トタース
「ここが、トタース……?」
俺が知っているトタースとは全然違う。
というか、そもそもここは結局のところ何年前なのかまだ分かっていない。過去であることすら一応確実ではない。いや、それはもう確定していいか。
うーん。今がいつか知ろうにも、この世界にはカレンダーとか無いからなぁ。
そもそも俺のいた世界は何年だっけ?
今まであんまり年号とか気にしてなかったのを今更後悔する。
「ここからは私の顔が見られたら危険ですので、人がいる場所は避けたいのですが」
隣を歩くカリバは、今はローブに付いたフードを被っている。
その為、顔を見られることは今のところ無いはずだが、それでも万が一、ということもある。人が多い場所を避ける方が良いのは間違いない。でも一一
「人がいる場所避けたら出会いとやらは無いだろ」
とか言いつつも、内心はカリバに想い人などできて欲しくはない。色々と複雑。
「それもそうですけど……。あなたが適当に私と恋愛できそうな男見つけてきてくださいよ」
「んな事できるか! 俺はお前の好みなんて分からないし、そもそも男の良い悪いも分からないんだよ」
「なんかあるんじゃないですか? モテる男子の特徴、みたいな」
「特徴ねぇ……」
そりゃ当然無いわけではない。
他の人より何かが優れているから、モテる男には女が寄ってくる。
「うーん、まぁ一般的なのだと前にも言ったが、イケメンだったり、あとは金持ちだったり……」
「私、顔にときめいたことないって言ったじゃないですか。イケメンなんて分かりません」
「俺も分からん。いや、ざっくりとは分かるけど、イケメンにも色々いるしな。ま、直接イケメンを何人も見れば何か変わるかもしれないんだが、そうだな……まずは金持ちにしとくか。これならはっきりと分かりやすい」
「別にお金なんて無くてもいいんですけど、とりあえずはあなたの提案に乗ってあげましょう」
とりあえずは、で決めたことが恋愛に結びついたりするか? とは思ったもののここでまた何か言ったら面倒なことになりそうなので黙っておく。
「よし、金持ちだな。とすると、やっぱ街のトップの男とかになるんじゃないか?」
「街のトップは大抵女ですよ。ですが、トップとはいかないまでもその親族ならきっと相当なお金持ちでしょうね」
「じゃあトタースのお偉いさんに会いにいくか」
「分かりました。と言っても、どうやって会います? 普通に会ってくれるものではないと思いますが」
「それなんだよなぁ……」
会う方法は、ある。
俺の能力だ。これを使えば女を落とし、案内を容易にさせることができる。
だが、俺は今はこの能力をできれば使いたくはない。
封印まで考えたほどだ。結局はシスタに別に封印しなくてもいいと言われて封印はしなかったのだが、それでもやはりそう簡単に使っていいものだとは思わない。
けどなぁ。
使いたくないとか使いたいとか、そんな自分勝手な気持ちで前に進まないわけにはいかない。
ここで使わなければ、間違いなく金持ちに会うのが格段に面倒なことになる。
今使うことは決して駄目な使い方ではない。むしろ、使わない方が駄目だ。
だって、俺はこの世界で何かしなくてはならなくて、俺にしか出来ないことといったらこれくらいだから。
「ま、大丈夫だ。ただしこれから俺がやることに、今後頼ったりするなよ」
「あなたに何度も頼ったりする気なんて全くありませんから大丈夫です」
ニコニコと、それはもう嬉しそうにカリバは答えた。俺はちっともその類の笑顔は嬉しくないんだが。
「んじゃ、早速行くか」
そう言って俺はカリバより先にスタスタと歩き出す。
「ちょっと待ってください。行くって、場所は分かるんですか?」
「ああ」
ここがいくら昔の世界であろうと、俺が束ねた国の過去であることには変わりない。
景観は変わっているものの、一番偉い人間がどこに住みたがるか、くらいは分かる。
そう、それはきっと。
「あの城だ」
遠くにぼんやりと見える城を指さす。
俺が初めてトタースに来た頃にはあんな城は無かった。だが、違う城が同じ場所にあった。そしてそこに一番偉い人間が住んでいて、そいつを追い出して俺もまた、そこに住んでいた。
「確かにあれだけ大きなお城ならそうかもしれませんね」
「だろ?」
「何ちょっと自慢げになってるんですか。言っておきますが全然すごくありませんからね、あんなの誰でも分かりますよ」
「はいはいそうですか」
ツンツンしているカリバにもすっかり慣れた俺は、かつてのトタースのトップのいる場所へと、足を進めた。




