魅惑
「カプチーノ様、この街の長の居場所が分かりました」
「そうか、よくやった」
俺達がゆっくりと飯を食べている間、カリバはさっさと食事を済ませ、情報集めに行ってくれていた。
俺はそんな焦らなくていいと言ったのだが、今は一人になりたいと言ってすぐに飛び出してしまった。
どうやら萌衣の一言が、相当こたえたらしい。
だが、帰ってきた頃にはすっかりいつも通りのカリバになっている。
立ち直りが早くて良かった。
「どうしますか? 早速そこに行きますか?」
「そうだな、ダラダラとしててもしょうがないし」
「では、早速案内いたします。そこのちびっ子二人も、行きますよ」
「ちょっと待って! これ食べ終わってから!」
『美味しい』
「没収! はい、行きましょう!」
カリバは、ミステと萌衣の食べ物を取ってしまうと、襟首を掴みそそくさと歩き出してしまった。
こいつらが仲良くなるのは中々大変そうだな……。
レストランを後にし、しばらく歩くと見るからに金持ちそうな建物の前に着いた。
ベルサイユ宮殿だっけ? あれにそっくり。
「ここだな」
「はい。ここに、この街の長サオルがいます」
「フム」
さて、ちゃちゃっと終わらせてきますか。
俺は悩むことなく門番の元へと歩き――
「惚れろ!」
門番にウインクをする。
「おい」
「ひゃ、ひゃい! なんでしょう!」
「案内しろ、一番偉い奴んとこだ」
「わ、分かりました! すぐにご案内いたします!」
「よし」
とんとん拍子でサオルのところへと行く。
「お兄ちゃん凄いね」
「まあな」
そういえば、萌衣にこの能力を実際に見せるのは初めてだったな。
「ここです」
豪勢な装飾が施されている扉の前で女は止まる。
「ありがとう、もう大丈夫だ」
「はい」
女は、一度お辞儀をして、来た道を戻って行った。
きっとまた門番の仕事に戻るのだろう。
「さて、ここからが本番だ。入るぞ」
『男だったら どうする?』
男だったら俺の能力は使えない。
だが、男であってもやりようはいくらでもある。
「男だったら、お前らに協力して貰う」
『協力?』
「そうだ。男って生き物は、女に弱いからな」
コンコン。
「入れ」
ノックをすると、中から声が帰ってきた。
声だけでは、男か女か分からない。男にも女にもいそうな声だ。
さてどっちだ。
「失礼する」
しまった。
昔はこういう時は当然のように敬語を使っていたのだが、トタースでの生活が長く、いつの間にか敬語が使えなくなってしまっていた。
いや、まあいいか。
どうせ俺の方が権力が高くなるんだ。
相手を敬う必要は無い。
扉を押し、ゆっくりと部屋の中に入る。
「うっ……」
扉を開けた瞬間、あまりの眩しさに目が眩んだ。
なんて金だらけの部屋だ。壁も床も部屋中が金一色で覆われている。
「一体なんのようですか?」
「いや、ちょっとな」
男か。
女だったらウインクですぐに終わったが、男か。
だが、男なら男でいいさ。
「カリバ、ミステ、萌衣、ちょっといいか?」
小声で、サオルには聞こえないように話す。
「お前ら、全力でエロくなれ」
「は? 何言ってるのお兄ちゃん」
「いいからエロくなれ。別に性行為をしろとは言っていない。男を興奮させるエロいポーズでもして、あいつを性的に興奮させろ」
「嫌だよそんなの! ねえ、カリバちゃんとミステちゃんも嫌だよね?」
「いや、私はやります。カプチーノ様が望むのであれば」
「マジで!? じゃあミステちゃんは? ミステちゃんはどうなの?」
『私 そもそも まだ 子供』
「ばっかミステ、子供は子供で需要あるんだよ! お前もやれ、いいな?」
『需要 本当?』
「本当だ。むしろお前みたいな女でしか興奮しない男もいる。だからやれ、いいな?」
こくり。
「な、なんで頷くの! もぉ、なんで皆やるのさ。わたしは絶対やりたくないよぉ」
「頑張れ」
萌衣の肩に手を置き、ガッツポーズをしてやった。
「ほんと、最低の兄だよね。妹にセクシーポーズをやらせるって……」
萌衣は、そう言うと、はぁ……と一つ溜息をして、それ以上は何も言わなかった。
これは、了解したと思っていいのか?
「話し合いは終わったのか?」
「ああ、すまない」
さて、作戦開始だ。
「お前ら、やれ」
「了解です」
俺の言葉に頷くと、カリバは動いた。
よし。
こいつ、容姿はかなり良いからな。絶対男は落ちるはず。
……って、あれ?
え?
カリバはアホなのか?
今カリバがやっているポーズ。
それはもう、なんていうか、全くエロくない。
本人はセクシーポーズをやっているつもりなのだろうが、ギャグにしか見えない。
まさかカリバにこんな苦手分野があったなんて!
くそ! カリバは駄目だ。
ミステ、頼む!
「な!?」
お・ま・え・も・か!
ミステに至っては、なんていうか、もう何をやっているのか全然分からない。
それ何のポーズ? 鯱?
なんなんだよこいつらは!
なんでセクシーポーズができないわけ?
簡単なことなのに! 俺だってできるのに!
もう、残っているのは萌衣しかいない。
萌衣、お前が最後の希望だ。
萌衣、頑張れ!
萌衣の目をしっかりと見つめる。
アイコンタクトで、頑張れ頑張れ! とエールを送りまくった。
萌衣は、終わったら後で殺す、という凶暴な視線を俺に送った後に。
見事なセクシーポーズをやってみせた。
おぉ! 完璧だ!
にしても、なんでこんなに上手いんだ?
そうか! 萌衣のやつ、ずっとあの村で踊りをやってたから!
よし、これで男は落ちる!
「帰りなさい」
「はい?」
「ここは芸を披露する場所ではありません。帰りなさい」
冷たい声音で、サオルはぴしゃりと言い放った。
「いや、ちょっと」
なんとか反論しようとしたのだが、結局俺達四人は全員黒い服を纏った男に連れられ、外に追い出されてしまった。




