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トタースの城

 

 目の前にそびえ立つ城を見上げる。

 ふっ。周りの建物が小さいから高く見えたものの、よく見てみれば俺が使っていた城よりもはるかに小さいではないか。

 見た目だって俺の城の方が全然かっこよかったし、やっぱトタースは俺がいなきゃ全然だな。

 どうせならこの時代でも俺がこの街を支配してやろうか。

 ……なんてな。こんなところにいつまでもいるわけにはいかない。やらなければならないこととやらをさっさとやって、早くカリバを含めた俺の城に戻りたい。もう皆が恋しくてたまらない。


  「なにぼーっと突っ立っているんですか。城に用事があるのでしょう? ならば見るべきは上ではなく前です。やはり街の要なだけあって、入り口にはいかにも強そうな門番が待機しています。おそらく、簡単には通してくれないでしょう。さて、どうしましょうか?」


「心配すんな。いくら強そうでも、女が相手なら何も問題はない。ここは俺に任せておけ」


「任せておけって……。来たばかりでいきなり何かをするのは無謀でしかありません。まずは作戦を練るべきでは? どんな会話をするだとか、会話を聞いてくれない相手で会った場合どうするか、とか」


「作戦ならもうあるから問題ない。まあいいから見てろって」


「そこまで自信たっぷりに言うのなら任せますけど、無茶なことはしないでくださいよ。もし私の正体がバレたら、全部終わってしまうんですから」


「んなこと分かってるって」


  ちょっとウインクするだけだ。無茶も何もないさ。


  カリバと並んで、堂々と門番のいる場所まで歩いた。カリバは不安そうに俺を見ていたが、その不安もすぐに消えるはずだ。


「なあ、ここ入りたいから門を開けてくれないか? ちょっと用事があるんだよね」


「すみませんが一般の方を通す訳には行きません。通行証はございますか?」


「入館証ねぇ」


  もちろんそんなもんは無い。だが、俺にはどんな場所でも通ることのできる、最強の技がある。

  俺は女性の瞳を見つめ、そして、ウインクをした。全ての女を落とす目(ラブミーウインク)、この能力で落ちない女はいない。

 惚れた男に女は弱い。たとえそこが絶対に部外者を入れてはいけないところであろうと、惚れた男が言うのなら、簡単に入れてしまうことだろう。


「さて、通してくれる気になったか?」

 

  無論、答えは聞かずとも分かっている。

  カリバよ驚け、これが俺の実力――


「何度も言わせないでください。ここは、入館証を提示していただかなければ通すことはできません」


「な!?」


「何を驚いているのですか? 入館証が無いのならお引き取りください」


  ウインク! ウインク! ウインク!

  何度も何度もウインクを行う。

  だが一向に女の表情は変わらない。面倒な男を見るような顔を、全く崩さない。


  また、ウインクが使えないのか?


  ありえない。平行世界でウインクが使えなかったのは、その世界の女は既に幼い俺によってウインクをかけられていたからだ。ウインクの上書きはできない。だから落とせなかった。


  だが今は違う。

  ここは過去だ。過去に俺がいるわけがない。

  ならどうして。どうしてウインクが聞かない。


「あのー……もしかして、何も策が無いんじゃないでしょうね?」


  ウインクを何度も繰り返す俺をジト目で見ながらカリバは訪ねる。


「いや、完璧な作戦があったんだ。だけど、何故か上手くいかない」


「はぁ? 作戦って、さっきから何度もぱちぱちしているウインクがですか? あなた、自意識過剰すぎません? ウインクするだけでなんでも上手くいくなんてイケメンですら無理ですよ。ましてやイケメンですらないあなたはもってのほか」


  カリバに何を言われようと、俺には反論ができない。

  現に今の俺は、ただ意味の無いウインクを繰り返すおかしな男でしかないのだから。


「さぁ、帰りますよ。きちんと作戦を考えてからもう一度来ましょう?」


「いや、でも」


「でもじゃありません。ほら、周りの目もどんどん増えてきていますし」


  辺りを見回すと、いつの間にか野次馬がたくさん湧いていた。

 人が多いのは、今の俺達にとって何よりもまずい。くっ、ここは引き下がるしかないか。


「どうかしたのかね?」


  野次馬の束の中から、キラキラと効果音でもしそうなほど爽やかな金髪の青年が現れた。


「メジハ様! 実は、この二人が通行証も無いのに城に入れろと」


 金髪の少年が現れるや否や、門番の女は俺達を指さして状況を報告した。

 なるほど。こいつが城に住んでいる奴か。随分とまぁいかにも金持ちってオーラを出しやがって。

 こんな男に支配されているトタースが不憫でならない。


「城に入りたい二人組、か。よし、ならば僕についてきたまえ。案内しよう」


「何を言っているんですかメジハ様! この者達がテロリストだったらどうするんですか?」


「テロリストをやれるほど、二人は悪そうに見えるかい?」


「片方はフードを被っていていかにも怪しいですし、してもおかしくないでしょう」


「僕だってフードを被る時がある。そうしたら僕も悪者なのかい?」


「いえ、そういうわけでは……」


「ちょうど退屈していたんだ。客人なら大歓迎さ」


「えーと、ほんとにいいのか?」


 自分で言うのもなんだが、こんなよく分からない二人組をそんなほいほい城に招くもんじゃない。

 門番が指摘していた通り、フードを被ってるカリバなんか怪しさマックスだし。


「君達と話がしてみたい、だから案内する。それが理由じゃダメかな?」


「ならお言葉に甘えて。いくぞ、カリバ」


「何か怪しいような……」


 どうやらカリバは何かが引っかかるようで、顎に手を当てて、うーんと首を捻った。


  「そうか? こいつはただの親切な人だろ。確かにあんまり好きになれない見た目はしてるが、見た目だけだ。俺はこいつと仲良くなれる気すらしてるぞ」


「その親切が、引っかかるんですよねぇ……」


 そう呟いて、カリバはフードを更に深くかぶり、キョロキョロと辺りを見回しながら、俺と共にメジハの案内の元城へと入っていった。

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