存在感
「随分歩いたな」
移動する前はギンギラギンに照っていた太陽も、あと少しで陰り始めそうだ。
「そうですね」
「そろそろ腹が空いてきたんだが、お前はどうなんだ?」
「お腹空く度に回復してるので、大丈夫です」
「なんだそれ! そんなこともできるんかよ!」
未来でカリバは1度もそんなことしてなかったぞ!
いやまぁ、そんなことする状況が無かっただけなのかもしれないけど。
「はい。空腹もダメージみたいなものですからね」
「そういうもんなんか。まぁ、いいや。じゃあそれ俺にも使ってくれ」
「えぇ……。その辺の木の実でも食べたらいいじゃないですか」
「冷たい! 神様なのに!」
「神なら優しいと思ったら大間違いです」
「そうかよ……」
仕方がないから次に見つけた木の実なりなんなりを適当に食べることにしよう。
さすがに毒が入ってたらこいつも回復してくれるだろ。
「というか、どこに向かってるんだ俺ら」
「どこというか、別にどこにも向かってませんよ?」
「……ん? え?」
「いやだから、どこにも向かってませんって」
自分の行動に、なんの疑問も持っていない感じでカリバは言った。
「だってお前、恋愛がしたいんだろ?」
「えぇ、そうですけど。だからと言って向かう場所はありますか?」
「いやあるだろ! 例えばほら、イケメンを見に行くとか!」
「イケメンですか。まぁ少なくともあなたはそうではありませんものね」
「余計なお世話だ!」
間違っちゃいないけど!
「あなたの顔は置いておいて、イケメンも何も私今まで人の顔を見てときめいたことがないんですよね」
「神だから、ってことか?」
「どうなんでしょうか。神であることが関係してるかどうかは私には分かりません」
「ほーん」
まぁ恋愛したことが無いんだから分からなくても無理ないよな。
ただ、恋愛が必要ない神にはイケメンとかそういうのを見極めるセンサーみたいなものが無い可能性も十分に有り得る。
「この世界を観察していた時、たくさんの男の人は見たのですけどね。いまいちピンと来ませんでした」
「実際に見てみると違ったりするかもしれないぞ」
俺がまだこの世界に来る前、生で声優のライブに行った時はそれはもう感動した。
動画で見た時は大したこと無かったのに、生で見たらこんな可愛い女性がいるのかと驚愕したものだ。
「んー。じゃあ実際に見ますか」
「それが1番手っ取り早いだろうな。だけど、お前全人類から命狙われてるんだっけ? まぁ、顔隠しときゃ平気か」
「うーん、一概には平気とは言えないかもしれません」
「どういうことだ?」
「私を殺すと予め思って行動していた場合、顔を隠していようが関係ありません。神特有のオーラというかですね、そういうものが分かってしまうんです」
「な、なんだそれ……。えーと、じゃあお前を襲ってた騎士とかは顔を見なくてもお前を襲えるってことか?」
「はい。ほとんどの人は、いくらこの世界に神が堕ちてきてるとはいえまさか近くにいるわけが無いと勝手に思っているので私を神だと顔を見なければ認識できないんですけど、狙っている人となると話は別なんですよね」
「随分と厄介だな……」
「はい。ですが私にはどうすることもできません」
「その、お前を探してる人ってのはお前からは特定できないのか?」
「残念ながら。しかし、そのような能力はありませんが、どんな人に襲われているのかはこの数日色んな人から逃げてきて、なんとなく分かりました」
「おっ、そいつは凄いな。一体誰なんだ?」
「この世界の代表の街って、どこだと思いますか?」
「どこって……」
俺はこの時代のこの世界のことをなんにも知らないから答えようが無い。
「答えられないのも無理はありません。無いんですよ。いや、正確には、どちらか決まっていない、というのが正しいのですが」
「というと?」
「ファストとノーワ、この二つの街です。これらの街のみ、国と呼ばれています。どちらが上とかどちらが下とかではなく、二国がほぼ同じくらいの兵力を持っていて、この世界最強の国です。こんなこと常識ですよ?」
ファストとノーワだと?
その二国は知っている。トタースが国になった時、その二国の国王を落としに行ったからだ。
思い返してみれば、あの時代もトタースが最強になるまではあの二つの国がトップだった。
今が何年前なのかまでは分からないが、この時代からずっと変わっていなかった、というわけか。
「ファストとノーワの両国は敵対関係にあります。そして、どちらも相手の国より有利に立とうと策略しています」
「なるほどな。それでその有利に立つ方法ってのが、お前の心臓か」
心臓さえ手に入れれば、簡単に相手より有利になれる。なにせ、どんな願いだろうと叶うのだから。
「はい。しかし、二国に狙われるのも悪いことだけではありません。その二国の武力が圧倒的すぎる為、他の人達はおいそれと神を探そうとは思わないんです。他の街は探す人数に勝ち目がありませんし、もし見つけたところで見つけたことがバレたらその二国に何をされるか分かりませんから」
「じゃあその二国を除いた所なら狙われる確率も低いのか?」
「どうなんでしょう。まだ色んな街を回った訳でもないですし」
「試してみる必要はありそうだな。まぁ何かあったら俺が守る」
弱いままだったとしても、どんな手を使ってでも。
「なんでそんないきなり恥ずかしいこと言うんですか? 口説いてるんですか?」
「そんなんじゃないっての。とりあえずはそうだな、街に行って異性と会うか。そうじゃなきゃ何も発展しそうにない。この近くである程度人がいる街ってどこだか分かるか?」
「うーん。この近くだとトタースですかね。なんの特徴もない極々普通の街ですが」
「トタースだって!?」
「はい。何か問題でも?」
「いや、問題っていうか……」
あそこは女しかいない街じゃないか。
……ってそれは俺がそうしただけであって俺があの街に来てまもない頃は男も普通にいたんだっけか。
「問題が無いならそこに行きましょう」
「ん、あぁ」
昔のトタースか。正直興味はある。
一体、どんな街だったのだろうか。




