何もしない」
「何を言ってるんですか! もしこのまま放っておいたら、きっと次の犠牲者が」
「俺は、カリバを守るんだ」
他の人まで守るつもりは、無い。
「そうですか見損ないました。じゃあトーブさん、私と二人でメジハさんをなんとかしましょう」
「ちょ、ちょっと待て」
「なんですか? 言っておきますが、止めても無駄ですよ」
「いや、その、なんだ。お前に見損なわれるのだけはまずい。だから、俺がなんとかする」
「えぇ……。ついさっき何もしないって言ったばかりじゃないですか」
「お前に見損なわれるのを避けるのが俺の最優先事項なんだよ。それに、俺が何もしないことでお前が危険に飛び込むなら、その危険を無くすために先に俺が飛び込まなきゃいけないんだよ。だから、すべて俺に任せろ。言っただろ、俺は救世主だって。ほかの誰でもない、お前の、カリバの救世主なんだ」
「そこまで言うなら任せますけど……。なんか気持ち悪いですね……」
「気持ち悪い、か。まあいいさ、お前がどう思おうと、俺のやることは変わらない。俺はお前の為に行動する」
そしていつか、その気持ち悪さがかっこよく見えるようになってくれたら、俺は幸せだ。
だから間違っても、見損なわれるような行動をするわけにはいない。




