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命の価値


木の上で何時間かやり過ごし、騎士が俺達を襲うのを諦めたことを確認すると、俺は彼女を背負って、人の少なそうな森の中心に来た。


しっかりと安全を確認してから、疲れていた身体を休ませる為、俺は地面に座った。

膝にカリバを乗せ、何をするでもなくボーッとする。

やっぱりこの女、 どう見てもカリバだよな。 俺が見間違えるはずがない。

1週間振りに会えたカリバの顔をじーっと見つめる。

ここが過去かどうかはまだはっきりとはしていない。

だが、カリバと会えたことだけは間違いなく事実だ。

その事実がたまらなく嬉しい。


「だ、誰ですか!」


カリバは突然瞼を開き、俺の姿を確認するや否やガバッと距離を置いた。


「やっと起きたか」


声を聞き、彼女がカリバであることを再確認すると、俺は優しい声音で声をかけた。


「だから誰なんですかあなたは! いや、今はそんなことより逃げるのが先です!」


そう1人で納得すると、カリバは走ろうとした。

俺は慌ててカリバの前に立ち、それを止める。


「落ち着けって、逃げる必要は無い」


「はぁ? 逃げるに決まってるじゃないですか」


ツンツンと、棘のある声音でカリバはそう俺を突き放す。


なんつうか、見た目も声も同じだけど、全然カリバと違う。本当にこいつはカリバなのか?


「安心しろ。俺はさっきの襲ってきた奴らとは違う。お前を襲う気は無い」


「さっきの? ……あっ……」


どうやら先程まで追いかけられていたことを思い出したらしい。


「あの……私を襲ってきた人はどこへ行ったのですか?」


先程のツンツンとした口調とは違い、純粋な疑問を俺にぶつけた。


「あいつなら、諦めて帰ってったよ」


「諦めた? 私を襲うのをですか?」


「あぁ。もうあいつがお前を襲うのは不可能だったからな」


これだけ木が多い森だ。俺を探すのは困難だったはずだ。それに、煙も大量にあったしな。

まあもっとも、片っ端から木を斬りまくられたりしたらいずれ見つかったかもしれない。

そこまでされなかったのは運が良かった。


「あの人が諦めるとは思えないのですが、あなたが戦って勝ったってことですか?」


「あー、まぁ一応そうなるかな」


逃げるが勝ちとも言うし。


「武器も何も持っていないし見るからに弱そうなのによく勝てましたね。あなた、強いんですか?」


「めちゃくちゃ強い……はずだ」


何故かさっきはちっとも勝てなかったけど。


「ふーん、あんまり信じられませんが……。それで、なんであなたは私を助けたんですか? 襲わないと言ってましたけど、本当に襲わないのですか? 頭おかしいんですか?」


「なんで襲わないと頭おかしくなるんだよ。別に誰かが殺されそうになってたら助けてもおかしくないだろ」


「普通ならそうかもしれません。でも、私ですよ?」


「私ですよって言われてもな……」


まるで、自分が殺されるのが当然だとでも言うようにカリバは言った。


「なんですかその反応。まさか、私の正体を知らないのですか!? そんなわけありません……。全ての人類が認知しているはずです」


「ん? あー、たしかお前神なんだっけ」


「知っているじゃないですか! なら、尚更私を襲わない理由が分かりません。無防備に寝ていたのなら殺すのには絶好のチャンスだったというのに」


「なんで神だからって殺さなきゃならないんだよ。別に神に反逆したいとかそういう気持ちは微塵も無い」


「何を言っているんです? あなたは私を神だとあの日認知したんですよね?」


「とりあえずお前が神だってことは知ってるが、それだけだ」


神が人間とどう違うのかまでは詳しく知らない。

一つ上の世界にいる存在だとかは大天使様が言ってたのを覚えているが。

あー、あと回復できるってことも知ってる。

カリバの回復には何度も世話になったし。


「そんなはずがありません。あの日全員把握したはず。そして私の命は喉から手が出るほど欲しているはず」


「どういうことだ? お前を殺すとなんか良いことでもあるのか?」


「その様子だと、本当にご存知無いみたいですね……」


有り得ないものを見るような目でカリバは俺を見つめる。


「なんだよそれ。何かあるなら教えてくれよ。助けてやったんだしさ」


「別に私は助けてくれとは頼んでません。あなたが勝手に助けたのでしょう」


「まぁ、そうだけど」


冷たい……。

助けてくれた相手にこの態度ってどうなのさ。


「それに、あなたが知らないなら知らないままの方が私にとって絶対に良いのです。だって、知ってしまったらきっとあなたは私を殺しますから。まぁもっとも、油断さえしていなければ私が殺されることはありませんが」


「お前のことを俺が殺す? 馬鹿言え、そんなことは絶対に絶対に有り得ない」


「なんでそう言いきれるんです? なら私も言いますけど、私を殺すメリットを知ったらたなたは絶対に私を殺す自信があります」


「いいや殺さないね。自信があるんだよ。たとえお前を殺すことで金銀財宝がっぽり手に入ろうが不老不死になろうがそんなの関係ない。俺にとっての幸福より、お前の幸福のが大事なんだよ俺は」


嘘偽りない気持ちを、カリバに伝えた。


「な、なに恥ずかしいこと言っているんですか! なぜあなたがそこまで言うのか全く分からないんですけど……。それで、さっき言ったこと、あれは全部本当ですか?」


「本当だ。あらゆる条件があろうと俺はお前を殺さない。お前が死ぬくらいなら俺が死ぬ。俺の命よりお前の命のが重い」


「な、なんでそこまで言うんですか。今日が初対面ですよね?」


顔を真っ赤にしてカリバは俺に訊ねる。

カリバに会ってから今まで色んな表情を見てきたが、こんなにリンゴみたいな顔をしたカリバは初めて見た。


「初対面、か。まぁ、そうだな」


遠い目をして、俺は答えた。


本当は、初対面どころか俺は結婚までしている。

けれど、それは今のこのカリバとじゃない。ここが本当に過去なら、俺とカリバの初対面はもっと未来の話だ。


「なんなんですかあなたは……」


「ただの通りすがりの一般人だよ」


「なんですかそれ、かっこいいと思ってるんですか? 大体、通りすがりの一般人は神を助けたりはしません」


「でも助けた。そして俺はお前を殺さない」


「はぁ……。分かりました。あなたを少しだけ信じることにします。というより、この世界の人間は皆私の命の価値を知っているのにあなただけ知らないのは不公平ですから、教えてあげましょう」


カリバの命の価値か。

そんなの教えられるまでもない。俺にとってカリバの命の価値は計り知れないほどに大きい。

たとえカリバの命にどんな意味があろうとも、俺から見た価値より絶対大したことなんてない。この想いは、負けない。


「あなた先程、不老不死になろうとも、と言いましたよね。それです」


「えーと……どういうことだ?」


「私を殺して私の心臓を食せば――人は不老不死になれます。いえ、不老不死に限らず、なんにでもなれます。なんでもできます。私の心臓は、あらゆる願いを叶えるのです」

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